表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏夜の鬼 語り残し  作者: 真鴨子規
27/48

27

「さて、食事中ではあるけれど」

 一つ目のスパイシーツナロールを堪能したあと。湯気の立つ湯飲みに手を伸ばしながら、ミキが切り出した。

「情報共有といこうか、チリ君。互いに動きがあったはずだから――ああ、なんだか長い一日だったね。認識を合わせておくべきだろう」

 首肯してから、今日あったことを順に思い出す。

 黒川先輩と会い。

 駅前で、ゾンビのように操られた集団に追いかけられ。

 山の上で、その首謀者を見付け。

 ノアールと再開し、殴られて。

 ここへ来るバスの中で、例の黒猫と話をした。

「ふむ」

 特に意見を挟む余地はない。

 俺の身に何が起きたのか。ミキは何か驚く様子もなく、平然と食を続けている。

「ゾンビか。……私も追いかけられたかったな」

「言ったな? お前言ったな?」

 まあまあ、と冗談めかしてミキは笑う。完全に面白がってやがる。

「だって君、ゾンビの集団に追いかけられるとか、どこのハリウッド映画の主人公だよって話じゃないか。しかも傍らにはヒロインたる美女まで引き連れてさ。出来過ぎているとは思わないかい?」

 羨ましいなぁ、などとミキは目を輝かせた。その羨望の眼差しは、からかい半分とは言え、本気でもあるのだろう。

 何事も、長続きさせるためには、遊び心を持つことが大切だと言うが。俺がミキの域に達することは永遠にないと思う。というか、頼まれても達したくはない。

「知らねぇよ。代わりたいなら代わってくれ」

「え、じゃあチリ君がヒロイン役だよ?」

「ゾンビに食われて死ね」

 話が逸れている。が、ミキ相手に円滑な情報交換などできるわけがないのだ。これは諦めるしかない。

「能力者の名前は『九十九つくも 伊太郎いたろう』」

 しばらく逸れ続けた話がようやく戻って、ミキは本題へと話を移行させた。

「能力は降霊術。恐らく九尾くおの系譜の人間だろうね。真っ向勝負では厄介な相手だったが、通りすがりのノアールに挽き潰されてしまったあたり、運勢は最悪だったらしい」

 そこまで情報が割れているということは、あの理科系男も無事に行方不明となったのだろう。

 行方不明――文字通りの意味だ。身元不明のまま地球の裏側で見つかるとか、そういうことさえ有り得ない。

 その状態から脱した人間は、俺の知る限りでは一人きりだ。

「九尾――元々この辺を管理してた家だったか?」

「ああ、主要十家が一つ、狐憑きの九尾。本家はとうに没落しているし、だから私がここにいる訳だがね。血と地の親和性は切っても切れない。彼らの能力は、この夏臥美でこそ最大限発揮される。本当に、チリ君が無傷で安心したよ」

 居心地が悪くて、誤魔化すようにスパイシーツナロールを頬張る。

 夏にも食べた料理だが、やはり旨い。疲労と、若干痛む身体の節々に、米の活力が染み入るようだった。からしが良いアクセントで、なんとなくだが気分も上向く。

「これで二人目か。ああ、もしかして一人目の水鉄砲野郎も、主要十家の親戚かなんかなのか?」

「だろうね。一宮いちのみやが射撃の名手だったことを思えば、関連性は大いにあると言える」

「…………」

 没落したとは言え。

 この町に潜入した能力者の二人ともが、機関の中で力のあった一族の関係者だったということは、つまり。

「じゃあ、後の二人も」

「ああ。当然の推察だね」

 パクリと、ミキは次のスパイシーツナロールを口に入れる。まるでスナック菓子でも食べているようだ。

「基本的にさ」

 ミキが、どこか遠い目をして、そんな風に切り出した。

「能力者の輩出という点で、血縁関係はそれほど重要ではない。我々の世界で能力は遺伝するものではない。あるのは技法の違いだけだ。何かしら一つの方向性に絞って能力開発を行うため、能力者の家系は、それぞれ独自の技術体系を確立させてきた」

