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雲の下  作者: ツミキ
6/11

6.家

「ここって、誰か住んでたのかなあ」

クミナが正面右の窓を開け外を眺めている。

「そうでなかったら、こんなの建てないだろうね」

サザリカは机の前にあるカーテンを開ける。

「何でこんな所に居たんだろう、ひとりで居たのかな」

クミナは後ろで手を組み、ゆっくり歩きながらテーブルや棚を眺める。

「理由は知らないけど、こんな移動の不便そうな場所で住むなんて変わったやつだったんだろうねえ」

サザリカが机を指でなぞると、埃が取られて跡が残った。

「まあ、水もあるし緑もあるし、別荘みたいで気持ちよさそうであるね。一人だったとしたらちょっと寂しいかもだけど」

サザリカは指に付いた埃をふっと吹くと振り返りクミナを見る。

「ともあれせっかく見つけたんだし、ちょっと調べてみようよ」

「そうだねえ……でも調べる所ってある? 何もないよここ」

クミナがしゃがみ、テーブルの下を覗く。

「そうだなあ……」

サザリカも机を調べてみるが引き出しなどは付いていない。

サザリカがクミナを見ると棚を横に移動させて裏側を見ている。

それを見たサザリカは机を引きずり裏側を見る。しかし何もない。

物がほとんどないので3分ほどで調査は終了した。

「何もないね」

サザリカは机の椅子に座っている。

「ほんとに空き家だねえ」

クミナはテーブルの椅子に座り頬杖をついている。

その後しばらく会話が止まる。

クミナは頬杖をついたまま、窓から外を眺め、サザリカは時折机を撫でる。

「ここっていい雰囲気なんだけど立地が悪すぎなんだよねえ……」

「うん……」

二人は力のない会話をする。

「……」

「……」

再び会話が止まる。

サザリカは床に目を降ろすと木目を目で追う。

クミナの足が視界に入り、そのまま目線を上げて横顔を見る。

「クミナ」

「うん?」

「いや……なんかまったりしちゃうね」

「そうだねえ、休みの日に友達の家に遊びに来た、みたいな感じ」

クミナはぼんやりと外を眺めている。

「……ふっ」

サザリカは肘掛に手を付くと、力を入れる。

バキッ。

「あっ」

椅子の下から乾いた音が響き、掛けていた手が空中に取り残される。

そのまま尻から床へ落下し、同時に頭を机の端へとぶつける。

「あ゛っ」

「えっ?」

クミナがサザリカの方を向く。

サザリカは一瞬白目をむき、そのまま床へ横向きに転がり落ちる。

「いっだあー!」

遅れて声を上げると、後頭部を押さえながら体を丸める。

「大丈夫!?」

クミナがサザリカの元へ駆け寄る。

そのまましゃがみ込み、サザリカの頭を撫でる。

「うわー折れちゃった……」

椅子の4本の脚が見事にすべて折れていた。

「ぐぎぎぎ……」

サザリカがうめき声を上げる。

「新しそうに見えたんだけどけっこう古かったのかなあ」

クミナがバラバラになった椅子の座る部分だった木を持ち上げる。

「あれ? なんか付いてるよ」

クミナが木を目の前まで掲げてそれをよく見る。

木の裏には折りたたまれた紙が2つの鋲で張り付けられていた。

紙は少し黄ばんでいる。

「え……なに?」

サザリカは目に涙を浮かべながらも体を起こして床に座る。

「ほら、これ。なんか紙が付いてる」

クミナは鋲を外すと紙を取る。

「なんでそんなとこに……」

「中見てみるね」

クミナは紙を広げる。

「あれ、字がたくさん書いてある……手紙?」


―おめでとうございます。

これを読んでいるという事は椅子の裏まで調べたのですね。

こんな場所まで探すなんて、なんだか泥棒みたいですね。

しかもここまでどうやって来たのですか? あの壁を登ったのですか? 凄い身体能力ですね。

まあそれはさておき、この場所を発見された時は驚いたでしょうね。

砂漠みたいなこの場所で、オアシスのように豊かな緑と水がありますから。

でも、もしかしたらあなたが見つけた時はここも砂漠のようになってしまっているかもしれません。

そうならごめんなさい。これを書いているときはそうではなかったのです。

あんた誰? とか思ってますか? でもごめんさない、教えられません。

ここに住み、周辺の調査をしていた人間、とだけ。

そもそも、なんでこんな手紙を残したのかという話ですが、もう私はここを離れる事になった為です。

荷物もほとんど運び出すので少しの家具が残るだけになるでしょう。

そうなると、せっかくここまで来てくれたのに何もなくてがっかりさせることになってしまいます。

なので、私が調査の際に使っていた物を少し残し、プレゼントすることにしました。

もう使うこともないので、使ってあげてください。

外に出て、家の裏へと回り、地面をよく見ると、取っ手がついているはずです。

鍵はかけていないので、開けてみてください。

あなたに喜んでもらえるものがきっとあるはずです。

ならこんな分かり辛い場所に張り付けるなって? まあ、それはゲームみたいなものですよ。

簡単に手に入ってもつまらないでしょう?

