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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第七十三章「フェイストゥフェイス」

 第七十三章「フェイストゥフェイス」


 ふと、セレトは、幼い頃から自分の顔が嫌いであったことを思い出す。

 別に極端に醜い顔というわけではない。

 ただ、陰気な空気を発するクマのある目。

 常に疲れが出た表情。

 それらが構成された、自身の表情が特に嫌いであった。


 皮肉なことに、彼が嫌っている自身の親、兄弟達は、比較的整った顔立ちをしていた。

 最も、美男子というわけではない。

 だが少なくとも自分のように、周囲に不快感をまき散らすような顔はしていないだろう。


 幼い頃、自身のこの顔は、いずれ変わっていくものだと信じていた。

 父親や上の兄弟達のように、戦場で戦い、精神と身体が鍛え抜かれていくことで、きっと良い方向に変化していくのであろうと思っていた。


 だが、自身が戦い、人を殺める度に、その顔、表情は、自身がより嫌悪する形へと変わっていった。

 そして、セレトが嫌う、今の自身の顔が誕生した。


 今、その忌み嫌った顔が、目の前にあった。

 鏡で何度も見たその顔が、今、確かに目の前に存在していた。


 「ひひひ!」

 あまりの衝撃で、息をのみ、動きが止まったセレトの後ろからユラの声が聞こえる。

 同時に、彼女が魔力の塊をこちらに放つのが視界に入る。


 「くそ!」

 同時に目の前のもう一人の自分がこちらに向けて動き出すのをセレトは確認をする。


 ぐちゃり。


 ユラが放った攻撃魔法と、目の前の敵が振るった刀が、セレトの身体を貫く。


 「舐めるなぁ!」

 だが、セレトは身体を黒い霧に変えながら、強引に二人の攻撃を受け流す。


 「その不愉快な面を消せええ!」

 そしてセレトは、目の前の自身と同じ顔をした存在へと呪術を込めた右手で襲い掛かる。

 決して万全ではない自身の魔力の大半を込め、目の前の存在、不快な存在を完全に消し去るべく動き出す。


 「おやおや。どうしましたかあ?けけけけ!」

 だが、そんなセレトに対し、ユラの笑い声が浴びせられる。


 ドス。


 そして、その声が届いた瞬間、鈍い音ともに衝撃がセレトを襲う。


 「?!ぐはあ!」

 口から叫び声を出したセレトの目は、自身の身体と衝撃の正体を捉える。


 その視線の先には、霧化をしたはずの身体が術を解除され実体を持ち、その身体をユラ達の攻撃が捉えている様子が見える。


 「ひひひ。無駄ですよ、セレトさん。貴方の手札は全て見えているんですよ。けけけけ」

 ユラは、笑いながら倒れたセレトに近づく。

 セレトは、そんなユラを睨みつける。


 コツコツコツ。

 同時に背後からは、自身と同じ顔を持つ刺客が近づいてくる。


 「悪趣味な物を使うじゃないか。ユラ。ヴルカルの部下だけはあるな」

 後ろの敵は、こちらの取った手段に的確なカウンターを取ってくる。

 そうなると、ユラのほうが多少なりとも突破できる可能性が高いであろう。

 そう考えたセレトは、無理やり身体を起こすと、ユラの方に身体を向け語り掛けながら隙を伺う。


 「おやおや。悪趣味とは。貴方が捨てた物を有効活用しただけですよ。ひひひひ」

 その言葉にユラは笑いながら応える。


 「捨てた物?」

 その言葉に引っかかりを覚えながら、セレトは、背後の存在に一瞬視線を向ける。


 刺客は、こちらに自身と全く同じ顔を向けている。

 最もその表情には、凡そ感情という物が感じられるものではなかったが。


 「あら?お気づきでない。なら、それはそれでいいでしょう。けけけけ」

 ユラは笑いながら、セレトに向けて魔力を放とうと術を唱え始める。


 「ちぃ!」

 ユラの術が発動すると同時に、セレトは、回避行動を行う。

 黒霧への変化は、既に破られている。

 故に下手な術を使わずに、自身の身体能力のみをもって逃げに入る。


 自身の足元に黒い炎が現れる。

 ユラの放った術であろう。


 発動まで間がある。

 十分に回避は可能であろう。


 「おや、逃げ切れるとでも?」

 だが、ユラは余裕がある表情で語り掛けてくる。

 同時に回避行動に入っていたセレトの足は、何者かに掴まれる。


 「くそ!」

 悪態をつきながら、その足を捕まえている存在、自身の影から伸びている黒い影の手に視線を向ける。

 そして、急に足を掴まれたことによりバランスを崩しながらも、セレトは解呪の術を唱える。


 完全に虚をつかれた一手ではあったが、影の手は、自身も使える術であり、原理は理解している。

 故に、解呪方法も当然に知っており、一瞬の足止めにしかならないものである。


 だが、この場では、その一瞬の足止めが十分に機能をした。


 「影の炎よ。焼きなさい」

 ユラの言葉と共に、その炎は一気に燃え上がり、セレトに襲い掛かる。

 足の拘束は解けたものの、一度動きを止められた身体を再度動かすことは難しい。

 セレトは、黒い炎を逃れることは出来ず、そのまま炎に身体を包み込まれる。


 それは、込められた術式により、セレトの身体に火傷ではなく、呪いを刻んでいく。

 呪いは、セレトの身体を重くさせ、同時に炎は、セレトの身体を爛れさせていく。


