1-6.神々と世界と
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<ペクシオロス上位神と世界の成り立ち>
はるか昔のお話しです。この世界は【力混ざりし場所】という一つのものでありました。
そこから意志を持ち、世界を正しく作ろうと考える存在が立ち上がりました。
それが『天体神クリウス』です。かの方は星の位置を正しくそろえ、ごちゃごちゃになっていた【力混ざりし場所】からより強い力を手に入れました。
『天体神クリウス』の持つ光と闇、その二つがとても強まったことにより、光より輝きの神、『暁明神ヘメラー』が生まれ出たのです。
『天体神クリウス』と『暁明神ヘメラー』は、まだざわめきがやまない【場所】よりも、自分たちが休める場所を創ることにしました。
そこで二人が力を合わせ、新たに作り出されたのが『陸海神ハーレ』です。
『陸海神ハーレ』は、【場所】のざわめきを抑え、空と陸を創り出しました。そして土だけの陸に、海や森、山なども見事産み出して見せたのです。
いっぽう、神様たちが休める新たな場を作ろうとしていた『暁明神ヘメラー』の姿を、星の影が覆いました。
そのとき彼女の影から産まれたのが『瞑夜神ニックス』です。『瞑夜神ニックス』は、明るいだけでは疲れてしまうと言いました。
『天体神クリウス』の力を借りて、彼は夜を創り上げました。新しい安らぎの誕生です。
これによって、朝と夜、光と闇という違う二つの力が安定しました。
『天体神クリウス』の力は、これで完全なものとなりました。かの方は『陸海神ハーレ』が産み出した大地を褒め、そこに命を創ることを考えつきました。
『暁明神ハーレ』の輝きから、一部の<妖種>を創り出し、またそれをおさめるものとして『精命神チオル』も産み出しました。
命を与えられた<妖種>によって大地はとてもにぎやかになり、<妖種>たちは自分たちを産み出してくれた神様たちに感謝しました。
それを喜んだ『陸海神ハーレ』は涙を一滴こぼし、そこから歓喜と美しさを象徴する『嬌娯神グラフロイア』が生まれ落ちました。
ですが、『瞑夜神ニックス』だけは『天体神クリウス』と『暁明神ヘメラー』に悲しみを伝えます。自分の影も使ってほしいのだと。
それを受け入れた『天体神クリウス』は、『瞑夜神ニックス』の影からも<妖種>を創り上げます。そして共に大地に住まわせることを許しました。
しかし光と闇、二つの<妖種>は仲良くする時もあれば、そうでない時もありました。
永く続く争いというものに神様たちはうんざりしました。そこで、時間というものを決めることにしたのです。
それをおさめるのが『精死神フリュー』と『時騒神エキン』、二人の神様です。
『精命神チオル』、『精死神フリュー』、『時騒神エキン』、この三人の神様によって命の生死というものが新たに誕生しました。
『暁明神ヘメラー』が必死で創っていた【神様たちの休む場所】も無事できあがり、しばらくの間、神様がたはそこで一時の安寧を楽しんでいたのです……
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――本はそこで終わっていた。本を閉じたあと、カインは首を捻る。
「七人しかいないぞ」
数え間違いがないか、確認を込めてもう一度本の粗方に目を通してみる。
まずは最初に、星の配置を決めたという『天体神クリウス』。
クリウスの光から生まれ、朝を創った『暁明神ヘメラー』。
二人の神から産み出され、空と大地を生み出した『陸海神ハーレ』。
ヘメラーの影から産まれて夜を創った『瞑夜神ニックス』。
生命をつかさどる『精命神チオル』。
ヘメラーの涙から産まれたと言われる美しき『嬌娯神グラフロイア』。
死をつかさどる『精死神フリュー』。
時の概念を与えた『時騒神エキン』。
「あ、八人いた」
『嬌娯神グラフロイア』の影が薄いから、と胸中で言い訳をしてみたものの、ペクシオロス十二神という言葉からして、あと四人の神がいるはずだ。カインは納得がいかず二冊目の本に手を出した。今度は赤い。これも最初の青いものと同じく、薄くて大陸の省略された絵が描いてあった。題名は『新しき神と人の成り立ち』。
