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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第七章「楔を打つ」

 第七章「楔を打つ」


 舞踏会。

 それは、先の戦の功労者を中心に集めて、先日の宴とは違った方向からの慰安を兼ねた催しであった。

 もっとも、先日の宴が多くの者を集め、その労を一概に労わる趣旨だったのに対し、今回の舞踏会は、政治的な結びつきが強い者同士の交流を深めるという趣旨が強いものであったが。

 その証拠に、先の宴で呼ばれていた者の中でも、招待をされていない者もおり、また先の宴で呼ばれていない者であっても招待をされている者もいる。


 聖女リリアーナは、当然のように招待されていることは市井の話題となっており、他にも様々な有力貴族の子弟、子女、そしてある程度の政治力を持った商人の関係者、軍部のお偉い様等の参加が話題となっていた。

 そして魔術師であり、多くの者に嫌われているセレトは、当然のようにこのイベントに招待されていなかった。

 最も、自身の嫌われっぷりをよく知っているセレト自身も、この催しにそこまで参加したいとは思っていなかったが。


 そんな舞踏会の前日。セレトは、この催しを利用しリリアーナの暗殺を進めるべく準備を進めていた。

 勿論、会場に直接入るという愚は犯さない。

 自身とリリアーナの不仲は、広く公の事実として知れ渡っている話であった。

 もし自身以外の者の手によって、彼女に害が与えられた際でも、まずセレトが上位の容疑者としてあげられるだろう。


 そんな状況であるからこそ、セレトは、可能な限り自身の痕跡を残さぬように準備を進めていく。

 今も舞踏会の会場から遠く離れた街の片隅に、魔術を込めた呪符を設置しながら、セレトは、自身の作戦に不備がないかを再度見直す。

 もちろん、急遽立案した作戦には、多数の穴があることを、セレトはよく理解していた。

 それでも彼は、その穴を少しでも埋めるべく、今も部下に指示を出しながら動き回っていた。


 「旦那、頼まれた仕込みの方、無事に終わりましたよ。」

 準備を終え、屋敷の自室に戻ったセレトにグロックが報告を入れてくる。

 セレトは、グロックの報告を聞きながら、机に広げた地図に印をつけていく。

 グロックは、それを覗き込み、首を振りながら部屋の外に出て行った。

 

 そんなグロックを見送ると、セレトは景気づけのために、机の上に置かれた酒瓶の中身を乱暴にグラスに注ぐと、それを一気に呷る。

 強い酒特有の、刺激と香りが喉と鼻を抜けていくのを感じながら、改めて自身の作戦を考え直す。

 今回の作戦で、セレトに勝算があるわけではなかったが、ここで引くわけにもいかなかった。


 事前に、この作戦の概要を、ユラを通してヴルカルに伝えたところ、彼からは自由にするようにという返答であったが、それは恐らく作戦の有用性を認めたの返事ではないであろうことを、セレトはよく理解をしていた。

 作戦が失敗したとしても、セレトとリリアーナの個人的な私怨に基づく話として、ヴルカルまでに責が及ばないであろう点を鑑みての話であろうことは、容易に予測できた。

 それゆえ、セレトは万全を期すために念入りに準備をし、決行の時を待つ。

 たとえ可能性が低い話であっても、それがセレトにとって栄光へ上り詰めるための、一段目として、まぶしく輝いて見えたのであった。


 そして決行の日。

 舞踏会の会場には、多くの人々が集まり華やかな一時を楽しむ。

 会場には、当然のようにリリアーナも参加し、煌びやかなドレスを着こなし、多く参加者の注目を集めていた。

 そんな賑やかな会場を、セレトは自身の部屋で寛ぎながら、少々離れた場所に待機をさせた使い魔の視線を通して確認する。

 舞踏会に参加していない多くの者も、その熱気にあてられたように、飲みながら騒いでいる中、そんな群衆の中に紛れ込んだ全身にローブを纏った人型の使い魔は、影のように音もたてず、ただそこに居続けながら、主の命令を待っていた。


