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雲の下  作者: ツミキ
3/11

3.再びアリジゴク

夜、テーブルの上にロウソクを灯して食事を摂っていた。

「ねえ、あのでっかいやつってなんなのかなぁ」

干し肉と野菜に塩をかけたものを食べながらクミナが言う。

昼間塩水につけていた肉は部屋内にぶらさがっている。

「なんだろね」

サザリカも同じものを食べながら答える。

「生物なのかロボットみたいなもんなのか知らないけど、近づかない方がいいのはわかるよ」

「私達以外にあんな……なんていうか……動くもの? を見たのって初めてだよね」

クミナがコップの水を飲む。

「ずっとクミナと二人きりで生活できると思ったのに残念だなあ」

「私もサザリカと二人きりがよかったなぁ……ってそうじゃないよ」

「まあ、もうあそこには行かない方がいいね、危険すぎる」

「ねぇサザリカ」

「ん?」

サザリカがクミナの方を見ると少し楽しそうな顔をしている。

クミナは直感で嫌な予感がした。

「あれ、倒しに行こうよ!」

「はぁ?」

サザリカが呆れる。

クミナがテーブルに両手を付いて前に乗り出してくる。

「あれ絶対もの凄い価値のある物で出来てるよ! パーツを取れればかなり生活が楽になるよ! もしかしたら乗り物に使えるものもあるかも!」

二人は遠出するための乗り物を以前から欲しがっていた。

「いや、無謀じゃない?あんなどでかいの倒すってどうやって倒すの」

「それは今から二人で考えよー!」

元気答えるクミナ対して、サザリカは口を開けたまま固まる。

「クミナ……」

サザリカはそのままテーブルに顔を付けた。


朝、二人は部屋の二階に並べられた、砂の上に汚れたシーツをかぶせただけのベッドで目を覚ました。

結局昨日の夜は特にいい案も出ず、寝る事になった。

「はぁ~クミナおはよう」

横を向いたサザリカの先にクミナはいなかった。

「あれ、もう起きたの?珍しいなあ……」

頭を掻きながらサザリカが上半身を起こす、重さで砂が沈んでいく。

今日も天気は曇り、温度も昨日と同じくらいだ。

そのまま立ち上がり床に置いていた服に体を通す。

服もあの機械から出て来たたものだ。具体的には選べないのであるものをテキトウに着ていた。

二人とも寝る時は下着姿だった。

クミナと比べるとサザリカの体は随分貧相だった。


「おはよう」

サザリカがあいさつをしながら降りてくる。

「おはよ~」

クミナは一階のテーブルで蒸かした芋を食べていた。

「今日は早いね、どうしたの?」

「いやぁ、興奮してあんまり眠れなくて」

昨日の夜、もう一度あの塊のいたすり鉢状の場所へ行ってみようという話になった。

サザリカは嫌がったがクミナがどうしてもと引き下がらないので、嫌々承諾した。

「私はテンション低いよ……あそこにまた行くなんて。ていうかクミナは怖くないの?」

サザリカも椅子に座り芋を手に取る。

「確かに怖いけど、絶対あそこにはなんか凄いものあるよ! いつまでもこうしてても先に進めないし、あそこはもう少し調べてみるべきだよ」

「まぁ、そうかもね。でも気を付けてよ、怪我しないように」

軽い口調で言う。

「分かってるって」

クミナが笑った。


「そういえば、銃って今まで見つけたことなかったね」

二人は目的地に向かって歩いていた。

近づくほどに砂の占める量が増えていく。

「そうだね、あの機械じゃそういう物は出てこないし。錆びたノコギリは拾ったことあったけど」

そのノコギリは武器として持ってきていた。

「あの機械っていつまでああやって使えるんだろ」

サザリカは一瞬言葉に詰まったが、すぐに明るい口調で言葉を出す。

「さあね、まあ使えるうちはありがたく使っておこうよ」

「でも、使えなくなったら私達たぶん死んじゃうよね……」

そう言いながら少し俯くクミナをサザリカは横目で見る。