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<新しい四人の神さまの誕生と大いなる戦い>
今よりもずっと前、遠い昔、八人の神様が大陸ペクシオロスを創ったあとのお話しです。
大地はうるおい、神様も短い安寧を楽しんでいたころ、突然【力混ざりし場所】に残っていた混沌から、新たな力が飛び出しました。
混沌の名は禍星。それは恐ろしい力を持ってこの星に近付き、たくさん散らばって大地に降り立ってはあらゆるものを破壊していきました。
禍星のいっぱいの欠片は、なんと大地にいた<妖種>の体を乗っ取り、力とその数を増やし始めたのです。
かの方、『天体神クリウス』を始めとする神様たちは怒りました。
ですが自分たちの力が強すぎて、禍星の欠片たちと戦ってしまえば、せっかく創ってしまった大地が壊れてしまうかもしれない。
そう案じた『天体神クリウス』と七人の神々は、地上で戦える四人の新しき神様と、取りこまれた<妖種>たちのように数を増やせる、強い命を生み出すことにしたのです。
名誉を守る『栄護神メターデ』、知性と知識をつかさどる『麗智神アヘナト』、まずはこの二人の神様が産み出されました。
それから、一体ずつではなく、簡単に数を増やすことのできる<神人>を。彼らには天を飛べる翼が授けられました。
<神人>は『栄護神メターデ』の強さ、『麗智神アヘナト』の知性を持ち合わせていましたが、神様よりははるかに力が劣り、心がなく、戦いには不向きでした。
そこで『天体神クリウス』たちは自我を持たせるため、そして自分たちの力を使えるようになる核――殊魂を<神人>たちに分け与えました……
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「ふむ、ここで殊魂が出てくるのか」
人間の礎となった<神人>が与えられたという殊魂。人を人たらしめるもの、とだけカインは思っていたが、ノーラの言っていた通り、神の力を使えるようになる作用もあるらしい。それが殊魂術なのだろう。カインは納得して続きに目を向ける。
――<神人>にどの魂かふさわしいかを決めるために、『決導神ファーヴ』が産み出され、戦う心を持つように『狂嫉神セム』も創り出され、四人の神さまによって<神人>という存在が完全なものとなりました。
『栄護神メターデ』、『麗智神アヘナト』、『決導神ファーヴ』、『狂嫉神セム』……この四人の神様は<神人>たちと共に大地を駆け、けがれてしまった<妖種>と戦い続けました。<神人>には<妖種>より強い殊魂があったので、禍星にとりつかれることもありません。彼らは千年もの間、大陸を守るために戦いました。
そうしてやっと、天体神クリウスのほんの少しの力でも禍星の欠片全てを封印することができるようになり、かの方は誰も知らない場所へ禍星を閉じ込めることに成功したのです。
見事神の手伝いをしたねぎらいに、神様たちは<神人>へ大地に住まう権利を与えてくれました。千年の戦いの中で、<神人>たちの中にはあるべき翼も持たず、それでも少し弱い殊魂を持つ<人間>という種族も生まれ出ていましたが、戦いを終わらせたごほうびに、彼らも<神人>と共にあることを許されました。
四人の神さまは大地を見守ることを約束し、大陸にとどまって下さいました。<神人>、<人間>、そして<妖種>、三つの種族が大地に散らばるのを見てから、天体神クリウスを初めとする八人の神さまは大陸をあるべき姿に戻し、天にある【神様たちの休む場所】へ戻っていったとされています。
それから数百年、<人間>は<神人>を妬み、<神人>は<妖種>を疑い、<妖種>は<人間>をあざ笑うためか争うこともあり、四人の神様もあきれかえり、いつしかわたしたちの前から姿をお隠しになってしまいました。
それでも人々や妖種は大陸の各地で集団を作り続け、それがいつしか国になっていくのです。
初めて創られたのは<神人>の集団、天護国だと言われています。
そうして今の、わたしたちが住む大陸、ペクシオロスが完全に誕生したのです……