 やがて舞踏会が終了したのか、活気も徐々に収まりつつあった。

 そんな様子をセレトは、使い魔の目を通して確認をする。

 多くの参加者たちが、余韻を残したまま、夢見心地のような表情のまま、挨拶をしながら帰路について行く様子を見ながら、セレトはリリアーナの姿だけを一心に求めた。


 そして、リリアーナがその煌びやかな服装を身に纏い、外に出てきたの確認できた瞬間、セレトは使い魔に魔力を流し込み、自身の意識を使い魔に転移させる。

 気が付くと、セレトは使い魔の身に乗り移り、活気のある街並みに立っていた。

 周辺には多くの酔っ払いたちが騒ぎ立て、華やかな衣装を着飾り帰路に就く舞踏会の参加者たちを見送っている。


 精神同調特有の酔いを感じながらセレトは、使い古したローブを纏った自身の体を確認する。

 使い魔の体が、セレトの意思に合わせて動くを取ることを確認し、セレトは、リリアーナの動きを目で追いかける。

 リリアーナが、迎えの馬車に乗り、そのままお付きの部下達と共に街の外に出るために、街の四方に配置された門の一つ、東側の門に向かっていく様子を確認すると、セレトは、影のようにその場を離れて路地裏に向かう。

 そして路地裏に入り、周囲に人目がないことを確認すると、セレトは使い魔の体に力を込めリリアーナが向かっている方角へ、一直線に全力で向かい始めた。

 使い魔の体は、魔力で補強されていることもあり、本来のセレトでは出せないような速度で街中を駆け巡る。

 途中、人の気配を感じた瞬間には、建物の屋根の上等に移動しながらやり過ごし、セレトは、目的地を目指し走り続けた。


 リリアーナ達は、馬車によって移動をしているため、街中ではそこまで速度を出さないだろうという読みがあたったのか、セレトが東門についたタイミングには、まだリリアーナは到着していない模様であった。

 先に会場を出ていたのであろう舞踏会の参加者達が門番に挨拶をしながら街の外に出ていく様子も見えたが、その数は多くないようであった。

 門番に見つからないように建物の死角に入りながらセレトは、リリアーナの到着を待つ。

 そこには、昨日セレトが設置した呪符の一つが人目につかないように隠してあった。


 しばらくすると、馬の蹄と車輪の音が聞こえ、街中から、リリアーナの馬車と馬に乗った四名の護衛がこちらに向かってくる様が見えた。

 セレトは、自身の気配を察せられない様に、息を殺し、そのタイミングを待つ。


 門に近くづくにつれ、リリアーナが乗った馬車は減速し、御者が門番に声をかけている様子が見えた。

 馬車の周りで乗馬している護衛達も、鞍から降りず、周囲を警戒しながら馬車の速度に合わせて減速をしているようだった。

 そして馬が足を止め、馬車の動きが止まったことが確認できた瞬間、セレトは動いた。


 セレトは、建物に貼っておいた呪符を剥がす。

 そして、その呪符に魔力を込めた瞬間、使い魔の体を通し簡単な呪術が発動し、黒い霧が周囲を覆う。

 その気配に馬車の中にいるメンバー達が気づいたのか、馬車の窓が開かれ、騎士の一人がこちらの方を視認している様子が見えた瞬間、セレトの周辺に漂っていた黒い霧は、意思を持った獣のように、一気に馬車に向かってとびかかった。

 同時にセレトは、体をしならせ、その黒い霧とは、別の方向から馬車に襲い掛かる。

 無理な体重移動に、使い魔の体が悲鳴を上げていることが分かったが、セレトは、それを無視してそのまま馬車に突撃をする。


 黒い霧が馬車にぶつかりはじける。

 「敵だ!」と、馬車の中のメンバーが叫ぶ声が聞こえる中、そのまま馬車に襲い掛かろうとするセレトの前で、馬車のドアが大きくあけ放たれ、そこから四人の人間が飛び出した様子が見えた。

