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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間67

 幕間67


 「北部方面に送った部隊、全滅をしておりました」

 北部方面へ出撃し、調査を終え王国に帰還したリオンは、碌に休む暇もなく呼び出された部屋で、淡々と状況報告を行う。


 「やはりセレトの仕業か?」

 報告を受けた男は、苛立ちが混ざった表情で、不機嫌そうに問う。


 「いえ、恐らく異なるかと思われます。フォルタス将軍。セレトがやったとするには、規模が大きすぎます」

 リオンは、その問いかけに対し頭を上げて応える。


 「ほう。なら、誰がやったと思う?ヴルカルか?」

 フォルタスは、そんなリオンの言葉に、より顔をしかめながら更に問いかける。


 「ヴルカルですか?いや、それも無いかと思います。彼に付き従った部下の数と質では、あれだけの部隊を片付けられないでしょう。それに…」

 否定の言葉を返しながら、リオンは一瞬口を止める。

 ここから先の言葉は、自身の中にある憶測の部分。

 扱いには慎重になるべきではあった。


 「それに?では、ヴルカルでもセレトでもなければ、それは誰かね?我が国に仇名す者が、これ以上いるなんて、考えたくもない物だが」

 だが、そんなリオンに対し、フォルタスは、言葉を続けるように催促をする。

 その表情は、非常に強い苛立ちが見えており、これから、その苛立ちをより強くするであろう言葉を発するリオンの胃を痛めていた。


 「調べたところ、一部の死体は、何らかの魔術で腐食をしておりました。また、全滅した部隊の状況を見るに、恐らく大規模な、部隊同士の戦いがあったものかと思われます」

 それゆえ、リオンは、相手の表情を見ながら慎重に言葉を選び、発する。


 「ほう。そうか」

 フォルタスは、リオンの言葉を受け、一息をつく。


 「ふざけるな!」

 そして、そのまま爆発をした。


 「大規模な部隊による襲撃だ?ヴルカルでも、セレトでもない第三勢力の介入だと?!」

 フォルタスの声は、単語ごとに苛立ちを増し、声量も大きくなる。


 「くそ!今、国内で正規部隊に喧嘩を売れるような馬鹿は、その二人ぐらいだぞ!?その、負け犬二匹だけでも面倒なのに、更にゴキブリが混ざっているというのか?!お前は?」

 バリン。

 フォルタスが怒鳴りながら振るった腕にあったたワイングラスが、中身をぶちまけながら壁に当たる。

 割れたグラスが撒き散らしたワインが生み出すシミを見て、リオンはため息をつきながら、掃除の手間を考える。


 「どいつだ?どこの馬鹿が紛れ込んでいる?」

 フォルタスは、一際大きな声で怒鳴ると、肩で息をしながら黙る。

 どうやら言いたいことは、粗方言い終えたようである。


 「ある程度の部隊、戦場の状態から、一人思い当たる人物がおります」

 この隙に、面倒な報告を終えて、さっさと立ち去るのが定石であろう。

 そう考えたリオンは、若干早口で、フォルタスに語り掛ける。

 そんなリオンに対し、フォルタスは、先を促すように首を縦に振る。


 「腐敗将軍ヴェルナード。クラルス王国での武勇が高いあの男と、その部下であれば可能かと」

 促されたリオンは、意を決し、一気にその名を応えた。


 さて、ここからは一種の賭け。

 ただでさえ、お飾りで苛立ちやすいフォルタスの事である。

 セレトとヴルカルの両名で、頭を痛めているところに出た、新たなトラブルの存在は、そんな彼の頭痛を、より強くすることには間違いはなかった。


 「ヴェルナード?あのクラルス王国の将軍か?」

 フォルタスは、一瞬黙りこむと、確認をするように淡々と問いかけてくる。


 「はい。左様でございます」

 そんなフォルタスの発言を、厳かにリオンは、肯定する。


 「そうか。あの男か」

 フォルタスは、一息をつく。


 一瞬、室内に静寂が広がる。


 「ふざけるな!」

 そして、その静寂はあっけなく破られる。


 「クラルス王国とは、現在休戦のため、和平の交渉中だぞ!そんな中、こちらに戦闘を仕掛けてくる馬鹿がどこにいる!」

 案の定、フォルタスの処理能力を超えたらしい。


 一気に爆発したフォルタスは、その後も、口から色々と愚痴を言いながらリオンに向けて口から泡を飛ばす。


 「いや、おっしゃる通りです。ただ、あちらの国も必ずしも一枚岩ではないらしく」

 そんなフォルタスが、息を吸うため言葉を止めた瞬間にリオンは口を挟む。


 「どうも、一部の戦闘の継続を望む勢力が、そのような工作活動を行っているという噂がありまして。また、私が放った手の者からの報告ですが、ヴェルナード自体、現在部下と共に国外へ出ているようですが、その行方は抑えられておりません」

 そして一気に、こちらが伝えたい言葉だけ述べる。


 「つまり、奴は今こちらで暴れている可能性が高いと。そう君はいうのかね?」

 苛立ちを過分に混ぜながら、フォルタスは、リオンに言葉をかける。


 「あくまで可能性ではありますが、様々な状況を鑑みますと、無視はできないかと」

 どうせ、何を言ったところで、フォルタスの機嫌は直らないであろう。

 だが必要以上に苛立たせる必要もないため、リオンは、フォルタスの気持ちを抑えるように、低姿勢で淡々と答える。


 「奴が、こちら来る理由はなんだ?二国間の講和が気に喰わないというだけではあるまい」

 そんなリオンの態度が功を奏したのか、フォルタスは、少し落ち着いた感じで問いかけてくる。


 「あくまでの噂ですが、どうも先の戦いで、セレトと戦ったことがあるようで、そこで取り逃した彼を今でも追っているという噂がありますが、さて」

 ガチャン!

 リオンの言葉は、フォルタスが投げつけてきたのは、ワインの瓶によって遮られる。


 「もういい。あいつは、そこまでの疫病神というわけか?くそが!」

 怒りに任せた態度で、フォルタスは、怒鳴り散らす。


 「所詮は、ヴルカルの腰巾着か何かと考えていたが、くそ!あいつの存在が全てが狂わせやがる!」

 その怒鳴り声は大きいが、言葉はリオンに向けられておらず、ただただ、フォルタスの怒りの発散となり、部屋中にまき散らされる。


 「ろくでもない下賤の出が、ここまでこの国を狂わせる?!無駄に力だけを持ちおって!くそ、ふざけている!くそ!くそ!くそったれ!」

 怒鳴り続けるフォルタス。

 その手は、すぐ近くのワインの瓶、年代物の高級品に向けられている。


 「だが、奴の力を、まだ利用する術はございます」

 これ以上、貴重な酒を無駄に消耗することも馬鹿臭い。

 そう考え、リオンは、フォルタスが酒瓶を握る前に声を上げる。


 「はっ?あの疫病神をどうするというんだ?」

 フォルタスは、リオンの言葉に反応し、動きを止める。


 「彼が残していった、玩具があります。それはきっと、将軍、貴方の役に立つでしょう」

 リオンは、笑みを浮かべフォルタスに対し自身の手札を切る。


 賽は投げられた。

 フォルタスは、こちらに猜疑心と興味がり混じった表情を向けている。


 「一つ、強大な手駒を増やしてみませんか?将軍?」

 自身の価値を最大限売り込めるか否か。

 リオンは、手持ちの札の価値を最大限に活かすべく、フォルタスとの交渉を始めた。

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