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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間7

 幕間7


 「危ない!!」

 ロットの叫び声もあり、リリアーナは慌てて剣を持つ手に再度力を籠める。


 気を抜いたリリアーナ達の一瞬の隙をつき、暗殺者の周りに魔力が集められていた。

 そしてそれに気が付いた瞬間、暗殺者の首周りが爆発し、口を開いた男の顔がリリアーナに襲い掛かってきたのである。


 「やっ、やああ!」

 魔力で盾を展開するには間に合わないと判断したリリアーナは、慌てて腕をあげて剣でその首をはじき落そうとするが、その首が自身の身体を食いちぎるのを止めるには、彼女の反応はやや遅かった。


 やられる。と目の前に迫った生首を見つめながら考えていた彼女の目の前で、その首が横から伸びた刀で切り落とされる。

 破壊された首から、込められた魔力の残滓か緑色の炎が飛び散る。

 そのいくつかがリリアーナに当たり、少々の熱を感じさせるが、彼女にそこまでの傷を与えはしなかった。


 隣を見ると、ロットが震える手で刀を振り抜いた腕を労わっているのが見える。

 左肩にできた大きな刺し傷を中心に、ロットの体中が傷だらけのなのが見て取れるが、彼は、リリアーナを救えた安堵からか、ほっとした表情を浮かべて自身の刀を下ろし、息をつく。

 その様子を見てリリアーナも、今度こそ息をつく。


 ボン。と音がして、暗殺者の死体が緑色の炎に包まれたかと思うと、その体は、そのまま黒ずみ、灰となって消え去る。

 その死体は、重要な証拠でこそあったが、満身創痍な二人には、それを止める気力もわかず、ただただその過程を眺めているしかなかった。


 「手強かったわね。」

 誰ともなしにリリアーナは、呟く。

 どのような状況下に置かれながらも、常に素早い判断で彼女の命を奪うことだけに固執をしている暗殺者。

 自身が傷つくことも恐れずに襲い掛かってくるその様は、冷静になった彼女の思考に、その異様さを十分に刻み込みつつあった。


 「何者ですかね。」

 ロットは、ぼやくように疑問を口にする。


 リリアーナは、その言葉に返す言葉を持たなかった。

 先だって王宮での宴の後にリリアーナを襲った暗殺者(アサシン)についても、国の総力を挙げ、またリリアーナの家が属する教会派の貴族達を中心とした独自ルートを使って捜査を進めているようであったが、その結果は五里霧中に陥ってしまっていることは聞き及んでいた。

 未だに暗殺者を差し向けてきた者の正体、暗殺者達が属している組織、リリアーナを狙った理由。

 それらについても、未だに分からず仕舞いで、このまま迷宮入りをしてしまう可能性が高いことを、リリアーナはよく理解していた。


 王族の覚えが良く、順調に出世をしている軍人。

 はたまた、一大派閥に属する有力貴族の娘。

 聖女というシンボルとして、ある意味一つの崇拝の対象として教会に祭り上げられた少女。


 リリアーナのこれらの顔には、常にその場その場で多くの味方と、同時に同じぐらいの敵対者を生み出すだけの影響力があった。

 それゆえ、今回の暗殺の下手人が何者か、そしてこれまでの暗殺との関係の有無等、考えるだけある意味無駄なことでもあった。


 ふと気が付くと、周辺には多くの兵士達が集まり、リリアーナの部下や周辺に倒れている人物達の救命活動に取り掛かっていた。

 そのうちの一人の兵士、恐らく指揮官と思わしき男が、リリアーナとロットに気が付き、急ぎ駆け寄ってくる。


 「第三警備部隊長のラルフです。お二人は大丈夫でしょうか?」

 階級に不釣り合いな若々しい声をかけながら、兵士は声をかけてくる。

 リリアーナは立ち上がり、外傷を確認する。

 暗殺者の放った魔術や、戦いの最中に地面を転がりまわったためか、服装はボロボロで、所々に細かい傷こそあるものの、戦いの最中に治癒魔法を使っていたためか、致命傷となりうるものは見当たらなかった。

 最後に飛ばされてきた暗殺者の首が爆発する際にまき散らした炎で、右の二の腕辺りに少々広めのやけど負っているのが一番の傷のようにも思えた。


 一方のロットは、左肩を暗殺者が放った黒い刃に貫かれており、少々深い傷を負っているほか、身体の所々に刃物で切られたような跡や、炎で焼かれたような傷跡が残っていた。

 致命傷こそ避けているものの、それなりに手痛い傷を受けているようにも思えた。


 ふと、自身の部下の様子も気になり周辺を見直す。

 「お二人以外の人々も、命には別条はないようですよ。」

 そんなリリアーナに対し、部下の報告を聞きながら、ラルフが説明をする。

 「何名か地面に投げ出された時の擦り傷等はあるようですが、他に外傷はないようです。意識がない人達もヒーラーの簡易的な治癒魔法で意識を取り戻しているようですので、ご安心ください。」