「クミナが側に居てくれれば、私は死んだとしてもそこまで後悔しないと思うよ」

「私も……サザリカに会えたことは今までの記憶の中で一番幸せな事だったよ」

クミナがそう言った後、しばらく沈黙が続いた。

砂を踏むサクサクという音と風の音がよく聞こえる。

「そんなことより今はアレをどうにかする事を考えよう」

サザリカが先に口を開いた。

「そうだね、今後の生活の為にも」

クミナはぐっと拳を握りしめ、明るい口調で返した。


目的地にたどり着くと、サザリカはリュックとノコギリを降ろす。

二人はうつ伏せになり縁から中を覗きこんだ。

昨日と何も変わっていない。

「どうしよう?」

「どうしようって言われてもなあ……石でも投げてみる?」

「危なくない?」

クミナが心配そうな顔をするがサザリカはいつもと変わらない。

「たぶんあいつはこのアリジゴクの中からは出てこないよ」

「えっどうして?」

「昨日、あいつは縁までしつこく追いかけてきたのに外までは出てこなかった。出てくれば確実に私達を捕まえられたのに」

「外に出て見えなくなったから止まったんじゃない?」

「クミナは知らないだろうけどあいつ、穴の中からこっちを見てたんだよ、確実に私達を見てた、なのにこの穴から出てこなかった」

「そうだったんだ」

「クミナが顔面ぶつけて動かなくなってたすぐ後ろでね」

「えっそ、それを聞くと急に鳥肌が……」

クミナが自分の体を抱きしめる。

「だから石をぶつけて動いたとしても穴の外に居れば安全だよ」

「そっかぁ……ならやってみようか」

「もし予想が外れたら死ぬと思うけどその時はごめんね」

「ってどっちなの!」

「クミナが側に居てくれれば、私は死んだとしても後悔しないよ」

「それさっき聞いたよ……」

サザリカは立ち上がり、手のひらサイズの石を拾った。

クミナもため息を吐いて立ちあがる。

「私じゃとてもじゃないけどあそこまで届かないから、クミナに任せるよ」

「うん、わかった」

クミナはサザリカから石を受け取り握った。

「じゃあ、投げるよ」

「オーケー」

「せーの」

クミナが後ろに振りかぶる。

「行けー!」

そして、石を塊に向かって投げた。


投げられた石は勢いよく飛んでいき、綺麗な放物線を描きながら塊に向かっていく。

やがて塊の真上より少し下の位置へ石がぶつかった。

「やったぁ!」

「おー凄いね」

サザリカが感心した様子を見せる。

数秒後、塊がモゾモゾと動き出した。

「伏せて!」

サザリカがそう言いながら伏せ、クミナも続いた。

塊は昨日と同じように徐々に砂の中から姿を出し、緑色の目を光らせた。

「おー」

「本当になんなんだろうあれ……」

全身を現した塊はそのまま脚を出すと、動きを止めた。

数秒後、見渡すように左右に体を動かし始めた。

「こっちにはまだ気付いてないみたい」

うつ伏せのままで二人は様子を覗っている。

「ここで立って大声とか出してみたらどうなるかなぁ? 外に出てこないなら大丈夫だよね」

「ま、まぁ、大丈夫だと思うけど……」

サザリカは塊をじっと見る。

そしてはっと息を吐くと立ち上がった。

「サザリカ?」

そのまま仁王立ちの格好になると、大きく息を吸い込んだ。

「おーい!こっちだこっちー!」

サザリカの声が静かな世界に響く。

その場でウロウロとしていた塊が二人の居る方向を向いた。

「うわ、こっち見た。音が聞こえてるのかなあ」

クミナはうつ伏せのままだ。

「来れるなら来てみろー!」

「そ、そんなことは言わなくてもいいんじゃない!?」

クミナが心配そうな顔でサザリカを見上げる。

塊はこちらを確認すると移動し始める。

「おっ来た来た」

「大丈夫かなあ」

クミナも立ち上がりサザリカの側に寄る。

その時、今まで聞いたことのない大きな風の音が聞こえた。

「ん?」

「クミナ!あっちあっち!」

クミナの指を差す方向を見ると、砂が巻き上げられ渦を巻いていた。

