11月(2)
終電が近くなると、電車の本数も減ってくる。
乗換え駅で、20分待ちになったあたしは、ホームのベンチで、缶コーヒーをすすった。
夜、23時。まだ、夕飯は食べていない。
(野菜とか、食べてないな)
お昼に外食をすると、どうしてもおにぎりとかパスタとか丼ものとか、手っ取り早くカロリーを確保できるものを選んでしまう。
夜はつまみですますし、朝は食べないし。部屋はどんどん汚くなる。
スマホが光ったから確認すると、同期の社員のLINEで、クレームが続出した新しい認証サービスがはやくも半年後に中止されることを知る。
彼女は今もまだ、事務所にいるのだ。
(……お疲れ様だよ、あたしたち)
コールセンターもクレーム対応大変だったよーと打つ。
あたしの仕事は電話オペレーターの人材管理だ。スタッフがクレームと急増した問い合わせ件数に参ってしまう前に、臨時に派遣職員を受け入れるか、少しクレーム手当をつけるか。そのための予算があるのか。明日もその対策会議だ。
持っていた缶コーヒーをごくり、と飲み込んでため息をつく。
なんであたしは、こんな真夜中のホームで。ようやく仕事が終わったのに、仕事のことばかり考えているんだろう。
ふと顔をあげると、ホームから見える周囲のビルは、もちろんもう、今日の営業時間なんか終わっていて、人の気配を感じない。
冷たい風を巻き込んで、通過列車がホームを走る。
ふと、あたしはなんともなしに、夜の街でも煌々と光るファッションビルの広告を見た。
モノクロの大きな写真に、外国人の男性モデルが全身で映っている。
大きなレザージャケットを羽織ったばかり、という瞬間。
モノクロの写真に、光を反射する黒革のジャケット。特徴的な巻貝のぼたん。
色がついているのは、金色の目だけ。
その目ががぎろり、とこちらを見ている。
―― 新しい服を買うのは
今の自分を脱ぎ捨てたいから
キャッチコピーがでかでかと踊っていた。
あたしはあたしの着ている服がいつ買ったのだか、思い出せない。
いまのあたしは何の服が似合うのか。
どんな服を着たいのか。
どんな服を着て、誰と、どこに行きたいのか。
(行きたい場所なんて、ない)
そう思った自分自身にショックを受ける。
だけど、本当にそうなんだ。
いまの、あたしは本当に、そう、なんだ。
彼女の鬱々とした日常が続きましたが、次話からアガってゆきます!もうちょいお付き合いを!