 ラルフのそんな言葉を聞き、リリアーナは一息をつく。

 あの暗殺者が放った黒い霧は、そこまで毒性が強くなかったのであろう。

 そのように巻き込まれた人々の無事も確認できたことにほっとした瞬間、急に疲れが出てきたのか、リリアーナは軽い立ちくらみを起こしふらつく。


 「大丈夫ですか?」

 慌てて近寄ろうとしたロットより先に、ラルフがリリアーナの身体を支える。

 「お疲れでしたら、どうぞこちらに。我々の詰所になりますが、休憩スペースがありますので、こちらで少々お休みください。」

 正直、この様子では、すぐに帰るということも難しいであろう。

 そのことを考えたリリアーナは、ロットに声をかけ、ラルフの申し出に甘えることにした。


 ロットと共に、ラルフに案内をされた兵士たちの詰所の休憩室は、決して上質な空間ではなかったが、温かみのある暖炉のたき火と、気付け薬代わりに出されたブランデー入りの紅茶のおかげで、冷え切った身体を温め、大分快適な一時を過ごすことができた。

 部下達は、大事を取って近くの宿屋に開かれた緊急の簡易診療所にて怪我の様子を診てもらうことにしたが、今のところ重傷者は特にいない模様であった。


 そんなリリアーナとロットも、それぞれの傷の手当てを受け、今は戦いの疲れを癒しながら客用のソファーで体を伸ばす。

 しばらくすると、ラルフと、その上官らしい騎士が訪れ、リリアーナとロットに、簡単に事情を確認する。

 二人の話を聞いた騎士は、その場で少々考え込む様子であったが、長居をして傷を負った被害者貴族の不評を買うのを恐れたのか、何かあったらラルフに言うようにと話すと、そのまま立ち去っていった。


 「お茶のお代わりはいかがですか?お疲れでしたら、奥に宿直者用のベッドがあるので、あちらでお休みください。」

 ラルフは、聖女という一大VIPの世話を焼けることに、心底嬉しそうな表情をしながら甲斐甲斐しく二人の世話を焼く。

 「ありがとう。私は大丈夫よ。」

 「自分も大丈夫だ。手間をかけさせてしまって済まない。」

 リリアーナとロットが、それぞれの言葉で応えると、ラルフは、仰々しく了解の意を示すと、「何かあれば、ベルを鳴らしてください。」とだけ言い残すと、部屋の外に出て行こうとする。

 そんな彼をリリアーナは呼び止めると、自分の家に早馬を飛ばすようにお願いをし、その場で簡単に事情を記した手紙に封をすると、ラルフに預ける。

 ラルフは、その手紙を恭しく受け取ると、すぐに部下を呼びリリアーナの指示を伝えた。


 「奥の個室に、それぞれのベッドがございます。では、ごゆっくりお休みください。」

 ラルフは、そう話してドアを閉めた。


 二人残されたリリアーナとロットは、先程の襲撃について話そうとしたが、戦いの疲れはすさまじく、お互いに睡魔に襲われ、まともな話合いになりそうもなかった。

 「明日の朝話しましょう。」

 リリアーナはそう話し、奥の部屋に入り、そこにあるベッドに横にある。

 一般兵士用のベッドは、自分の寝室のベッドより固かったが、兵士として前線に出向いた際の簡易ベッドよりは十分にマシであった。

 そして戦いで疲れ切った体は、そんな布団の状態等が気にならないかのように、リリアーナを眠りに誘った。


 次の日、目を覚ましたリリアーナは、部下達ともに、軍部のお偉いさん、貴族の知り合いたちに、昨晩あった襲撃の内容を何度も説明し、現場の検証に付き合った。

 もっとも、犯人に結び付きそうな手掛かりはほとんど見つからなかったが。


 敵が使用していた武器は、魔力で生成をされものであるため、痕跡も含めて何も残っておらず、護衛の騎士や門番、他の通行人等、あの時周りにいた者達は、あの黒い霧で昏倒し事件の様子については、何も分からないようだった。

 ただ、リリアーナと戦う中で、傷を負った相手の血が、地面に染み込んでおり、土と一緒にであるがその採取に成功したことと、リリアーナ達の証言から、相手が恐らくシェイプシフターという百面相の魔獣を操り、暗殺に臨んでいた可能性があることだけは判明した。

 本来、シェイプシフターは、多少の魔力こそ身に宿しているものの、昨日のように戦いの中で自由に使えるほどの能力は持っておらず、それゆえ昨晩の刺客であったあの個体は、外部から何らかの干渉が受けている可能性は高い模様であった。

 もっとも、リリアーナが知りたいのは、倒された使い魔ではなく、それを操っていた主と、自身の暗殺を望んでいる者の正体であったので、そのような情報には、そこまで興味はなかったが。


 そして事件が起こってから二週間後。

 リリアーナは突然倒れた。

 王宮に呼ばれ、城下町を歩いている途中に体調を崩し、そのまま道の真ん中で倒れ込んだのである。


 すぐに周囲にいた部下達に助け起こされ、屋敷に連れて帰られた彼女は、自室のベッドで寝かされて回復を待つ身となった。

 右の二の腕を中心に、体の節々が熱く焼けるように痛んだその病は、日々多数の医者やヒーラー達が彼女の回復のための手助けを行うが、一向に治癒する気配がなく、彼女の関係者達に衝撃を与えるのであった。

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