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10月

 ゴウン、ゴウンと金属質の音をたてて、大きなドラム缶の中で洗濯物が回転する。

 夜23時。温水プールみたいな、湿気を含んだ温かい空気に包まれる。

 あたしは、コインランドリーは嫌いじゃない。

 浮世から離れた、ゆっくりゆっくり流れる時間。

 家の中の汚物が、一気に浄化されて。

 何日分か溜めていたよどんだ生活そのものが、リセットされる。

 あの、失礼な男の子と会って1月半。10月半ばも超えて、会社では暖房を入れ始めたころ。あたしは再びゴミにまみれた部屋の中から起き上がり、また明日への仕事に臨むためにここにいる。


「……煙草吸いたい」


「禁煙」と書かれた貼り紙を見ながら、コートのポケットに入れっぱなしの煙草の箱を指先でつつく。

 ぎしぎし言っている古いパイプ椅子の背もたれに寄りかかり、蛍光灯を3秒だけ見つめて、目を閉じる。

 焼き付いた光の棒が、やがて瞼になじんで消えていく。

 ゴウン、ゴウンと、思考をさらうようにまた、洗濯機の音が大きく響く。

 もう一度目を開くと、ドラム缶の中で、色あせたキャミソールが踊っていた。

 いつもこの時間は向かいのラーメン屋に入った。だけど、いま入らないのはまた、あの子に会ったら嫌だなと思う自意識からだった。


(会うわけない。会うわけない)


 いままでだって、一度も会ったことはなかった。奴だって毎日ラーメン食べてる訳じゃなかろう。

 それに、あの時だって、ほとんど目も合わなかったし、向こうがあたしのことなんて、覚えているはずないし。

 お腹がぐう、と沈むように鳴った。


(あほか)


 お腹が減ってるのに。

 目の前に、ラーメン屋があるのに。

 煙草だって吸いたいのに。

 ほとんど再会する可能性のないあの男の子を意識して、動かないなんてないだろう。

 のろり、とあたしは立ち上がり、水槽の中のようなコインランドリーを出る。

 予想以上に寒いと思ったら、霧雨のような雨が降っていた。

 雨の日のラーメンは、いつもより美味しかったけど、あの男の子には会えなかった。






 だから、もう二度と会わないんだって油断していた11月の金曜日。やっぱり夜中のラーメン屋。


「俺、いつものね」


 あたしはその子と再会する。


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