11.プロローグ
「あれ……ここどこ」
目の前には真っ白な霧がかかっていて数m先も見えない。
こんなに濃い霧は初めて見た、せっかく風景を間近で見られるチャンスだったのに運がない。
黙って突っ立っていても晴れる気配がないのでとりあえず真っ直ぐ歩いていく。
持ち物は物を詰めたリュックサックだけ。
そのまま1時間ほど歩いたがいまだ霧は晴れず、足元の砂しか見えない。
進んでいるのかさえよくわからない。
「遭難……とかないよね」
こんな所で遭難死は嫌だ。
出来れば柔らかくて暖かいベッドの中で眠るように死にたい。
もしかして真っ直ぐ進んでるつもりなだけでまったく別の方向へ向かってるのだろうか。
もしそうならここらへんで止まって霧が晴れるのを待つべきかもしれない。
しかしいつ晴れるかも分からないものを待ち続けるのも時間が惜しい。
信じて進むしかない。
「ん……?」
それから30分ほど歩いただろうか。
目の前に突然レンガが現れる。
壁のように積み上げられて何かの建物のようになっている。
周りを歩くと入口のようなものがあったので中に入る。
入ってすぐ左には木箱が3つ置かれている。
中を覗くと肉と野菜が少し入っていた。
真ん中にはテーブル、椅子が2つ置いてある。
誰かが住んでいる、のか。
階段があったので2階に上ると、ベッドのようなものだけが置かれてる。
屋根の部分はトタンになっていが、後から置かれたものだろうか。
ベッドに近づいて見てみたが、土のうえに布をかぶせただけの粗末なものだった。
いい暮らしはしてなさそうだ、まあこんな場所だししょうがないだろう。
家の外に出てくると側に大きな、鉄のようなもので出来た箱があることに気付いた。
半分ほど砂に埋もれてしまっている。
「なんだこれ」
上に蓋が付いていたのであけてみるが中にはなにもない。
よく見ると箱にはディスプレイがついている、電子機器なのだろうか。
しかし使い方が分からなく、勝手に触らない方がいい気がするので調べる事をやめる。
振り返り建物を見るが、新しく建てたのではなく昔からここにあったものを利用したように思える。
というか、ここが言っていた家、なんだろうか。
それにしてはあまりにもボロボロすぎないか、いや、ボロボロでもあるだけましだろうか。
もう少し周りを見てみたいが霧が濃いので遠出はしたくない。
家の中に入ると椅子に座ってテーブルに腕を投げ出す。
こんなに長い時間歩いたことがなかったので疲れた。
「あのー」
声が聞こえる。
「ん……」
「あ、起きた」
あれ、なんだ、もしかして寝てたのか。
あれ、この声は……。
顔を上げて右を向くと大きな胸が目の前にあった。
そのまま顔を上げると女性の姿がある。
「あのーあなたって人?」
女性が少し近づく、ちょっと近づきすぎじゃないか。
あれ、というか人?
「えーっと……うん、そうだけど……って、カミ?」
顔を見るとカミそっくりだった。なんでこんなところにいるんだ。
「かみ?」
いや違う、カミがここにいるはずはないし、そもそも顔はそっくりだが髪の色が違う。
ついでに胸の大きさも随分と違う。
もしかしてこれが聞いていたクローンなのか?