それでは、1か月後か1年後か10年後か、はたまた100年後を生きるあなたが、幸福でありますように。―


「……だって」

クミナが手紙を読み終わる。

サザリカは最後まで動くことなくそれを聴いていた。

「はぁーーーー……」

サザリカはがっくりと首を下げ大きくため息をつく。

「見てみる?」

クミナがサザリカに手紙を渡す。

サザリカは無言で受け取ると目を通していく。

読み終わるとまたため息を吐き、手紙を畳んでクミナに返し、立ち上がる。

「ほんとくだらないことしてくれて……」

そう言いながら腰に手を当て、先ほどぶつけた部分を手でさする。

「どうしよう?」

クミガがしゃがんだ状態からぴょんとジャンプで立つ。

「こんな見つけてもらえるかも分からない場所に隠してたんなら、本当の可能性は高いんじゃない。とりあえず行ってみよう」

「調査、とか書いてあったけどなんの調査なんだろ。ここで何か探してたのかな」

「うーん、ほら、前に大量の宝石を見付けたでしょ。ああいうお宝目当てなんじゃない」

クミナは手紙を広げ再び目を通す。

「あと、離れる事になったって、別の場所に今も住んでるのかな」

「私達が知らないどこかに、人が集まる場所があるのかもね、それか、もしかしたらあの塔の中とか」

「塔……」

クミナがぽつりと呟く。

「調査って書いてるし、元々ここに住んでた人間とは思えないんだよねえ。塔から出てきてここを拠点にしてたのかもね」

「確かにここは不自然なくらいに綺麗だし、塔の人だったとしたら納得できるかも……」

「まあ、とりあえずそのプレゼントと早く見てみようよ」

サザリカが机の上のリュックを背負う。

「あれ、けっこう楽しみにしてる?」

クミナが家から出て行こうとするサザリカの背中に声をかける。

「まあね、塔の人間の物なんてそれなりの価値はありそうだし」

「あははっ、それでもそれなり、なんだね」

クミナは笑ってサザリカの後を追う。


二人は外へ出ると右へ曲がり家の裏側へと歩く。

手紙で示された地点へたどり着くと二人でしゃがみ込み、草を手で払いながら辺りを探す。

緑の草は10cm程の高さで生えている。

「取っ手取っ手……」

クミナは四つん這いになる。

「そんな広くないんだしすぐ見つかりそうだけど……」

「時間が経って草と土で隠れちゃったのかもねえ」

その後30秒程が経過する。

「あっ、あったよ」

「んー」

サザリカが声のする方を見ると、クミナは中央より少し正面右の窓寄りの位置で四つん這いなり後姿を見せている。

「パンツ見えてるよー」

「えっな、なに見てるの!」

クミナがスカートを押さえながら立ち上がりサザリカを見下ろす。

「別に見ようとしたわけじゃないんだしセーフでしょ」

「はいはい、見つけたからここに来て」

クミナはあきれ顔になり地面を指差す。

「どれどれー」

サザリカが近づく。

「やっぱり土で隠れてたみたい」

草と土が払われた地面からは、横幅20cm程の錆びた取っ手が顔を出していた。

かすかに銀色を覗かせている。

「鍵はかけてないって言ってたね」

クミナは取っ手に手をかける。

「じゃあ開けるよー」

「私もやるよ、いつもいつも力仕事まかせっきりだし」

サザリカはクミナの横に立ち一緒に取っ手を握る。

「じゃあいくねえー、せーの!」

二人が同時に取っ手を引く。

「ぐぐぐ……」

「んー」

そのまま力を入れ続けると、二人の周囲の地面に亀裂がはいっていく。

亀裂は段々はっきりと見えるようになっていき、地面が持ち上がる。

パラパラと土をこぼしながゆっくりと四角い穴が地面に空いていく。

「もうちょっと……」

「ぐぐぐ……」

サザリカは汗をかいている。

そして地面が垂直まで持ち上がると停止した。

「ふぅ……」

「あ゛ー」

二人が手を離し地面に尻を付く。

「想像以上に重かったねえ」

「そういう割りには元気そうだね……」

見るからにくたくたのサザリカとは反対に、クミナはいつもと変わりない様子でいる。

そのまま二人は四つん這いで回り込み、穴の中を覗く。

そこには梯子が掛けられている、下の方はまっくらで何も見えない。

「本当にあったねえ」

クミナは楽しそうな様子だ。

「あー!」

サザリカが穴に向かって声を出す。

「うわっ! びっくりしたー……」

クミナが体を震わせる。

サザリカは耳を下に向けると目を瞑っている。

「うーん、ちょっと深めかなあ」

「でも、ここまで来たら行くしかないよね」

クミナがサザリカを見てニコっと笑う。

「ははっ……そうだね」

それを見たサザリカも笑い返す。

「じゃあ、私から先に行くよ」

サザリカはそう言うと梯子に手足をかける。

「わかったー」

サザリカが降りるのを確認するとクミナも後に続いて降りる。

「パンツ見えてる」

穴の中から声がした。

「ってその為に先に降りるっていったんじゃないよね!?」

クミナはスカートを押さる。

その後、サザリカが降りて行く音を確認すると、梯子に手を掛け直した。

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