幕間61
幕間61
「閣下!お急ぎください!」
身体の大部分が異形化をしているヴルカルを急かしながら、ユノースは先を急ぐ。
「ああ。わかった」
そんな自身の部下の後、ヴルカルは、変異によって動きづらい身体を全力で動かしながらついていく。
「ここを急ぎ離れましょう!一旦、ここを凌げば、まだ再起の芽はございます!」
そんなヴルカルを見ながら、ユノースは、必死に主に語り続ける。
ユラとの契約の関係か、その身を人外に変えた影響か、何が原因かは不明であったが、徐々に崩れていく異形の身体と、どこか力が弱い自身の主の声は、ユノースを怯えさせ、自然とその足を速める。
同時に、ユノースの口からは、自然と自身の主を励ますような言葉が流れ出る。
「このまま東の国境を越えれば、以前より交流のあったニールズの領土です。あそこにいけば、まだ多少なりとも蓄えもあります。他にも、北のブラン、王国内のテラトは、粛清を免れております。彼らの助けがあれば、いくらでも巻き返せます!」
そういいながら、ユノースは、先を急ぐ。
「もういい。ユノース」
だが、そんな部下に対し、どこか疲れが混ざった声でヴルカルは言葉を返す。
「閣下?」
そんな、主の言葉に不安を感じたユノースは、足を止めて後ろを振り向く。
その視線の先には、力が抜けたように立ち尽くすヴルカルが、どこか焦点の合わない目でこちらを見ていた。
「ブランに、テラト?ふん、こちらを助けるつもりなら、もうとっくに動いているはずだろうに、未だに何の動きもないのは何故だ?それにニールズの地にある財産等、すでに抑えられているさ」
どこか自棄になったように、ヴルカルは言葉を吐き出す。
「閣下!弱気にならんでください!いずれにせよ、我々は生き延びれております。ここを逃れれば再起の芽は十分にございます!」
そんな主に、強い口調でユノースは言葉を返す。
だが、その力強い声は、どこか弱気になりつつある主を目の当たりにしたことによる怯えの色も含んでいた。
「いや、ないさ。こんな状況になって手を貸すぐらいなら切り捨てることを選ぶ。ここまで落ちた我々の助けなどないさ。まあ、だからこその、ユラだったのだがな」
そんなユノースを諭すように、ヴルカルは言葉を続けていく。
「ユラ?あれがですか?」
ユノースは、先程、訣別をした彼女のことを思い出し、困惑した声を上げる。
「あれが与えてくれた力なら、ここからの逆転もできると思ったのだがな。まあ、こんな欠陥がある力だった時点で、もう詰んでいたとも言えるか」
そう言いながら、ヴルカルは、崩れていく自分の身体眺め、どこか自嘲気味に語る。
「いずれにせよ、リリアーナを殺せず、部下は全て失い、この身体にもガタが来ている。こうなるなら、ユラの作戦に応じてアイツを処分する必要もなかったかもな」
そのままヴルカルは、言葉を続ける。
「閣下、例えそうであっても、我々は、この場から生き延びることはできます!生き延びさえすれば、いくらでも、チャンスは残っております!」
だがユノースは、そんなヴルカルの言葉を切るように、そして、引き留めようとするかのような懇願の声で説得を続ける。
「そうかな?だが、もういい。疲れたんだよ。私は」
そう話すヴルカルの身体は、徐々に崩れていく。
「このまま終わるなら、終わってもいいと思える程にはな」
言葉を続けるヴルカルの身体は、魔力の反動か、変異による代償か、一気に力を失いながら崩れていく身体に連動するように、ヴルカルの声も弱くなっていく。
「そうですか。閣下…。失礼いたします!」
だが、そんなヴルカルの弱気を許せないかのように、ユノースは強く一声言葉を発すると同時に、光の封印術を放つ。
「?!ユノース、何をする!」
突然のユノースの行動に、ヴルカルは驚きの声を上げる。
「申し訳ございません。だが、貴方は、まだ生きていただく必要があります!」
そう言いながら、ユノースは、放った封印術によって、ヴルカルの身体を捕えていく。
「この魔術であれば、身体の崩壊も一時的に防げるでしょう。ここは次の機会のため、一度、退きましょう」
そう語るユノースの目の前で、ヴルカルは無表情のまま、封印術が展開した結界に囲まれていく。
「私は、貴方を最後まで裏切りません。だからこそ、ここは私を信じてください」
そう語るユノースの目の前で、ヴルカルは結界によって封じ込められ、そのまま一瞬強く光ると、一つの宝石となった。
対象を封じ、宝石にする魔術。
これにより、ユノースは、ヴルカルを強引に連れていくことにする。
「閣下。ここから今一度、再起しましょう。今は、そのための雌伏の時です」
そう手に取った宝石に語ると、ユノースは、そのままそれを懐に仕舞う。
そのまま再度、歩を進めたユノースは、夜の闇に紛れて、姿を消した。
「ユラ、ここはお前の勝ちだな。だがこの代償は高くつくぞ」
そして最後に一言、ユノースは呟く。
だが、その脳裏に浮かんだのは、ユラだけではなかった。
セレト、リリアーナ、そして自身の弟であるロット。
自分の敵となりうる存在に思いを巡らせ、最後にユノースは手の中の宝石を一際強く握りしめた。




