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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第五十四章「黒いぶつかり合い」

 第五十四章「黒いぶつかり合い」


 「くそ!」

 叫びながら、セレトは、封じられた魔力で強引に生成した魔剣を、迫ってくるアサシンの短刀に向けて振り払う。


 確かに捉えたと感じたが、セレトの刃は空を切る。

 アサシンが強引に身をねじり、セレトの刃を避けたのである。


 「何?!」

 驚きを隠せないセレトの前で、アサシンは、強引に体制を立て直し、自身の短刀をセレトの左肩に突き刺した。


 「残念。油断しましたな」

 アサシンの口から、ユラの声が漏れる。

 同時に、短刀に刺されたセレトの肩に何かが流れこんでくる感覚が全身を襲ってくる。


 「ふざけるな!」

 叫ぶと同時に一閃、セレトは、刀を振るう。


 「おや?!危ないですね」

 アサシンは、ぼやきながら身をよじらせ、その一撃を避ける。


 「流し込んだ魔力で、動けなくなっているかと思ったのですが、おや、あ、れ?!」

 攻撃を避けたアサシンは、笑いながら言葉を返してくる。

 だが、その言葉は、途中で止まることとなる。


 セレトが放った一撃、避けられた先の一閃。

 その影に潜ませていた、時間差で発動する斬撃の術式。

 空間に刻まされた術式が放った一撃は、隙をつく形で、アサシンの胴体を上下に両断する。


 「おっ、おややや、やるじゃないですか」

 衝撃で空を舞うアサシンの上半身が声を上げる。


 「失せろ!人形が!」

 そんな上半身に向けて、セレトは、右の手のひらを向け、その手を握りしめる。

 同時に、その握りに連動するかのように、アサシンの身体に向け大量の黒い腕が殺到する。


 「あららら」

 アサシンは、一声漏らすと、その腕によって一気に潰される。


 ぐちゅり。

 そして水袋を潰したような音ともに、黒い水が腕の隙間から漏れてきた。


 その様子を眺めたセレトは、一息をつく。

 だが、抜いた方の力をすぐに入れ直し、改めて武器を構えて周囲を警戒する。


 潰したアサシンには、実体は感じられず、ただ魔力の塊を潰したような感覚があっただけであった。

 つまり決着は、まだついていないと考えるべきであろう。


 そう考え、セレトは、探知の魔力を周囲に展開し様子を探る。


 「おやおや。油断は、してくれませんかね」

 瞬間、セレトの背後から声が聞こえ、同時に槍による一撃が放たれる。


 「まさか、まだ生きていると思いもしなかったよ」

 セレトは、槍に貫かれながら、ぼやくように語り返す。


 「それは、私の台詞でもあるんですがね。いやはや、逃げ足だけは早いようで」

 背後に立つ存在、ユラも、ぼやくようにセレトに語り掛けてくる。


 「あれに喰われた存在が、まだ生きているとは思いもしなかったよ。調停者の権限かい?」

 そういいながら、セレトは、首を回し背後へと視線を向ける。


 「いえいいえ、私のちょっとした力ですよ。貴方程、狂っては、いないつもりですが」

 そういいながら、ユラは、槍を強引に動かす。

 その動きに合わせ、セレトの肉体が槍によって裂かれた瞬間、セレトの身体は、爆発した。


 「そうそう。こうやってすぐに身体を捨てたりね。でも、どこかに潜んでらっしゃるんでしょう?」

 だがユラは、セレトの身体の爆発も意に介さず、周囲を見回す。


 「何、油断をしてくれても構わないんだがな」

 そう言いながら、セレトはユラの目の前に姿を現す。

 ユラに背後を取られた時点で、既に魔力の塊を囮にしていたのである。


 「おやおや。貴方相手に隙などを見せるつもりはありませんよ。さて、そろそろあきらめてくれませんかね?」

 ユラは、こちらに笑いかけながら魔力を再度展開をする。


 「黙れ!」

 その魔力の展開の間を抜けて、セレトは、ユラとの距離を詰め、そのまま闇の魔剣を生成し、彼女の首を切り落とす。


 「けけけけ。大したものですな。怖い怖い」

 しかし、ユラは、その一撃を喰らいながらも、笑みを浮かべながらこちらへと笑いかけてくる。

 そして、そのまま身体と首は、黒い灰へと変わり、そのまま風に吹かれるまま霧散する。


 「いい加減くたばれ!」

 そういいながら、セレトは魔力の開放により、一気に大量の黒い腕を呼び出し、四方八方へと展開をする。


 それらの腕は、セレトの周囲から飛び掛かってきた、複数のアサシンを貫く。

 だが、貫かれたアサシンは、影のように消失する。


 まるで夢幻のような実体のない存在に不快感を感じながらも、セレトは、周囲へと感覚を集中させ、存在を捉えようとする。


 魔力による探知。

 周囲に展開した様々な存在との視界の共有。


 これらのセレトの感覚が、一斉に複数の存在を捉える。

 同時に、それらの存在へ向け、セレトは、大量の魔剣を生成し投げつける。


