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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間53

 幕間53


 「随分と広いな。やれやれ。これじゃ人探しも面倒な話だ」

 グロックが何度目か分からない愚痴をこぼす。


 ロットは、その言葉に反論をしようと、一瞬口を開くが、思い直し、すぐに口を閉じなおす。

 彼と言い争いをしても無駄である。

 一度口論が始まれば、無駄な体力を使うだけで、自身が得るもの等ないことを、グロックはよく理解をしていた。


 「まあいいじゃない。この感じ、探している内の誰かは潜んでいそうよ」

 ネーナが、グロックの方を向かずに応える。


 そんな彼女の言葉にグロックは、無意識に進行方向の先、今自分達が向かっている場所へと視線を向ける。

 無駄に長く続く廊下の先、そこからは、微かな戦闘音と、僅かな魔力の流れが感じられていた。

 そしてロット、グロック、ネーナ、そして黒衣のローブを纏った人物は、それぞれの感覚で、その戦闘を感じ取り、全員一致でその場所へと向かうこととなったのである。


 「しかしこれは、セーフティーハウスか?坊ちゃんは、こんな玩具を持っていたなんて話を聞かないし、ヴルカルの旦那様の持ち物かね?」

 グロックは、周囲を見回しながら独り言とも、誰かへの問いかけとも思えるような声で喋り続ける。


 「ヴルカル卿でしょうね。このクラスの道具を隠し持っていたなんて、さすがにお貴族様は違うわね」

 そんなグロックにネーナが応える。


 「全くですな。いやはや、さっさと仕事を片付けて帰りたいものですな。おや、どうした?」

 グロックが言葉を止め振り向いた先には、同行していた黒衣のローブの人物が立ち止まり、若干ずれた方向にある壁へと視線を向けていた。


 「こっちが正解?」

 ネーナは、同じ方向へと顔を向けながら問いかける。


 そんな二人に黒衣のローブの人物は、振り向くと、首を振り、元の方角へと歩き始める。

 その様子を見たネーナとグロックは、お互いに肩をすくめると、そのまま歩みを再開する。


 しかし、その様子を後ろで見居ていたロットは、一瞬、三人の後を追おうと歩みを再開したものの、その足はすぐに止まった。

 そしてその足が次に歩みを始めた瞬間、その向きは変わり、先程黒衣のローブの人物が振り向ていた方角へと向かっていた。


 別段、何か感じたわけではない。

 だが、その直感が、先程、向かっていた方角ではなく、今、向かっている方向へと進むことを強く求めていた。


 目の前に壁が迫る。

 壁の材質なのか、木材と塗料が混ざったような匂いが鼻に届く。

 もう壁と、彼の顔は、ぶつかる寸前であった。


 だが、ロットは、そのまま次の一歩を踏み進めた。


 ぶつかる。


 そう感じた瞬間、ロットの身は、そのまま壁を抜けた。


 「おやおやおやおや。何故ここに?貴方の舞台はこちらじゃないですよ?」

 驚きで、状況が飲み込めていないロットの耳に、耳障りな声が響く。

 声のする方向へと目を向けたロットの前には、ヴルカルの配下、ユラと呼ばれている女が立っていた。


 「ユラ?!まさかこんなところにいるとは!」

 ロットは、驚きを見せると同時に、他のメンバーへと知らせるべき、叫ぶように声を絞り出す。


 「いやいや。ここは、普通とは、少し違う場所でしてね。声を上げても、まあ無駄ですな」

 ユラは、笑みを浮かべながら、こちらを見てくる。


 彼女の言う通り、ロットの声は、外に流れた様子もなく、また元の場所に戻ろうと、自身が通り抜けたであろう壁の位置に手を付ける物の、その手は壁を抜けることなく、固い壁へとぶつかる。


 「なるほど、俺はお前の張った罠にかかったというわけか」

 ロットは、武器を構えながらユラに問いかける。

 逃げるにしろ、戦うにしろ、可能な限り情報を引きただすチャンスは活かすべきであろう。


 「罠?いえいえ。招かざる客という者ですよ。貴方方は」

 ユラは、こちらに向けて、盛大に首や手を振りながら応えてくる。


 「ほう。なら、ここに来られるのは、そっちの予定外というわけか」

 ロットは構えた武器を相手に向けながら隙を伺う。


 「えぇえぇ。ここはバックヤード。出番がある役者がいる場所ではありませんよ」

 そういいながら、ユラは、こちらの方へと武器を構えてくる。


 「貴方が何と考えようと、この状況は、私が望んだものではないですしね。さて、どうしますか」

 同時に、ユラが構えた左手に魔力の動きがみられる。


 仕掛けてくる。


 そう考えると同時に、ロットは、武器を抜き一気に距離を詰めた。


 「おや?あららら」

 瞬間、ロットの刀の動きに合わせるように、ユラの首は、彼女の胴体から落ちる。


 「ここは、一つ、いやいや。参りましたね…」

 落ちていくユラの首と直立不動の身体は、声を漏らしながら、徐々に砂のようになり消えていく。


 「?!兄さん?」

 そして、その消え去った身体の向こうに見えたものに、ロットは声を上げる。

 奥の壁にもたれかかる様に倒れている自身の兄、ユノースが見えたのである。


 「いったい何が?」

 そう言いながら、倒れているユノースへとロットは、一気に距離を詰める。

 少なくとも、自身が追っている片割れ、ヴルカルの部下、即ち敵ではあるが、同時に自身の兄である。

 それに、ユノースを確保することで、現在の状況の把握、自身の主、リリアーナの救出、様々な面でプラスに働く。

 そう心の中で言い訳もしながら、ロットは、ユノースのもとへと向かう。


 そして、そのロットの声が聞こえたのかユノースの目が開き、ロットの姿を認める。


 「ロット?来るな!」

 だが、近づいてきたロットに気が付いたユノースは、負傷しているであろう身体を無理に動かし、ロットに警告を発する。


 「?どういうことで…」

 ユノースの声に、ロットは、疑問を口にする。


 だが、その言葉が出切る前に、ロットは、殺気を感じ、その方角へ本能のまま一撃を打ち込む。


 ガキン。


 その一撃は、アサシンが振り下ろした刀とぶつかりあう。


 「何者?!」

 急に目の前に現れた敵に驚きながら、ロットは、次の一撃を放つ。

 だがその一撃は空を切る。


 「ききき。残念ですなあ」

 笑うような声を上げながら、アサシンは、短刀を投げつけてくる。


 「くそ!」

 その短刀を叩き落としながら、ロットは、口汚く悪態をつく。


 何が起こっているかは、分からないが、少なくとも目の前に敵がいる。

 ならば、その敵を倒し、先に進むのみ。


 そう決めたロットは、武器を構え相手の出方を見るのであった。

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