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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間63

 幕間63


 「はぁ!」

 ヴェルナードの一声と共に、目の前に居る二人の兵士が上半身と下半身を切り裂かれ絶命をする。

 単純な腕力だけではない。

 ヴェルナード自身の腐食の術式を刀身に乗せたことによる成り立つ一撃である。


 「くそ!逃げろ!逃げ、ぐわあ!」

 そんなヴェルナードの実力を目の当たりにして、不利と悟ったのか、指揮官らしい男は、退却を指示するが、その指示を言い終える前に、首を切り裂かれて絶命をする。


 「将軍!敵軍が撤退を開始しまた!」

 副官がヴェルナードに報告をする。


 「逃がすな!一人残らず殲滅しろ!」

 その声に対し、ヴェルナードは強い言葉で返答をする。

 同時に、魔力を込めて腐敗の術式を展開する。


 「うわああああ!」

 瞬間、逃げ始めた兵士達の叫び声があがる。

 彼らの足元には、ヴェルナードが展開した術式が広がっている。

 その術式が生み出した黴により、兵士達は身体の自由を奪われていった。

 

 「おら!逃すな!」

 ヴェルナードの部下達は、彼の号令に合わせ混乱をしている敵兵達に襲い掛かる。


 「くそ!誰か、伝令を…」

 一人の兵士が口惜しそうに声を張り上げるが、その言葉が終わる前に、ヴェルナードの部下達が一斉に放った弓矢により言葉が途切れる。


 「よし、終わったな」

 そして、動くものがいなくなった戦場を見回しながら、ヴェルナードは、満足気に頷く。

 ハイルフォード王国の分隊との予期せぬ遭遇ではあったが、こちらの損害もなく、無事に切り抜けられたのは、上々の結果であろう。


 最も、他国の領土内での機密作戦中である。

 できる限り、敵兵士との遭遇を避けるべき状況であることを考えると、あまりよろしくない傾向であることも事実であったが。


 「将軍!この者がまだ生き延びているようですが、如何いたしますか?」

 そんな中、彼の部下が、今の戦いで生き残った一人の兵士を連れてくる。

 身体に多少の手傷は負っているものの、生き延びたその兵士は、突然の襲撃者に対する恐れを見せながらも、同時にこちらに対する敵意を隠そうともせず、ヴェルナードを強く睨んできた。


 「ほう。ちょうどいい。そいつをこっちに連れてこい」

 そんな敵兵士を目にしたヴェルナードは、笑みを浮かべながら、楽しそうな声で部下に命じる。


 「くそ!お前らは一体?!」

 そしてヴェルナードの前に引きずり出された兵士は、怒りを含んだ声で、ヴェルナードや周りの兵士達に怒声を上げようとする。


 「黙れ!」

 だが、その声は、ヴェルナードの一喝と共に放たれた魔術によって遮られる。


 「?!ひぃ、く、おお」

 ヴェルナードが放ったのは腐食の魔術。

 術により、自身の身体中が急速に腐食を始めたことによる痛みと恐怖で、兵士は声にならぬ声を上げる。


 「さて、俺が知りたい事だけに答えてもらおうか。余計な言葉はいらないからな」

 そう述べたヴェルナードの表情は、非常に愉快そうな笑みを浮かべていた。


 ザシュ。

 それから15分後。

 ヴェルナードが振るった刀で、兵士は首を離れられ息絶えた。

 最も、その死体の状態、腐食し、ところどころ様々な傷を負った状態を見るに、その死は、彼にとっての救いだったかもしれないが。


 「さて、お前らはどう思う?」

 刀に付いた血を拭き取りながら、ヴェルナードは、周囲に控える部下達に問いかける。


 「魔術師、セレトという反逆者の件ですか?」

 副官が、おずおずと答える。


 「あぁそうだ。そいつとその一派がこの辺りに潜んでるという情報どう思う?」

 副官の答えにヴェルナードは、上機嫌で応える。


 「聞いた話を統合しますと、恐らく我々が探していた例の影使いのことかと思われますな」

 部下の一人、ジモクが応える。


 「その通り!まったくもってその通りだ」

 ヴェルナードは、上機嫌のまま言葉を返す。


 「しかし将軍。これ以上他国領内に留まるのは、あまりよろしくないかと」

 そんなヴェルナードの顔色を窺うかのような、恐る恐るとした声で、副官がヴェルナードに問いかける。


 「あぁそうだな。さて、どうするか」

 その言葉にヴェルナードは、笑みを消して答えを返す。


 事実、予定以上にハイルフォード王国に潜り込んだことによる弊害も発生している。

 ハイルフォード王国内深くに入ったことにより、敵兵との遭遇も増えている。

 今は、小規模な部隊との遭遇のみであるが、この幸運がどこまで続くかも分からない。


 「一旦、下がるべきかと思いますが」

 副官は、相変わらずの弱気な声でヴェルナードに進言する。


 だが、その言葉をヴェルナードは無視して思考を続ける。


 元々は、停戦合意に納得がいかず、そのことに対する八つ当たりもあった出兵ではあった。

 だが、ここに来て、その進軍に意味を持たすことができるチャンスも舞い降りてきたのである。

 最も、これ以上進軍を続けることによる危険性が高いことも確かであった。


 「閣下。大掛かりな魔力の発動とぶつかり合いが、北の方角から感じられます。何かの動きがあったものかと」

 そこに、部下であるジモクが報告をする。


 「そうか」

 その言葉に、ヴェルナードは、深く頷く。

 部下の中で斥候を主としており、探知能力が高いジモクの報告は、ヴェルナードの心を動かす。

 あるいは、五里霧中となっていたヴェルナードの目に、方向性を定める光と見えたのだろうか。


 「ジモク。その場所を特定しろ。特定次第、全軍で向かうぞ!」

 しばらく考えに没頭していたヴェルナードが声を上げる。

 その眼には、一つの決意と覚悟が宿っていた。

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