 「けけっけ。怖い怖い」

 「いやはや本当に、恐ろしいですな。ひひひひひ」

 そう笑い声を上げながら、貫かれたアサシン達が、次々と消滅をしていく。

 だが同時に、次の存在たるアサシンが飛び出し、セレトへと飛び掛かってくる。


 「セレト卿。貴方は、十分に努力されたではないですか。もう楽になられては?」

 ユラの声が周囲に響く。

 同時に、その声と連携するように、次々とアサシンが飛び出し、セレトに襲いかかる。


 「黙れ!俺は、俺の思うが儘に生きるだけだ。お前らの人形ではない!」

 そういいながら、セレトは、襲い掛かかるアサシンを倒し続ける。


 倒されたアサシン達は、煙のように消えていく。


 その様子を、確認しながら、セレトは、ユラの本体を探す。


 展開されているアサシン達は、ユラが魔力を固めて生み出した、スペアの肉体。

 いくら倒そうとも、ユラ本隊にダメージを与えるわけではない。

 だがこのままユラの魔力が切れるまで待とうにも、その時まで、セレト一人が耐えられる可能性は低かった。


 こちらの切り札である召喚術を何らかの方法で破った存在である。

 更に、彼女の主であるヴルカルも、どこかで様子を伺い、こちらの隙をついてくる可能性は十分にあった。


 だからこそ、こちらが先制を取り、ユラの動きを封じることが、現在一番必要なことであった。


 「そのために、貴方の意地であの聖女を倒したいの?愚かしいわねぇ」

 ユラは、相変わらずこちらを小馬鹿にした態度で、次々と追撃の攻撃を展開してくる。


 「なんとでも言え。俺は、ここを生き延びるだけだ」

 そう言いながら、セレトはユラの攻撃を防ぐ。

 同時に、ユラが潜んでいそうな場所に雨あられのように魔剣を生み出し降らせる。


 「生き延びてどうするの?けけっけ」

 セレトにその身を貫かれながらも、ユラは、笑い声を上げながら、こちらに語り掛けてくる。


 「貴方が望んでいる聖女の命を奪う理由。その大義名分は、既になくなった。ひひひ。」

 セレトの目の前に飛び出してきたアサシンが短刀を振るいながら、そう語り掛けてくる。


 「黙れ!」

 セレトは、そう言いながらアサシンを黒い腕で貫く。


 「そしてあなたも、彼女を殺しても、もう意味はない。王国は、既に貴方の居場所ではなくなった。くくく」

 魔力を放ったセレトの隙をついて、背後から次のアサシンが襲い掛かる。


 「黙れええ!」

 アサシンの刃がこちらを突き刺すと同時に、セレトが放った魔剣がアサシンの額を貫く。


 「ひひひ。まるで空っぽの人形。哀れね。ねぇ、本当に哀れ」

 どこからか、セレトの耳に向けてユラの声が響く。


 「ふざけるなぁ!」

 セレトは、叫ぶと同時に無差別に黒い腕を大量に展開をする。


 「たかが人形を展開すること位しかできない、腰巾着如きが偉そうに!くそ!くそ!」

 叫びながら、セレトは、ただただ破壊のためだけに魔力を強引に放ち続ける。


 ユラが述べた言葉をかき消すように。

 彼女が述べた言葉、自身の存在意義の否定。

 それらに対する怒りを放ち続ける。


 同時に、何とか落ち着きを取り戻しながら、周囲の様子を探る。

 そして、ユラは、自身の魔力でアサシンの分身体を生み出し、四方八方から襲い掛かってくるが、その魔力の源とも思えるような感覚が、前方のある一点から感じられることに気が付いた。


 「けけけ。どこをお狙いで?」

 ユラは笑い続ける。


 今度こそ逃がさない。


 「いやいや。恐ろしいですなぁ。だが無駄ですよ。ひひひひ」

 ユラの声が、魔力の源を感じている方角と反対から聞こえる。


 そちらに攻撃を放ちながらも、魔力の源が感じられる地点への集中は絶やさない。


 「おやおや危ないですなぁ!」

 ユラの声が聞こえる場所や、周辺に、無差別に黒い腕を放つ。


 一見、周囲に無差別に離れた攻撃は、徐々に周囲を取り囲んでいく。


 「けけけ。人形に過ぎない貴方に、私を倒せますか?」

 ユラが、笑いながら、語り掛けてくる。


 「ああ。お前は、ここで消えろ」

 本命。

 ここで仕留める。


 セレトは、彼女の本体に向けて、本命の攻撃、魔力を込めた剣による一突きを放つ。

 本体を貫かれれば、いくらユラであっても滅することが可能であろう。


 「あぁ、残念。だから、それは無駄なのですよ。ねぇ我が主」

 だが、一撃を放とうとするセレトに向けて、ユラは、笑いながら顔を向けると、そう優しく言い放った。


 「そうだな」

 瞬間、セレトの背中に強い衝撃がぶつかり、同時に、その一撃の主からの声が聞こえた。


 「やれやれ。人形には、人形以上の役割は、誰も求めんよ。なあ?」

 そのまま地面に倒れたセレトを押さえつけながら、まるで蜘蛛のような身体を得た、ユラの主、ヴルカルは、唯一残った人間の名残ともいえるその顔をこちらに向けながら、淡々と語り掛けてきた。


 第五十五章へ続く

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