 最も、セレトは自身の身体を強引に再生させて、その術を耐える。

 耐えれない術ではない。

 呪いにも耐性はある。


 故に黒い炎が消えた時、本来であれば対象を完全に消失させる術にも関わらず、セレトは、生き延びていた。

 最も、その身体は傷つき、再生が間に合わないダメージが、彼の動きを封じていたが。


 「おやおや。これを耐えるとは。さすがですな」

 倒れたセレトを見下ろしながら、ユラは笑いながらこちらに語り掛ける。


 「そいつは、なん、だ?」

 弱りながらも、セレトは、ユラの横に立つ、もう一人の刺客を指差し問いかける。


 「さっきも言ったでしょ?貴方が捨てた物ですよ。ひひひひ」

 笑いながら、ユラは応える。


 捨てた物。

 その内容については、まだ分からない。

 だが、目の前にいる存在に全く心当たりがないわけでもない。


 魔力を基に、その持ち主、術者の模造品を生み出すような方法は、過去にセレトがリリアーナの襲撃の際に用いたシェイプシフターを始めとして多数ある。

 だが魔術師として、自身の力、知識の簒奪に繋がる、そのような術については、当然にセレトは警戒をしており対策も立てていた。


 故に、今目の前にいる存在が、自身の術と力を持っていることを理解しているが、セレト自身がその事実を受け入れることができずにいた。


 「おや、心当たりはありませんか?」

 ユラは、笑いながらセレトに語り掛けてくる。


 その言葉にセレトは、強い視線で睨みつけることでユラに応える。


 「そうですね。例えば、ある時、舞踏会帰りの聖女を襲った襲撃者。それは燃え上がり灰になったのですが、灰等に誰も価値を見出さなかったのでしょうね。故に魔力の残滓が染み込んだそれを簡単に収集ができました」

 笑いながらユラは、言葉を続けていく。


 「そういえば貴方のお屋敷に潜んでいた異形の者達。あれも、貴方の魔力を餌に生きていましたね」

 ユラの言葉は、止まらない。


 「そうそう。ラルフという男をご存知ですか?若い兵士なのですが、ある時、何者かに操られていたことがありましてね。ただその身体には、その操った者の魔力の残滓が残っていましたよ」

 すでに勝利を確信しているからであろうか。

 ユラは、こちらに止めを刺すことなく口を動かし続ける。


 「街の安酒屋でも面白い話がありましてね。酔っぱらったお貴族様を、よくわからない異形の者が連れて帰ったとか。その貴族が差し出した金貨にも魔力は込められていました。知ってます?金って持つ人の執着もあってか、所有者の魔力を吸いやすい傾向があるようですよ」

 彼女の表情は、笑みを浮かべている。

 最もいつもの笑い声はほとんど漏れない。

 だが楽しいのだ。

 セレトを屈服させ、後悔と屈辱を与えることに快楽を見出しているのである。


 ユラという女の、気狂いではない、その心の奥に秘められた冷酷な本質に触れていることに気が付いたセレトは、一瞬恐怖を感じる。


 「だが、それはあくまでカスだ。それだけで、本質を再現することなど出来はしない!」

 そんな恐怖を吹き飛ばすように、そして喋り続けるユラを黙らせるために、セレトは、大声で怒鳴り返す。


 アリアナ。

 自身の配下である彼女がこちらに戻ってくれば、この状況は打開できる。

 それまでの時間稼ぎでもる。


 「ふむふむ。おっしゃる通り。これらは、あくまで残りカス。貴方の言う通り、本質を再現すること等、出来はしないでしょう」

 笑いながら、ユラは楽しそうに応える。


 そしてその笑みが、一瞬、より強い物に変わり、彼女は、再度口を開いた。


 「だが、貴方と本質が似ている存在、それにこのカスを与えたらどうなると思いますか?カスであるが、これでも方向性を指し示すこと位は可能です。故に、それは、貴方に近づいていくと思いませんか?」

 笑いながらユラは、こちらに口を近づける。


 「クラルス王国で聖女を襲ったシェイプシフターの破片。手に入れるのに苦労しましたよ」

 そう囁き、ユラは笑う。


 クラルス王国の洞窟でリリアーナと戦った時に使った、替え玉。

 その身体は、確かに回収をしていなかったことをセレトは思い出す。


 だが、そう考えている裏で、セレトの傷は癒え、掛けられた呪いも解呪が終わる。

 今、チャンスさえあれば、一気に仕掛けられる。


 「あぁそうそう。私、この子がいまいち物足りないと思ってたんですけど」

 そんなセレトに対し、ユラは笑いながら、再度語り掛けてくる。


 「やっぱりあれですかね。中途半端な魔力じゃなく、本物を食べさせれば、少しはマシになりますかね?」

 そう言った瞬間、ユラと、セレトの顔をした敵が動き出す。


 「さあな」

 だが、セレトは、その動きを読み、一つの術を放つ。


 「あれ?」

 瞬間、ユラ達は、一気に弾き飛ばされる。

 大したダメージは与えられていないが、虚をつかれ、混乱をしている様子が見て取れる。


 その様子を見ながら、セレトは、動き出す。

 相手のネタは分かった。

 ならば、それに対応する新しい手札を切るだけである。


 内心に強い怒りと屈辱を感じながら、それを表に出さぬよう、セレトは笑みを浮かべた。


 第七十四章へ続く

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