幕間55
幕間55
「けけけけ」
笑いながら、目の前のアサシンが飛び掛かってくる。
「無駄だ!」
ロットは、そんなアサシンの短刀を叩き落とし、そのまま一撃を入れようとする。
「おっと危ない。危ない」
そう言いながら、アサシンは、その身体をひねり攻撃を避ける。
「いやはやはや。貴方がここに来る予定はなかったんですが、まあ、来てしまったものは、しょうがないですね」
アサシンは、笑いながら、こちらをろくに見ないで色々と語り続ける。
「死ね!」
そんな彼女に向けて、ロットは、思いっきり刀を振りぬく。
その一撃は、目の前のアサシンを捉える。
だが、アサシンを捉えた一撃は、そのまま空を切る。
「あらら危ないですね。さて、どうしますか」
そして、ロットの一撃から離れた場所に影のように現れたアサシンは、こちらを見ながら独り言を述べ続ける。
そんなアサシンンに向け武器を構え、ロットは、その様子を伺い続ける。
敵の動きこそ素早いが、反応できないほどではない。
こちらに攻撃を仕掛けてくるタイミングで、一撃を浴びせることは、十分に可能であろう。
「おやおや。その眼、何か企んでおりますかね?」
そう言いながら、アサシンは、再度武器を構えなおす。
来るか。
そうロットの思考がよぎった瞬間、アサシンが飛び掛かってきた。
素早く、されど一直線にこちらに進んでくる一撃。
それを、ロットは、自身の刀で受ける。
ガキン。
お互いの刃と刃がぶつかり合う。
そのまま、ロットは軽く刃を引き、無防備な相手に切り掛かる一撃を放つ。
もちろん、その一撃は、当然のように避けられる。
そのままロットは、体勢を崩し、相手の一撃を誘う。
そして、そんなロットの隙をつき背後に現れた殺気と気配。
「そこか!」
その気配に向けて、ロットは、必殺の一撃を叩きこむ。
相手を完全に捉えた一撃。
「無駄ですな。けけけ」
だが、その一撃は空を切り、ロットが想定いた方角とは反対側からアサシンの声が聞こえる。
同時に、そちらから、殺気と共に、攻撃の気配がする。
読み違えた。
あるは、読み負けたというべきか。
いずれにせよ、完全に攻撃を避けられ、こちらは隙だらけの状況。
敵の放つ一撃を、止めることも避けることもできないであろう。
そうロットが覚悟をした。
「お、や?」
だが、その刃は、こちらに届くことはなかった。
慌てて振り向いたロットの目の前で、アサシンの身体が、胴の真ん中で、上下に真っ二つに分かれていた。
「もう、動けないと思ってたのですが、読み違えましたか…きき」
そういいながら、ロットの目の前で、アサシンは、黒い砂のように崩れ落ち、その姿を消した。
「甘いな」
そう言いながら、アサシンに止めをさした男、ユノースが立ち上がりこちらを見ている。
その手には、アサシンを倒した刀が握られている。
最も、その身体にはいくつか負傷が見られ、万全の状態ではないことは明らかであったが。
「兄さん、それ以上近づかないでください」
体制を立て直したロットは、ユノースに武器を向け、その動きを牽制する。
こちらの命を助けたのは事実であるが、ユノースは、自身の兄であると同時に、自身の敵である。
そしてここは、自身の敵であり、目の前のユノースの主であるヴルカルのテリトリーである。
こちらの敵か味方が分からない状態で、無条件に信じることは、到底不可能であった。
「俺を追ってきたのか?それとも、俺の主か?」
ユノースは、笑いながらロットに声をかけてくる。
傷を負っており、身体を動かすのも辛そうであったが、その声は、十分な生命力に溢れているように思えた。
「ここは、どこなんですか?そして、先程のアサシンは何者なんですか?」
矢継ぎ早に、質問を繰り出す、そして、その途中で一瞬言葉に詰まるが、ロットは、再度息を吸い、質問を続ける。
「ユラと争っていたようですが、兄さんは、誰の味方なんですか?」
兄が、どちらの味方であるか。
そして、自身についてくれるのか。
どこか期待を込めて、ユノースは、言葉を発していた。
「さあね。ただ私は、何かを語るつもりはないよ」
だが、その期待は、ユノースが返した言葉によって崩れ去る。
「まあ私の主は、ヴルカル様のままさ。さて、お前は、なんでここにいるんんだい?」
そう言いながら、ユノースは、武器を構えながら、こちらとの距離を詰めてくる。
「止まってくれ!」
そう言いながら、ロットは、手に持つ武器に力を入れる。
だが、目の前に迫ってくる、その武器を振るうことはできずにいた。
「なぜ?」
だが、ユノースは、一言冷たく言い放ち、刀を振るう。
距離は、まだ十分にある。
兄弟でもある。
だからこそ、油断をしていた。
だが、そんなロットの身体を、ユノースが放った飛ぶ斬撃。
アサシンを切り裂いた一撃が襲い掛かった。
防げる。
そう思ったロットの身体を斬撃は容赦なく切り裂いた。
兄弟だからこその油断。
いや、ロットが見たこともない一撃。
放たれた方角ではなく、その死角から放たれた二撃目。
その二撃目により、切り裂かれた自身の身体。
自身が知らぬ、兄の一手。
「悪いな」
薄れゆく意識の中、ロットの耳には、ユノースの声が聞こえた。