 その中に、黄金のように輝く金髪を見たセレトは、そこに向けて手に込めていた魔力を放つ。

 緑色の炎の塊が、体制を崩した金髪の女性、リリアーナに襲い掛かる。

 しかし、その炎の塊が彼女に届く寸前に、リリアーナは、片手を炎の方に向けて光の壁のような物を作る。

 彼女を覆うように展開された光の壁に、セレトが放った緑の炎とぶつかるが、炎はそのまま霧散し彼女を傷つけることなかった。


 馬に乗った護衛の騎士達が慌てて、馬の向きを変えてこちらに襲い掛かろうとする。

 しかし、抜刀されたその刃がこちらに向けられるよりも先に、馬車に襲い掛かった黒い霧が広がり、彼らと、周囲で腰を抜かしている門番や、門に足止めをされていた様子の者達を覆う。

 そのまま黒い霧に覆われた騎士達は、抜刀した剣を持ち上げることもなく、力が抜けたように落馬をした。

 同じように周辺にいた人々も力が尽きたように倒れこむ。


 そんな中、リリアーナと護衛として馬車に乗り込んでいたロットは、周囲に光の壁を展開し、黒い霧の動きを止め、こちらの出方を伺うように各々の武器を構えてセレトと対峙していた。

 リリアーナは、先ほどの舞踏会に出てきたドレスのまま、右手に愛剣を構え、左手には魔術を展開しながらこちらを牽制するように距離を置き様子を見ている。

 ロットは、リリアーナの反対側から、セレトの背後を取るように、剣を両手に握り、自身の主の動きに合わせてこちらに襲い掛かろうとしているようであった。


 その様子を見てセレトは、舌打ちをする。

 奇襲によって、耐性がない人間を昏倒させる霧をばらまき護衛の動きを止めた後、そのまま一気にリリアーナと戦うつもりであったが、彼女は、こちらと切り結ばずひたすら出方を伺うような様子を見せていた。

 このまま時間がかかると、城の衛兵達が駆けつけ、話がさらにめんどくさくなることをセレトはよく理解をしていた。

 しかし、リリアーナに下手に攻め込むと、後ろにいるロットがこちらの背後を取り、邪魔をしてくることは、確実であった。

 そのような事態にならないために、初手で魔力を込めた霧を撒き、護衛の一掃を図ったのだが、ロットがその霧で倒れなかったため、セレトの目論見は一気に崩れることとなった。


