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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間52

 幕間52


 「全く、何が起こっているんだ?」

 ユノースは、無駄に入り組んだ宮殿の中を闇雲に進みながら愚痴をぼやく。


 ヴルカルから渡された鍵によって辿り着いた、緊急時の避難場所。

 その空間に辿り着いた瞬間から、ユノースは、何らかの戦いが行われている気配を感じ取ってはいた。


 自身の主が避難している場所における戦いの気配。

 それは、自身の主の敵が、この空間のどこかにいるということであった。


 最もユノースとて行く先に当てがあるわけではない。

 ただ戦いの気配、魔力の流れを感じながら、そちらの方向に進んでいるだけである。

 だが、その魔力の流れは決して弱くなく、ユノースの足は自然と早まる。


 「おやおや。急いでどちらに向かわれますのかな?」

 しかし、そんなユノースの足を止める声が周囲に響く。


 「ユラか?これはどういう状況だ?」

 ユノースは、声の主に大声で語り掛ける。


 「きひひひ。状況?状況は、好転してますよ。けっけけけ」

 ユラは、いつものこちらを嘲笑う態度で応えてくる。

 最もその声は、魔術で遠方から送られてきてるものであり、声の主は、この近くにはいないようであったが。


 「好転?ヴルカル様はご無事なのか?いや、他の部下達は?ここには、誰がいるんだ?」

 そんな、ユラの態度と声に苛立ちを感じながも、平静を装いながら、ユノースは自身の疑問をユラにぶつける。

 何が潜んでるか分からぬ伏魔殿の中で、自身と同じ人間を主としているユラの声は、苛立ちの中でも、確かな安心感をユノースに与えていたのである。


 「あぁその件ですが」

 そんなユノースの声に応えるようにユラが語り掛けてくる。

 広い空間に響く、その声にユノースは耳を傾ける。


 「けけけけ。貴方には、関係がないことですね」

 瞬間、ユノースの耳元に声が響く。


 「何?!」

 ユノースが叫ぶとともに、首筋に冷たい物が当たる。


 「ここで、退場をしていただきましょう」

 同時に、ユラの声が響き、首筋に当てられた物体が動き出す。


 「何をする!」

 だが、ユノースは、その物体が動き切る前に身体を動かし、その一撃を避ける。


 「おやおや。残念。これで終わらせたかったのですが」

 そんなユノースに対し、ユラは、笑みを浮かべながら言葉をかけてくる。


 「どういうつもりだユラ?我々を裏切るつもりか?」

 そういいながら、ユノースは、ユラと向き合う。

 見ると、ユラの右手には、恐らく先程までユノースの首筋に当てられていた物体、ナイフが握られていた。

 刀身が短いと言えど、あの刃物による一撃をあのまま首に喰らえば、ユノースとてただでは済まなったであろう。


 「裏切る?なぜ皆様、勘違いをされるのでしょう?私は、ただただ自身の主のためだけに動いているというのに」

 だがユラは、そんなユノースを笑うかのような、いつも通りの態度で声をかけてくる。

 最も、その手に持った刃物は、こちらに向けられ、魔力の動きは、明らかにユノースへの殺意へと繋がっていた。


 「俺は、ヴルカル様の刀であり、盾だ。その俺を排除しようとすることは、すなわち、ヴルカル様への敵対の意思ということで間違いないだろう」

 ユノースは、ユラへと武器を向け、同時にその動きに目を光らす。


 魔術師であるユラの力は知っていたが、ユノースとてそれなりの場数は踏んでいる。

 彼女の考えは分からなかったが、こちらに敵対する意思が確かなものであるなら、そのまま刀を振るい倒すことは十分に可能である。


 「いやはや。なんと短絡的な。貴方が全ての中心にいると?」

 ユラは、そんなユノースに対して、余裕の態度を崩さずに問いを続けてくる。

 その動きに、まだこちらに仕掛けてくる気配はない。

 それならば、こちらから仕掛けるか。


 「だから、貴方本質を見抜けないのよ。例えばこういう風にね!」

 だが、瞬間、ユラがこちらに向かって叫ぶ。

 最も、目の前のユラが動く様子はなく、こちらを見ながら立ち続けている。


 魔力の動きもなく、ただ殺意だけが向けられた状況。

 こちらへ仕掛けてくるかと思い、迎撃のために力を溜めていたユノースは、動きのない現状に拍子抜けする。


 「分からない?こういうことよ」

 だが、その瞬間ユノースの脇腹に痛みと熱が走る。


 「?!何?」

 驚きでユノースは後ろを振り向く。


 「けけけ。また会いましたな」

 そこには、先程、砂漠で戦ったアサシンが立っていた。


 「おやおやおやおや。さてさてどうしますかね?浅いようにも見えますが、結構深く入ったようですな」

 ユラは、先程までと同じ場所に立ち、笑いながらこちらを見ている。


 「ひひひひ。さて、どうしますかあ?」

 後ろでは、アサシンが笑いながら、こちらに武器を向けている。


 「お前ら、いや、ユラどういうつもりだ?」

 ユノースは、武器を構えながら、傷をかばい、ユラとアサシン、二人を牽制する。


 数の上は、二対一。

 こちらが圧倒的に不利であったが、自身の剣技と魔力を活用すれば、まだ勝機はあるはずであった。

 アサシンのカラクリも正体にも、凡その予想はついていた。

 その考えが当たっているなら、まだ自身にもチャンスがある。


 そうして戦闘態勢を整えるユノース。

 だが、その瞬間、自身の身体の力が抜けていくのは感じた。

 その感覚の広がりは、先程刺された傷口から徐々に始まり、今や、全身へと広がっていた。


 毒の存在に思い当たったユノースがアサシンの刃に視線を向けた瞬間、彼の意思は、闇の中へと落ちていった。

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