遥か上まで続くその渦は、だんだんはっきりとした形になりこちらへ近づいてくる。

「竜巻!?」

サザリカが穴の方を見ると塊はもう少しで縁まで迫ってくるところだ。

「離れようサザリカ!」

「いいとこだったのにいー」

そう言うと二人は走りだす

「なんでこんな時に出てくるかなあ」

サザリカが走りながらぼやく。

「ほんとだよぉ、せっかく気合入れてきたのにぃ」

クミナが残念そうな声を上げる。

サザリカが振り返る。

竜巻は大きくなっているがまだだいぶ距離がある、進行方向もこちらとは違うようだ。

「クミナ、大丈夫そうだよ」

サザリカは止まり、クミナも少し遅れて止まった。

振り返ると、竜巻はそのまま穴の中へ入っていきそうだった。

「おわぁー、入っていくよ」

「それにしても凄い砂だなあ」

辺りが砂だらけになっていき、二人とも目を細める。

目を閉じる寸前まで二つの光がこちらを見ていた。


しばらくして二人が目を開けると、竜巻は二人と逆の位置へ向かっていた。

「あーよかったぁー」

クミナがほっと胸をなでおろす。

「それよりあれ」

サザリカが正面を見ると塊はまだそこに居たままだった。

全体に砂をかぶった状態になっている。

「うわー砂まみれだー……あれ?」

「光が消えてる……」

塊からあの緑色の目のような光が消えていた。

「なんで消えてるんだろ」

「石投げてみよっか」

そう言いながらクミナは石を拾って投げた。

「え、ちょっと!」

驚くサザリカを無視して石は塊の目が光っていた付近に当たる。

「……」

「命中ぅー」

言葉に詰まるサザリカとは対照的に嬉しそうなクミナ。

しかし塊が動き出す様子はない。

「やっぱりあそこからは出てこないんだ……」

サザリカが塊を見る。

「じゃあもうちょっと近づいてみてもいいかな?」

そう言いながらクミナが塊に近寄っていく。

「待って」

そう言ってサザリカはクミナの手を掴む。

「えっ」

「一緒に行く」

「うん……、そうだね」

クミナが微笑んだ。


二人は手を握りながら塊から1m程の距離まで近づく。

「うーん」

「大きいなあ」

側で見上げるとさらに大きく見える

上の方は棘々しいがそれ以外の場所はツルツルとしている。

前脚2本が目の前で地面に突き刺さっている。

サザリカは目を瞑り一度深呼吸をした。

「サザリカ?」

クミナがクミナを見る。

「ちょっと触ってみる、クミナはここに居て」

「えっ?」

サザリカがクミナから手を離そうとするが逆にクミナが力を込めて握る。

「クミナ?」

クミナの顔を見ると真剣な表情でサザリカを見ている。

「いや、私もやる!」

「……ははっ、うん、わかった」

二人は地面に刺さっている右前脚に近づくと、ゆっくり手を近づける。

「ふぅー……」

サザリカが息を吐く、クミナはしっかりと口を結んだままだ。

そして二人の手が塊に触れた。

「……」

「……」

10秒程触れていたが動き出す様子はない。

「やっぱり、止まってるんだ、これ」

表面は硬く、金属のようで、生物的な感じはしない。

「そうかも……でもなんでかなあ」

二人は脚から手を離すと目の付いていた位置へ移動する、相変わらず光はない。

サザリカが目を触ってみたが反応はなかった。

「あの竜巻の砂で故障したのか……燃料が切れたのか……」

「やっぱりこれって機械なのかなあ」

「生物には見えないね、鉄っぽいし、目の部分もガラス?みたいな感じだし。」

サザリカが目の部分をカンカンと叩くが反応はない。

「まあ、ともかくこれで」

「じっくり調べられるね!」

「また動くかもしれないから慎重にね」

二人は塊の横を通り過ぎ、取りあえず穴の中から調べてみることにした。

サザリカが後ろに戻ってリュックを担ぐ。

その時、横に置かれたノコギリを見て、持ってきていたことを思い出した。

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