本当にいたのか。
段々と意識がはっきりしてくる。
「あー……っと、ごめん。あなたってここに住んでる人?」
「そうだよーここは私の家」
勝手に家に入った赤の他人相手なのになぜかニコニコとしている。
「そっか、勝手に入ってごめんね。ここらへんウロウロしてたらこの家を見付けて、歩き疲れて寝ちゃってたみたい」
「そうなんだー。えっとあなた名前は?」
「名前? ああ、私はサザリカ」
「サザリカかあ。私はクミナ、よろしくね」
クミナが手を差し出してくる、名前があるのか。
それにしてもカミと違って明るい子だなあ。
「よろしくね、クミナ」
手は温かかった。
「サザリカってこれからどうするの?」
クミナがもう1つの椅子に座り、向かい合う。
「特に予定はないんだよね。ここらへんをテキトーに散策というか散歩というか、そんな事をしてたら偶然ここに着いたって感じだから」
「そっかあ、あ!」
クミナがパンと両手を叩く。
「じゃあしばらくここで一緒に住まない?」
「え! ええと……」
長居する気はなかったが……食料も水もそんなに量があるわけでもない。
「嬉しいんだけど、食料も水も少ししかなくて迷惑かけちゃうから……」
「大丈夫だよ、水はすぐ近くに川あるからそこで。あと食料はね……」
そう言いながら出口へと向かっていく。
「ちょっと来て!」
「ああ、うん」
立ち上がってクミナに付いていく、近くに食料を手に入れられる場所があるのだろうか。
そう思いながら外に出たが、クミナはあの箱の前に居た。
あの中は空だったはずだが。
「その箱に入ってるの?」
「いや、ここから出てくるんだよ」
「出てくる? って何が?」
「ん、食べ物が」
「え、どういうこと」
何を言っているのか分からない。
「えーっとちょっと待っててね」
そう言うとクミナは箱の側に積んである鉄屑のような物をいくつか拾う。
そして箱の左側の蓋を開けるとそれを放り投げる。ガシャンと音がした。先が見えてこない。
「えーっと……」
ぶつぶつ呟きながらなにやら箱に付いているディスプレイを操作しているようだ。
「サザリカー、ちょっと来て」
「えーっと、これってなに?」
「こっちを開けるとねえ」
説明もないままサザリカが右の蓋を開ける。
その中見てみるとカボチャが1つ入っていた。
「……」
「ね?」
言葉が出ない。
なんだ、なんだこれ。
サザリカは鉄屑を左の箱に入れて、ディスプレイを操作した、それだけだ。
なんでそれだけでここにカボチャがある。
最初から入ってたのか? いや確かに入ってなかったはずだ。
じゃあなんで。
「……クミナ、これってどういうこと」
横で嬉しそうにしているクミナに聞く。
「私もよく分からないんだけどね、こっちにいらない物をいれて、この画面に表示された物を押すと、こっちにそれが出てくるんだ、便利だねー」
便利だとかいうレベルじゃないと思うんだが……どういう仕組みなんだ。
そしてこんなものがなんでこんなところにゴミのように置かれてるんだ。
ここはそんなに発達した場所なのか?
「確かに凄いね、ゴミが食べ物になっちゃうなんて」
「食べ物だけじゃなくて日用品とかにも変えられるみたいだよ」
「本当にすごいねそれは……」
何もない場所だと思ってたのにまさかこんなものがあるとは。。
ふと周りを見ると霧が薄くなってきていた、ようやく探索を始められそうなくらいには薄い。
しかし景色は変わり映えしない、砂ばかりだ。
「ねーねー」
「ん?」
小さな音が遠くから聞こえると思ったら、クミナが声をかけていたらしい。耳にとどいていなかった。
「ほら、水も食べ物もあるよ、けっこういい所でしょ?」
首をかしげて上目使いで見てくる。
「うん……そうだね。こんなに住みやすそうな所、他にはそうそうないよ」
そうそう、というかここにしかないだろう、こんな機械。
もっとよく調べてみたいが、機械に詳しいわけではないのでたぶん無駄に終わるだろう。
それ以前に壊してしまうのが怖いので止めておこう。
というか、そもそも、私は何しにここへ来たんだった?
この場所を少しでも知ってから死にたいんじゃなかったか?
でも、どこも砂だらけでなにもなさそうだ。
いや、それでもここまで来たんだからもう少し頑張ってみよう。
せっかくここまでの幸運に恵まれたのだから。
改めてクミナに向き直り、手を差し出す。
「じゃあ、あらためてよろしくねクミナ」
「こちらこそ、サザリカ!」




