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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第七十章「魔術師の逃避行」

 第七十章「魔術師の逃避行」


 「行く先に、あてはあるのですか?」

 揺れる馬車の中、アリアナはセレトに問いかけてくる。


 「あぁ」

 短く、視線を外に向けながらセレトは応える。


 リリアーナとの戦闘から、既に一週間の日が経過しているが、セレト達は、まだハイルフォード王国からの脱出ができていなかった。 

 あの戦いで予想以上のダメージを負ったセレトは、国内の包囲網と手配もあり、アリアナと共にハイルフォード王国内に用意をしてた一つの隠れ家にて傷を癒すことに専念をせざるを得なかったのである。


 「どちらでしょうか?」

 アリアナは、御者の方を気にしながら、自分達二人だけの馬車の中、声を潜めて問いかけてくる。


 「フリーラス共和国だ」

 セレトは、その問いに吐き捨てるように応える。


 「フリーラス?あの小規模都市が乱立している共和国ですか?」

 アリアナが若干驚いたような表情を浮かべて問い返す。


 「あぁ。手持ちの資産も多くないからな。あそこなら潜り込みやすいし、一度入国すれば、ほとぼりを覚ますまでの時間は稼げるだろう?」

 そうアリアナに応えながらも、自分自身に言い聞かせるようにセレトは、その言葉を放つ。


 「それは、そうですが。しかし、フリーラスですか…」

 アリアナは、そんなセレトに対し不安そうな表情を向ける。

 その表情に応えることなく、セレトは馬車の外の流れる景色を眺める。


 アリアナの不安については、セレトもよく理解していた。


 フリーラス共和国。

 複数の小規模国家が大国に対抗するために同盟を結び生まれた国家と言えば聞こえがいいが、その実態は、同盟国内での権力者同士の主権争いにより無政府状態の一歩手前となっている崩壊寸前の国。

 当然、それゆえに国家の治安は悪く、少なくとも定住先として落ち着いた生活等は望めないだろう。

 だが、フリーラスは、そのような状況故に密入国をしやすく、訳アリの人物が一定期間身を潜めるには、打ってつけの環境であり、部下も後ろ盾も失ったセレトが再起を図るために選ぶ逃亡先としては申し分がない選択肢ではあった。


 「全て失った負け犬には素晴らしくお似合いの場所じゃないかね?それに、あそこならあの忌々しい聖女様も早々訪れないだろうしな」

 自嘲するように話しながら、セレトは一つため息をつく。


 そう、フリーラス共和国を逃亡先に選ぶもう一つの理由。

 それは、ハイルフォード王国との非友好的な関係があった。


 フリーラス共和国は、常に領土の拡張を狙うハイルフォード王国との小競り合いを繰り返しており、多少の商業的な繋がりこそあるものの、国家としてはほぼ没交渉となっている。

 そして、その小競り合いにおいて、ハイルフォード王国において何度も出兵の指揮を執っていた将の一人がリリアーナであった。

 故に、共和国側は、リリアーナの動きを非常に注視しており、そのような場所に攻め込むならまだしも、共和国内に忍び込むということは、さすがにリリアーナでも難しいであろう。


 それに対しセレトは、幸いにもフリーラス共和国方面への出兵には参加したことがなく、共和国方面に顔が売れていない。

 つまり、正体を隠したまま、再起の時を持つことは充分に可能であろう。

 また、フリーラスとハイルフォードは、小競り合いをしているものの、ハイルフォードから亡命をした人々が、フリーラスに逃げ込んでいることも多く、ハイルフォード王国の没落貴族である自分が逃げ込んだとしても、そこまで悪目立ちはしないであろう。


 「あぁそうだ。これを使って次の街で入国の準備を整えておいてくれ」

 そういいながら、セレトは懐を漁り、手元に残っている中で特に粒が大きそうなダイヤをアリアナに渡す。


 「いくら他国からの旅行者に警備が緩いと言っても、それなりの手続きは必要だからな。適当に入国に使えそうな旅券の準備を頼む」

 セレトからの説明にアリアナは、無言でうなずく。

 だがその表情は、自身の主からの指示であるからには従うものの、納得をしていない様がありありと見えていた。


 「フリーラスは、ハイルフォード王国に近すぎると思いますが、大丈夫でしょうか?」

 そして口を開いたアリアナは、気が重い声で、こちらに対する意見を述べる。

 それを聞き流しながら、セレトは頷き、先を続けるように促す。


 「あの国は、今でもハイルフォード王国との全面戦争に突入するリスクがございます。もしそのようなことがあれば、それが切っ掛けで、こちらの存在や場所が、王国側にばれるリスクも高いですし…」

 言葉を選びながら、アリアナは、こちらに語り掛けてくる。

 最も、彼女がこのような言葉を発している本当の理由は、別にあるであろうことをセレトは、薄々感づいていた。


 「それにフリーラス共和国には、私の名と顔を知ってる者がいる可能性もありますので、内密の潜伏場所としては、あまり適していないかと思います」

 そしてそんなセレトを前に、アリアナは、諦めた様な表情で、その懸念を口にする。


 「なるほどな」

 セレトは、短く答えると一つため息をつく。

 アリアナの故郷、ワッサッルー地方とフリーラス共和国には、過去に繋がりがあったのは確かであった。

 そして彼女の故郷が滅ぼされた際、生き残った人々の一部がフリーラス共和国に流れていったことも事実である。

 氏族同士の争いが激しかったあの地方の生き残りの中には、彼女と敵対していた者も多いであろうし、アリアナも自身が生存してることを隠している以上、その存在がばれる可能性がある場所に行くことを望まない気持ちもよく分かった。

 だが、その程度の理由は、セレトにとってどうでもいい話であった。


 「だがなアリアナ、俺の目的のためには、あの国が最も適してるんだ」

 彼女から目を逸らし、セレトは呟くように応える。


 「目的?再起のためでしたら、他にも手段があるかと思いますが…」

 セレトの言葉に、アリアナは、無駄と知りつつも言葉を放つ。


 「これさえなければな。いくらでも方法はあるんだがな」

 そんなアリアナに対し、セレトは、忌々しい表情で自身の心臓を指差す。

 服の上からでは分からないが、その下、心臓の部分には、十字架のような刻印が刻まれている。


 先の戦いでリリアーナにつけられたその刻印は、今は発動していなかったが、未だ解除されておらず、今後のセレトの動きを縛る可能性もある以上、早々に何らかの対策が必要であった。

 そのためには、必要以上、王国やリリアーナと距離をとることは得策であるようには思えなかった。


 そしてリリアーナは、自分の力が欲しいと言っていた。

 その言葉に偽りがなければ、そのうちに向こうもこちらに接触を試みてくるだろう。


 その時に、彼女が刻んだこの刻印を確実に解除する。


 「もう一度掴んでやるよ…」

 そして、リリアーナへの復讐を決意し、セレトは呟く。


 馬車は、変わらずにノロノロと街道を進んでいた。


 第七十一章へ続く

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