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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間66

 幕間66


 「ススメ!ススメ!!ス・ス・メ!!」

 耳元で声が響く。

 同時に、ロットの頭の中に行くべき方向が浮かぶ。


 「イソゲ!急グンダヨ!」

 耳元の声は、騒がしく、ロットに語り掛け続ける。


 「黙れ!黙るんだよ!」

 その耳障りな声に対し、ロットは怒りを表す。


 瞬間、耳元の声が消え去る。


 そして訪れた静けさの中、ロットは頭に浮かぶ指示に従い先に進む。


 「っ痛!」

 同時に身体中に走る痛みに顔をしかめるが、身体の動きは止めない。


 「北ダ。モット左ダヨ。クケケケ」

 しばらくすると、また耳元に声が響く。


 その声に辟易としながらも、ロットは走り続ける。

 身体は、とっくに悲鳴を上げており、生身の人間とは思えない動きを続ける。

 だが、それでもロットの身体は、動き続ける。

 同時に出発前にユラに言われた言葉が頭をよぎる。


 「あらら。大分距離が離れておりますね」

 いつものように、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、だが、その表情と声は、いつも違い、どこか冷たく、ユラはロットに語りかける。


 「リリアーナ様の場所ですよ。いやはや、これじゃ間に合わないですかね」

 焦るロットに対し、ユラはどこまで余裕を持った態度で応えてくる。


 「ははは。いえいえ助けますよ。えぇえぇ。貴方の手助けのために力を貸しましょう」

 そう言いながら、ユラは、ロットの身体に魔術をかける。


 何の魔術か分からないが、既に満身創痍のロットは、笑いながら術を唱えているユラを止めることはできず、為すがまま、彼女からの術をその身に浴びる。


 「あぁこれは、貴方の身体に力を与える物ですよ。くくくくく。限界を超えてね。けけけけ」

 笑いながら、ユラは、ロットに魔力を与え続ける。


 「これで大丈夫。あぁ聖女様までの場所は、これで、教えましょう。ひひひ」

 そして、ユラは、最後にロットの頭に手を当てると何か術を唱える。


 その後、気が付いたらロットはただただ走り続けていた。

 時折頭の中で流れる声に従い、自身の主の下へと急ぐ。


 「急ゲ。時間ハナイゾ」

 頭に声は響き続ける。

 だが、それに応える気力は、既にロットにはない。


 今はただ、リリアーナの基に駆けつけ、彼女に害を為すものを倒し、彼女を助け出すことだけしか考えられなかった。


 幸い、ユラが与えてくれた力は、明らかに身体への負担こそ大きかったものの、強大な力を与えてくれているようであった。

 実際、身体中を走る鈍痛と引き換えに、その一歩、一歩の力強さは増し、また既に凄まじい距離を移動しているはずなのに、その体力にまだ限界は感じなかった。


 間に合う。


 どこかから感じる、リリアーナの魔力に向けて力の限り進みながら、ロットはより思いを強く念じる。


 瞬間、身体に新しい力を感じる。


 背中に違和感が発生すると同時に、ロットは、自身の身が軽くなるような錯覚を覚える。


 足が地面を踏み込む力は、変わらぬはずなのに身体が地面から離れている時間を長く感じるようになる。


 「急ゲ。アレハ、オ前ヲ、待ッテハクレナイ。ヒヒヒヒ」

 同時に、耳に声が響く。

 先程まで耳障りだったその声も、今は、どこか心地よく感じる。


 そして、ロットの身体全体に、魔力が染み渡る感覚が広がる。


 そのままロットは、身体が宙に浮くような感覚を感じる。


 ただ、そんなものは既にどうでもよかった。


 「リリアーナの下へ、急ぐ」

 その思いだけで、身体中の力を動員する。


 「あの人の下へ、彼女のモとに、急ぐ、いソゲ、俺ハ、オれハ」

 力が身体から溢れると同時に、頭の中で、一つの思いだけが強くなっていき、他の思考を塗りつぶしていく。


 「オレハ、俺は、ワタしハ、アぁ、リリアーナ、アァァァァッァアアア!」

 そして、ロットは一声叫び、リリアーナの魔力を感じる場所へと飛び立った。


 「クククク。健気だねぇ。ククク」

 そんなロットが去った場所で、その行方を目で追いながらユラの眼である黒いアサシンは、笑い続ける。


 「まあ、その気持ちに免じて、約束は守りましたよ。ロット様。ヒヒヒヒ」

 既に、誘導は済んだ。

 これ以上、アレを追う必要もないと考え、アサシンは、足を止め笑い続ける。


 ユラの化身であり、ユラの仮初の身体の一つでもあるアサシンを通して見える景色を見ているユラは、非常に上機嫌であった。

 そしてその気持ちを受けたアサシンの笑い声は止まらない。


 「さて、全てを投げうった騎士様は、その望みを叶えられるか。ククク」

 既に肉眼で捉えられないぐらい離れたロットに対し、アサシンは、ユラと共に笑いながら幸運を祈る。


 「それとも、得た力で破滅となるか。ククク。聖女様が気づいてくれるといいですな。ククク、ヒヒヒヒッヒッヒッヒヒヒヒヒ!」

 堪えられなくなったのか、アサシンの笑い声が強くなる。


 「過ぎたる力は、身を滅ぼすだけですよ。ロット様。ヒヒヒヒ」

 そう笑ったアサシンの眼に映った、ロットの姿は、四枚の翼を生やし、無数の様々な手足を生やした異形の者となっていた。


 人ならざる身であるからこその動きと速さで、ロットは、ただひたすらにリリアーナの下へと向かっていた。

 彼女を救い、その敵を打ち滅ぼすために。


 「はッハ、リリアーナ、ォオォオ」

 口から漏れるような音、ほとんど言葉にならないような声を出しながら、ロットは、何の疑問すら感じずに、ただひたすらに飛び続けた。

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