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夏夜の鬼 語り残し  作者: 真鴨子規
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 二人横並んで、駅前広場を南に抜ける。通行人の多さは相変わらずだが、間を縫って歩かなければならないほどでもなかった。

 目的地はない。とりあえず広場を囲む車道に沿って、ぐるりと一周してみよう、という方針だ。どちらが言い出したわけでもなく、なんとなくの行動である。

 きっと、この場所で迷子を捜す人間は、皆同じように行動するのだろう。いや、知らないけど。

「不思議な男の子でしたね、今思うと」

 どうして、あんな格好を――と、黒川先輩は浮かない顔をしていた。

 格好というのは勿論、あの狐面のことだろうが。服装についても疑問はあった。半袖短パン――では流石になかったものの、この真冬にしては明らかに薄着だった。夏臥美の冬は寒くない、と言った俺からしても、あの服装はないと思う。部屋着にさえ選ばない。

 子どもは風の子、というにも限度はある。そもそもにしてあの言葉、江戸時代辺りに出たものらしい。人間の生活もそのあり方も、時代時代でどんどん更新されていくのだ。そんな大昔の文句、いつまでも通そうとするのは錯誤が激しい。身を震わせるほどに寒い中、子どもが外で遊んでいたのは、それ以上に面白い室内遊戯がなかったからだろうに。

 まあ、大人は火の子、というのは今も変わらないが。室内遊戯は詰まらなく、それよりは面白かったはずの屋外遊技にも興じられず、結局火鉢の周りでたむろするしかない大人たちというのは、なんとも侘しい光景に思える。いや、人のことを言えた義理ではないが。

「まあ、寒そうにしてたわけでもないんだし、それは別にいいでしょう。見ているこっちが寒くなる、ってのはありますけど」

「親のネグレストとかでなければいいんですが……」

 ちらりと横顔を盗み見ると、どうやら先輩は本気で、虐待の線を心配しているらしかった。

 確かに、防寒具一つ買い与えないなんて、しつけでもなんでもないが、しかし。

 赤の他人が、先ほど一瞬顔を合わせただけの子どものことを、そこまで心配できる感性が分からない。

 キリがないだろ、そんなことしても。

「すみません、悪い癖で」

 唐突に――と、少なくとも俺は思ったが――黒川先輩は謝った。

 さっきから謝られてばかりだ。生徒会長なんてものを引き受けた人間だ、もう少し自信家なのかと思っていたが。

「子どもを心配するのは、一般的に善いことでは? 現実に虐待されてないって確証もなし」

「いえ。貴方のことを見ていなかったので」

 歩きながら、黒川先輩はこちらに顔を向けた。

「折角来てくれた貴方のことを脇において、他のことばかり。悪い癖です、本当に」

 そうやって幾つ、大事なことを見逃してきたのか――

 そんな風に言う彼女に、俺は虚を突かれたような気分になっていた。

 なんせ俺の周りには、俺の意思確認などそこそこに、自分勝手なことをする輩ばかりなのだ。自制して、頭を下げてくるなんて、突如として珍獣が躍り出てきたような感覚だ。

 いや、酷い話だ。なんだそりゃ。普通は逆だろ。どれだけ交友関係で恵まれていないんだ。

 まあ、別に……などと、よく分からない返事をしてしまう。気にしないで欲しいという意図さえ、伝わったかどうか分からない。

 なんとか上手い言い回しはないものかと考えはしたが、早々に見限ることにした。残念ながら、無理なものは無理なのだ。そういうことは不得意なのだと、俺は誰より理解している。

「とは言え、そろそろ本題には入って欲しいです。探しながらでいいんで」

「そうですね。ここからは私がリードして。ええ、頼りがいのある先輩になりますね」

 そう言って、黒川先輩は胸元で、か細い両手を握ってみせる。

 リードと聞いて、犬に括り付けるリードがまず連想されたことには、実際泣きそうになってしまった。

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