幕間65
幕間65
「おやおや。逃がしてしまいましたか。くくく」
ユラは笑いながら、目の前にいる者達に向けて、笑みを浮かべる。
最も、その笑顔から漏れ出る笑い声には、明らかな侮蔑の色が見えていたが。
「腐っても、場数は踏んでいる奴だ。油断したつもりはなかったが、奥の手の数を見誤ったな」
そんなユラに対し、特段怒りを見せすこともなく、詰まらそうな表情を浮かべてクルスは応える。
「まあ、貴方に限ってないとは思いますが、やはりご子息への情でもあったのですかね?」
ユラは、クルスの言葉を聞き流すように別の問いかけをする。
「ふざけるな!あれにかける情等、元より持ち合わせてはいない!」
最も、その問いは、クルスにとって地雷であったのだろう。
ユラへの回答は、クルスの怒声であった。
「おやおや。そんなつもりはなかったのですが。おや?いやいや失礼いたしました。きひひひ」
そんなクルスに対し、わざとらしい笑みを浮かべながらユラは応える。
同時に、自分に向けて殺気を向けてきたクルスの部下、ネーナとグロックにも笑みを向ける。
「ふん。あんたも自身の主を逃したじゃないか。手心を加えてやったのは、どっちやら」
ネーナは冷たい目を向けながら、ユラに言葉を吐き捨てる。
「それにお前に何かを言われる筋合いはないな。ユラ様よ。俺達は、別段お前の配下ではないしな。それにこの作戦は、お前の主導だろ!」
グロックは、苛立ちを隠すこともせず、ユラにそれをぶつけるかのように話す。
「うーん。それは誤解ですねぇ。私の目的は目的。貴方達の目的と近いところもありますが、私には、私の考えがあり動いておりますからねぇ。けけけ」
笑いながら、ユラは二人に応える。
最も、その話し方には、まともに会話をする意思があるようには思えなかったが。
「まあいい。我々は、本国に戻る。報告も必要だしな。貴公はどうする?」
クルスは、そんなユラに対し、めんどくさそうに問いかける。
「おや?聖女様はどうするので?」
そんなクルスに対し、ユラは、芝居かかってはいるが心配そうな声で応える。
「聖女様?それこそ、我々には関係のない話だ。貴公の言葉を借りるなら、私には、私の考えがあり動いているに過ぎないからな」
だがクルスは、ユラの言葉をつまらなそうに切り捨てる。
「あらら。貴方達の戦いに巻き込まれた被害者でもあるのに、お気の毒に」
ユラは、クルスの言葉を受けてワザとらしく溜息をつきながら言葉を返す。
「けっ!聖女様の保護もお守りも俺たちの仕事ではない!こっちは、セレトの始末に来ただけだぜ!」
だが、そんなユラの言葉に対し、グロックが横から怒りの声を上げる。
「いえいえ。私は、貴方達の責任を問うつもりなど、毛頭もございません。ただただ、聖女様を不憫に思ったが故の言葉ですよ。けけけ。まあ気分を害したならお詫びいたしますが。くくく」
しかしユラは、慇懃無礼な態度でグロックの言葉に応える。
「ふん。白々しい。そんなに聖女様が心配なら、貴方が放った、あの子に任せておけばいいじゃないの?」
瞬間、ユラを難詰するように、ネーナが唐突に口を開いた。
「あの子?はて、なんのことですか?」
ユラは、わざとらしい笑みを浮かべながらネーナへと視線を向ける。
「はっ!気が付いてないと思っていたの?ロットだっけ?あの聖女様の子飼いの犬をけしかけたのは、貴方でしょ。それで、あの王子様は、お姫様を助けられる算段はあるの?」
そんなユラに対し、呆れた様な感じでネーナは応える。
「あぁ。ロット様のことですか?いえいえ、彼をけしかけてなどいないですよ」
笑いながら、ユラはネーナに語り掛ける。
「ただ、少しだけお力を貸すことにしましたがね。まあこの身体なので、できることなど限られておりますが。くくく」
ユラは、笑いながら、自身の切り落とされた自身の腕を見せながら、言葉を続ける。
「まっ好きにしたまえ。君は君の仕事、私には、私の仕事があるだけの話だ」
そんな二人の様子を見ていたクルスは、会話は終わりと言わんばかりに、一方的に話すと立ち上がると、その場から離れる。
「あんたも自身の主を追ってみたら?」
ネーナは、捨て台詞を吐き立ち去る。
「あのバカな、お坊ちゃんを利用してどうするつもりだか」
グロックは、独り言のように呟きながら歩きだす。
ガチャリ。
ドアが閉まる音共に、ユラ一人を残して、部屋から皆、退室をする。
「いやはや。困りましたね」
そして、誰もいなくなった部屋で、ユラは、一人呟く。
「この身体では、碌に動けないのですがぁ。まあどうしますか」
呟き続けながら、ユラは、自身の断たれた腕を見て笑みを浮かべる。
「しかし、セレトをこのまま見逃すとは、本気かね?クルスさん。貴方の息子、思った以上にやっかいな存在になりそうですがねぇ。くくくく」
そう笑いながら、ユラも立ち上がる。
「哀れな王子様は、お姫様を助けられるか。いや、そもそも、お姫様が助けを求めるのか。まあ楽しみですねぇ。きひひひ」
そのまま歌うようにユラは笑い続ける。
「さて、貸した力は役に立つか、どうなるか。まあ見物ですね。くくく」
笑いながら、ユラは、遠見の魔法を使い始めた。