 されど、このまま動かずに時間をかけることは、相手を利するだけである。

 そう考えたセレトは、自身の指先に魔力を込める。

 そして込めた魔力を背後にいるロットに向けて放つ。

 単純な呪術、影のような黒い塊が刀の形を模ると、それはそのままロットに向かって切りかかるように襲い掛かる。

 それ同時に、セレトは背後の様子を確認せずに、一気にリリアーナに突撃をする。

 リリアーナは、その様子を見極めながら冷静に左手に込められた魔力を放つ。それは鋭い光弾となりセレトに襲い掛かった。

 光弾がセレトの体を切り裂くことを感じながらも、セレトはそのまま突撃をする。

 元より自身の体でないこの身がどれほど傷をつけられようが、セレトにとっては関係ないことであった。


 リリアーナは、自身の魔術に怯まない敵の様子に一瞬、驚嘆の意を示しながらも、すぐに右手の剣を構え、迎撃の体制を取る。

 セレトは、それを無視して、左手に緑色の炎を纏わすとその手を突き出しながら彼女に飛び掛かる。

 リリアーナの刃が自身の体を右肩から袈裟斬りをしていく感覚を感じながら、セレトは、自身の緑色の炎を彼女の頭に向けてぶつけようとする。

 そしてその左手が彼女にふれようとした瞬間、自身の大きく振りかぶった左手が斬られ、背後にぽとりと落ちたことに気づく。


 混乱しているセレトが後ろに視線を移すと、黒い刀を左肩で受けながら、そのまま剣を振り回しているロットの姿が目に入る。

 そしてその姿目に入るか、入らないかのうちに、セレトはリリアーナの右足で思いっきり蹴り飛ばされ地面に倒れる。


 目の前には、リリアーナと、ロットが並びこちらを油断ならない目で見ながら、お互いに自身の傷に魔術を当てながら徐々に治癒をさせている。

 リリアーナの白色と緑色を基調とした煌びやかなドレスは、既にぼろぼろとなっていたものの、血にまみれ赤みが足されたぼろぼろのその装いは、彼女の美しさを引き立て、どこか背徳的な美を表現しているようにも思えた。


 奇襲は失敗し、体制を立て直しつつある二人を見ながら、セレトは自身のローブが斬られた衝撃で破れ、顔が露出していることに気づいた。

 既に自身の身体は、肩から腹にかけて大きく斬られており、片手も飛ばされた状態で、力も入らず、禄に動けない状態であることを確認する。


 そんなセレトの様子をみながら、リリアーナは口を開いた。

 「暗殺者さん、貴方は誰?」

 リリアーナは、こちらを睨みながら冷たい目で詰問をする。


 セレトは、その言葉に応える様子も見せず二人の動きを見つめる。

 「あなたのその顔、見たことあるよのね。」

 リリアーナは、そう話す。

 しかし、セレトは応えることはなかった。

 何故なら、セレトも今の自身の顔の造詣が全く分からなかったのである。


 詰問を続けようとするリリアーナは、突如セレトが身体を使っている使い魔の顔を見て驚きの表情を浮かべる。

 それは、ロットも同じようであった。


 『シェイプシフター』。

 今回、セレトがこの作戦に使用する身体として、使い魔に選出したのがこの魔物だった。

 グロックに秘密裏に仕入れを頼んだこの魔物は、一度見た人の顔と身体を覚え、それに化ける特性を持っていた。

 今、シェイプシフターは、セレトの意思に従い、自身が持っている顔のストックをランダムに選びなら、次々とその姿を変えているはずであった。

 その変わり続ける姿におぞましさを感じたのか、リリアーナとロットは、顔をしかめる。


 そのような状態で両者がにらみ合っていると、衛兵たちが駆けつける音が聞こえてきた。

 鎧を着込んだ者達の足音が聞こえてきた瞬間、リリアーナとロットは、そちらに一瞬注意を取られる。


 その瞬間、セレトは、自身の魔力を込め使い魔の首を千切り、リリアーナに向けて飛ばした。

 使い魔の生命が止まり、セレトが使い魔の体から精神を飛ばされた瞬間、最後に見えたのは、リリアーナとロットの驚愕の表情と、慌てて迎撃をしようとする様であった。


 屋敷の椅子に座っていたセレトは、バランスを崩し床に転がり落ちる。

 精神の同調が切れた瞬間、セレトの意識は、無事に自身の体に戻れたようであった。


 慌てて周囲を見渡し、自身を心配そうに見つめているアリアナを見つけると、セレトは、彼女の手を借りて立ち上がり彼女に声をかける。

 「どうだった。」

 アリアナは、再度目を閉じ、現場の近くに配置された自身の使い魔に意識を同調させ、その視界で様子を確認する。


 「最後の一撃は、護衛の騎士に阻まれ致命傷にはならなかったようです。」

 目を開き、周囲の様子の確認を終えたアリアナが口を開く。

 「それで?」

 もとよりあれほどの距離がある状態の二人に、少々の隙をついて奇襲をしても失敗することは、百も承知で合った。

 セレトは、そんな彼女のわかりきった回答を無視して、次の言葉を急かす。

 アリアナは、そんなセレトの様子を見ながら、口元に笑みを浮かべながら応えた。


 「ご安心ください。楔は、無事に打ち込めました。」


 第八章へ続く

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