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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間60

 幕間60


 「うん?今何か物音がしなかったか?」

 焚火の前に腰掛けている兵士の一人が、隣にいる同僚に声をかける。


 「そうか?」

 受けたもう一人の兵士は、同僚の声にめんどくさそうに応える。


 二人は、セレト達の探索を命じられたハイルフォード王国の兵士である。

 最も、セレト達を追う本隊ではなく、国境付近の動きを見張るように命じられた斥候である。

 そして彼らは、そんな国境付近における実りもない探索に嫌気をさしていた。


 「気のせいかもしれんが、念のために確認をするか」

 そう言いながら、最初に声を発した兵士は、億劫そうに立ち上がる。


 「待てよ。俺もいくよ」

 その声に応える形で、もう一人の兵士も立ち上がる。


 どさり。


 だが、その兵士が立ち上がった瞬間、目の前に自身の相棒の首が落ちる。


 「?!敵襲?」

 慌てた兵士が武器を抜こうとする。


 「遅い!」 

 しかしその腕は、突如来襲した男によって切り落とされる。


 「き、貴様は!」

 兵士は、目の前に突如現れた男に驚愕の表情を浮かべる。


 「おら!!」

 男は、そんな兵士の言葉など気に留めず、刀を振るいその兵士の首を落とす。


 「将軍!下手な干渉は…」

 そんな男の下に、慌てて走り寄ってきた一人の兵士、彼の副官が、息を切らして声をかけるが、目の前の惨状を見ると、そのまま言葉を失う。

 遅れてきた、他の部下達も、目の前に広がる惨状に、順に言葉を失い固まる。


 「はっ!そんなもの、こうすれば問題はなかろう?」

 そんな副官の言葉に、男は、笑いながら応え、同時に魔法陣を展開させる。


 瞬間、周囲に転がった死体は、魔法陣によって一気に腐敗が進み、そのまま塵となり風に吹かれて消え去る。


 「いえ、ヴェルナード将軍。それだけではなく…」

 そんな自身の主、ヴェルナードに対し、副官は、慌てたような口調で言葉を返そうとするが、ヴェルナードの表情に気圧されてそのまま言葉に詰まる。


 「ふん。どうせこいつらは、今、ハイルフォード王国で起きている粛清とは碌に関係がない下っ端だ。ここで始末をしようが問題はなかろう」

 イラつきを見せながら、ヴェルナードは吐き捨てるように言葉を発する。


 「しかし、将軍。国境付近と言えど、ここはハイルフォード王国領でございます。必要以上の交戦は、避けるべきでしょうし、それに…」

 副官の男は、ヴェルナードに怯えた様な態度を見せながら、歯切れ悪く言葉を重ねる。


 「それに?何が言いたい?」

 その口から出る言葉を理解していながら、されどヴェルナードは強い口調で目の前の部下に問いかける。


 「いえ、これ以上の軍事行動は、やはり、危険かと思われます。それゆえ、一度部隊をまとめて撤退をすべきかと。少なくとも、これ以上の進軍は、やめた方がよろしいかと思われます」

 そんなヴェルナードの圧力に抗う様に、途切れ途切れに副官は、ヴェルナードに進言をする。


 「なるほど。これ以上のハイルフォード王国内での行動はまずいと考えるか?」

 副官の言葉を受け、ヴェルナードは、考え込むようにしながら言葉を返す。


 「は、はい。そもそも、和平を進めている本国の意向を無視して、その妨げとなるような作戦を進めることが望ましくないかと」

 そんなヴェルナードに畳みかけるよう、副官は、言葉を続ける。


 「ふむ」

 ヴェルナードは、そんな言葉の洪水に一言応えると、考え込むように目を閉じた。


 「将軍、どうしますか?」

 そんなヴェルナードの答えを待てないかのように副官が問いかける。

 同時に、後ろに控えていた他の部下達も騒めきだす。


 だが、ヴェルナードは、そんな部下達の声も耳に入らないのか、沈黙を貫く。


 「将軍!」

 しびれを切らした副官が強い言葉で再度問いかける。


 「来たか」

 瞬間、ヴェルナードは目を開き、一点を見つめる。


 「何を?」

 副官がヴェルナードの突然の言葉に驚いたように反応をする。


 「どうだった?」

 だがヴェルナードは、そんな副官を無視し、虚空に問いかける。


 「東500m~800m程先に中隊が三部隊程点在しております。そこから南2キロメートル先に本隊と思われる大隊がございます」

 瞬間、夜の闇から声が聞こえる。

 ヴェルナードがジモク(耳目)と呼んでいる斥候部隊だ。


 「続けろ」

 ヴェルナードは、そんな部下の報告を聞きながら先を促す。


 「ほかには、小隊が広い範囲に展開をされている模様です。現在、交戦中の部隊はいなそうです」

 そんなヴェルナードに対し、ジモクは、淡々と言葉を続ける。


 「例の影使いは?」

 ひとしきり報告を受けたタイミングで、ヴェルナードは、目下、自身が追っている敵について確認をする。


 ハイルフォード王国軍が、戦っていた影を操る謎の貴族風の男。

 その男こそ、自身が追っている男と考え、ヴェルナードは、部下と共にその戦場に向かったが、彼らが到着する頃には既に戦いは終わり、その影使いは、姿を晦ました後であった。


 ヴェルナードはそのまま、ハイルフォード王国軍との接触を避けて、その影使いの男の探索を続けていたが、未だ手掛かりの一つも見つからない状況であった。


 「未だ、見つかっておりません。ただ」

 ジモクは、そんなヴェルナードの言葉に対し応える。


 「ただ?」

 ヴェルナードは、先を急かすように問い直す。


 「ハイルフォード王国軍が探索を集中している地点より、南に8キロ程先に行った地点にて、何らかの大掛かりな術式が展開された跡がありました。何か関係があるかもしれません」

 ジモクは、ヴェルナードに応える。


 南進。

 それは、よりハイルフォード王国内に入り込む進路であった。

 これまで以上に、ハイルフォード王国軍と遭遇をする可能性も高まり、またヴェルナードが求めている人物がそこに居る保証はなかった。


 「将軍。これ以上の深入りは危険です」

 そんな状況でありながら、より危険な道を突き進むリスク等、どこにあろうか。

 副官が宥めるように、しかし、どこか安堵を含んだ声でヴェルナードに進言をする。


 「わかった」

 その言葉を受けてヴェルナードは、口を開く。


 「全軍進軍準備。報告された地点へと向かう。ジモク、お前は、今話した地点へ案内をしろ」

 だが、ヴェルナードは力強く進軍を指示する。


 「御意」

 同時にジモクが応え、魔力で誘導用の灯をルートに沿って生み出す。


 「ヴェルナード様!」

 諫めるような副官を無視して、ヴェルナードは、無言のまま馬に鞭を入れた。

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