「……聞いた覚えがあるな、その話」

 ミキ――ではなく、ひのえからだっただろうか。

 何世代にも渡り、力を維持し続けるのは難しいことだ。事実として、機関の主要十家などと呼ばれた家々も、半数以上が潰えている。

 時勢もあるが、家として異能を保持し続けるのは難しく、その割に見返りは少なくなってきている。

 機関は人手不足だと、自嘲気味にミキが零すのを、これまでも何度か目にしていたが。能力者の家系が減少傾向にあるのは、むしろ自然な成り行きなのだろう。

「その流れの中で、分家にも能力開発を行うかどうかは、家によって対応が分かれていた。重要な力を、本家だけが保持しようとした家もあれば。リスク分散という観点で、分家筋にも株分けしていた家もあった」

「株分け……」

 なんというか。比喩表現としては適切なのかも知れないが。

 フワフワした夢物語が、急に現実に引き戻されるような違和感がある。

 違和感というか。なんか、間抜けな感じがする。

「対応が分かれたと言ったが、大多数は後者だよ。昔はまあ、安いプライドからか本家に拘った家もあったがね、今は違う。というか、そんなものに拘っている余裕さえないというのが実情だよ。未だ本家だけに能力者開発を行うのは、そうせざるを得ない理由があるからだ」

 しみじみとミキは言って、小さく肩を竦めた。

「ともあれ。本家が没落しても、分家筋が辛うじて能力を維持していたりする訳だよ。私達が相手取ろうとしているのは、そういう者たちだということだ」

 同情したくなるだろう? などと、ミキが眉を伏せる。ある種の嫌みにも聞こえるし、恐らく当人らが聞いたら憤慨するのだろうが。残念ながら、ミキは本心からそう言っている。

「どうだかな」

 だから否定することはなかったが。

 相手の事情なんか、俺にとってはどうでもいい。

 殴ってくるなら、殴り返すまで。誰かに対する同情心なんてものを持ったまま戦えるほど、俺は器用ではない自覚があるから。 

「私が知り得た情報を開示しよう。実は今日、私もあの駅周辺にいたんだが」

「ごふ」

 飲み込もうとした米が喉に詰まり、慌てて茶を飲み干す。

「ちょっと待て、じゃあゾンビ騒動にも遭ってたはずだろ」

「いや、私は標的ではなかったらしくてね。気がついたら周りに誰もいなかった、くらいの現象だった」

 それはそれで映画のワンシーンのようだったがねと、ミキは要らない一言を加えた。

「渋い顔をしないでくれよチリ君。実際私は、君も駅周りに来ていることは知っていたし、私以外の標的とすれば君しかいないのだから、すぐさま君の元へ駆けつけたかったんだよ」

「いや来んなよ」

「あのときほど、君にGPS発信機を仕掛けておくべきだったと後悔したことはない」

「マジでやめろよ……」

 悪寒がする。

 というか、本当に。アオが健在の頃は、一体どのレベルで監視されていたのだろうか。怖すぎるだろ。

「話を戻すが、君の捜索を諦めた私は、駅――つまりこの町の中心で、ある痕跡を確認してきた」

「痕跡?」

「能力者の手による仕掛けだ。ああ、九十九の件とは明らかに別のものだった」

 能力者。

 つまり、三人目。

「解除は時間が掛かりそうだったし、当然罠もあったろうから、とりあえずは放置するしかなかったが、情報としては大きい。加えて、先ほど訪れた東堂 アンリのもたらした目撃情報を加味することで、残る二人の正体が確定した」

 勿体ぶって、ミキは一拍置き、俺の様子を眺める。

 いや、早く言えよ。

「せっかちだなぁ、チリ君は。大方そうやって、黒川嬢との逢瀬おうせを切り上げてきたんだろう」

「なんだ逢瀬って」

「なんなら、一晩待つ準備くらいはあったんだが」

「してんじゃねぇよそんな準備」

「子どもの名付けは私に任せてくれ。恥ずかしながら得意分野だ」

「てめぇの戒名でも考えてやがれ」

 ひとしきり笑ってから。ミキは、その二つの名前を口にする。

「『八坂やさか みやび』。そしてその従者『校倉あぜくら 重蔵じゅうぞう』。機関の第一勢力、八剣(ゆかり)の刺客だよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