幕間59
幕間59
「一体何のつもりだ?ユラ」
ユノースは、話しながら武器を構える。
武器を構えた先には、ユラが何時もの笑みを浮かべながら立っている。
「何のつもり?いやはや、見たままで結構ですよ。くくく」
そう笑いながらユラは、応える。
「貴方の主は、ここで討たれる必要がでた。ただそれだけです」
そうしてユラは、腕をこちらに向けようとする。
「動くな!」
だが、ユノースは、そんなユラを止めるように一声強い言葉を放つ。
「おやおや。大分警戒されておりますね」
ユラは、そんなユノースに笑みを浮かべた表情で言葉を返す。
だがいつものように笑みを浮かべられている彼女の表情は、どこか普段と違う、寒々とした空気を放っていた。
「ユノース、奴を、あいつを殺せ!」
ユノースの後ろにいる、今や異形となったヴルカルが騒ぎ立てる。
「おやおや。飼い犬が来たことで大分調子がよくなりましたね。ヴルカル様。くくく」
ユラは、笑いながらヴルカルに応える。
「無駄口をたたくな。ユラ」
だがユノースは、そんなユラの言葉を遮りながら、刀を持つ手に力を入れる。
「お前は、主君を裏切った。それ以上でもそれ以下でもない」
ユラとの距離を測りながら、飛び掛かる算段をユノースは頭の中で立てながら、ユラに語り続ける。
「ほう。ならばどうしますか?」
そしてユラは、そんなユノースの動きに反応をすることもなく、こちらを見て笑っている。
「ならば、お前を断罪するのみ!」
そう言い放ち、ユノースは、刀を振るい飛び掛かる。
「ははは!何をおっしゃいますか!」
笑いながらユラは、迎え撃つ。
「黙れ!」
ユノースは、一閃、刀を振るう。
その言葉の強さに比例をするかのような鋭い斬撃がユラに向かう。
「おやおやおや。随分とわかりやすい一撃ですねぇ」
そう言いながらユラは、身体を曲げてユノースの斬撃をかわしていく。
「死ね!つぶれろ!」
そんなユノースの後方から、ヴルカルが口汚い言葉を発しながら、魔力の塊を放つ。
最も、軌道も単純なその攻撃も、ユラにはたやすく避けられる。
「ははは。無理な魔術の行使は、身体の崩壊を早めますよ」
ユラは、ヴルカルに笑いながら言葉をかけ、同時にこちらに向けてナイフのように鋭く砥がれた大量の黒い羽を放つ。
魔力で生み出されたその羽は、そのまま触れれば、肉を裂き、骨を砕くであろう。
「口を閉じろ!この裏切り者が!」
ユノースは、そんなユラの言葉をかき消すような怒気を込めて叫び、同時に刀を振るう。
瞬間、光の盾が前面に展開され、ユノースとヴルカルめがけて放たれた羽は、弾かれ塞がれることとなる。
「ほう。さすがは大貴族の懐刀。そこいらの雑兵とは違いますな。くくく」
だが、ユラは、その様子を見ながら笑う。
「だがね。貴方は、もう詰んでいますよ。けけけ。ほら、こういう風に!」
そしてユラの声に合わせるように、弾かれて周囲に落とされた黒い羽が一気に爆発をする。
周囲を一斉に破壊しつくすその爆発は、魔力の防壁ごと対象を吹き飛ばすものであった。
「死ね!」
だが、そんな爆発の煙が晴れていく前に、ユノースの声が響く。
同時に、一筋の光の斬撃がユラに襲い掛かる。
「おやおや。無駄ですよ」
だが、その一撃を、ユラは身体を霧のような状態にして避ける。
ユノースの斬撃は、霧の身体を捉えることなく彼方へと飛んでいく。
「そうかな?」
だが、ユラに対しユノースは不敵に笑う。
「?どういう、こと?クっ?!」
そんなユノースの言葉に反応したユラは、瞬間、死角から飛んできた斬撃によって実体化をしている身体を切り裂かれる。
ドサ。
瞬間、切り裂かれたユラの左腕は、肩より先を切断され地面に落ちる。
「斬撃?!しくじったわね!」
苦しそうな声でぼやきながらも、ユラは、すぐに周囲に魔力を展開する。
「まさか見えない斬撃とは。こんな手を隠し持っているとは思いませんでしたよ。けけ、げほげほ」
苦しそうな声を出しながらも、ユラの周囲を警戒し魔力の展開を続ける。
触れた者を苦しめる呪いによる壁。
こちらの止めを刺すべくユノースが一気にこちらに攻めてくると考えた故での一手であった。
負傷したこちらに攻め込んできた彼を、刺し違えてでも倒す。
そんな彼女の強い意志を反映した、片手を失った負傷者とは思えない結界である。
だが、彼女が警戒をしていたその一撃がこちらに放たれることはなかった。
「?おやおや。逃がしましたか。くくく」
そうして爆風が晴れた空間を眺めながら、ユラは、ぼやく。
「まさか、あの状態のヴルカル様を連れて逃げられるとは。いやはや参りましたね」
そんな彼女の目の前には、既に二人はない。
「まっいいでしょう。どうせあの身体じゃ長く持たないでしょうから。くくく」
そう笑い続けるユラの目の前には、大量の血痕が落ちていた。
そして部屋の外に向かっている血痕が、既に二人がこの部屋から逃げしていることを示していたが、ユラは、そのあとを追うつもりは毛頭もなかった。
「やれやれ。ならあちらの方に向かいますか」
そうして、ユラはそう笑いながら、切り落とされた自身の腕と、血痕が示したユノースが逃げた方へと一瞥をすると、いつものように笑いながら、その場を立ち去った。




