認識さえすれば世界は1つじゃない、無数になり得る
誰もが現状に満足しているわけじゃない。満足してる人なんてむしろ小数派なんだ。でも違う世界、全てが真逆の世界があれば多数派になれる。それは幸せなのか。私は気になって仕方がない。あなたは、どうなの?
土砂降りの雨。とても快雨。洗濯日和。無名俳優の電撃離婚。非常におめでたい。
朝から非常に良いニュースを聞き森永雫は玄関を出る。行ってきますは言わないの。私は一人暮らしでとても恵まれてる環境で過ごしてるから。アスファルトの上で雨はダンスし、水たまりの中で土達は水泳大会の真っ最中。雨を弾く藍色の傘は私を守る騎士。藍色の、騎士。そんなことを思い通学路を歩いていると、10メートルほど離れたところに彼を見つける。彼はとてもかっこいいから、すぐ目に留まる。高校3年生にしては160センチの低身長で私と同じ藍色の傘。
「高杉くん、おはよう。いい朝だね。」私は少しはにかんで声をかけてみた。「おはよう雫さん。今日は歩きなの?」「うん、今日は天気がいいから歩きたくなっちゃって。」もちろん嘘だ。彼に話しかける口実のために私は歩きで学校にきたのだ。彼と話したいことはたくさんある。だけど彼を目の前にすると天気の話ししかできない。そんな自分が情けなくて嫌になるけど、いつかは変わろうと思い、先送りにする。「そういえば今日、無名俳優が離婚したね。僕、すごい嬉しくて朝ごはん大盛りにしちゃった。」「高杉くん、意外に単純なんだね。」彼はこういう可愛い一面も兼ね備えている。彼に足りないのは、私なんかがいうのは失礼だけど、口数だけだと思う。でもそこがまたいいって思う私は少しおかしいのかな?クラスのみんなはもっと彼に喋ってほしい、私と喋ってくださいって星に願ったり占いを試したりと試行錯誤している。高校三年の6月とは思えない過ごしっぷりだ。そんなことを考えているうちに校門が見えてくる。「うわっ、校門前に体育の源田がいる。持ち物検査してるよあれ、やばい。」160センチの身体を存分に使い彼は悲壮感を演出する。「取られて困るものでもあるの?」私は気になって聞いてみた。「うん、今日友達に貸すCD。」「そうなんだ、じゃあ裏門から入ろうよ。それならバレないで済むよ。」「そうだね、そうしよう。」裏門に回り、体育の源田をやり過ごした私たちは3-Aにたどり着いた。なぜか教室は騒々しく、少し、嫌な予感がした。ガラガラと教室の扉を開けると予想は的中していた。教室が荒れていて、黒板には男子の字で汚く罵りの言葉がズラリと並んでいた。「なんだこれは。朝から何があったんだ?」高杉くんは教室の中の状況を飲み込めずにいる。もちろん私もだ。「金城だよ。」どこからか金城という名前が聞こえてきた。金城とは、同じクラスの男子で評判は良くない。身長180センチで細長く気持ちの悪いぬらりひょんのような顔の生徒だ。「金城?金城が何かしたのかい?」高杉くんは問いかける。「金城が女子を襲ったんだよ。それもこの教室で。」襲った?この教室で?そんな情報を得ても私はさらに状況が分からなくなった。「、、先生は、知ってるのか?」高杉くんも言葉に詰まっている。「言えるかよ。襲われたやつのこと考えたら、さすがにおれたちからはいえねえだろ。だから金城のことボコって自白させようとしてこんな状況なんだよ。」そう答えたのはクラスの委員長を務める五反田くんだった。「そうか、。おい、金城ちょっと静かなところで話そう。」「おい、高杉、何言ってんだよ。」五反田くんが怪訝な表情を浮かべて高杉くんを見ている。「五反田、ここは任せてくれないか?それにこんなに荒れてる教室見たら先生にバレるだろ。ちゃんと元に戻しておいてくれよ。」「ちっ、わかったよ。」私はどうするか迷ったが、金城に肩を貸す高杉くんの後ろについていくことに決めた。
「で、どういうことなんだ金城?」美術準備室に着くなり高杉くんは問いかけた。「お前はどっちなんだ?」「どっちって、何がだ?」この切り返しに高杉くんはよくわからないといったような顔を浮かべている。私もそうだ。「ここに、いやこの世界に違和感はないのか?何も感じないのか?」話が飛躍している。もともとは女子生徒を襲ったという話だったのに今ではこの世界に違和感があるかないかになっている。「金城、何言ってるんだい?僕は君が女子生徒を襲ったことについて話しているんだぞ?」話を本筋に戻す高杉くん。「襲ったんじゃねえ、襲ったんじゃ、ないんだ。」語気を強めたと思いきや、最後の方は尻すぼみしてしまいよくきこえなかった。「襲って、ないのか?みんなは襲ったって言っていたぞ?」「違う。俺は襲ってなんかいない、あいつは、俺の彼女なんだ。いや、今は違うのかもな。」「わからない、何を言ってるんだい金城。」彼の言葉から得られる情報は多いはずなのに、余計に話が見えなくなっている。「話しても、わかんねえだろ。」金城くんは扉を乱暴に開け、そのまま美術準備室から出て学校からも去ってしまった。「高杉くん、今の話って何が本当なのかな。」「わからない。何も、わかってはいけない。」「え?」私はすっとんきょうな声を上げていた。でも高杉くんは何も聞こえてないかのように私の方を向いた。「行こっか、教室。」その時の顔はとても優しくて、かっこよくて、でも仮面をかぶっているかのように表面的な印象を受けた。その裏側には、どんな顔があるんだろう。




