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意識低い系女子。  作者: 門川とき
番外編1
14/15

番外編 待ちわびた春(彼視点)3

 真鍮でできたドアベルが高らかになるくらい、扉を勢いよく開ける。

 道の前に立っていた彼女は、びくっと体を震わせた。

 ゆるく波打つ髪をシンプルな髪留めクリップで、アップにまとめて。

 グレーの縦編みタートルニットに、ミモレ丈の上品な黒スカート。

 冬に合うダークトーンのコーディネートに、上半身を覆う大判の赤いショールが映える。

 目の覚めるような赤だ。


(来てくれた)


 俺たちは少しの間、硬直したようにお互いを認め合った。

 俺は、彼女がどんな間抜けなコーディネートをしていたとしても。安物を着ていても。そう言おうと決めていた言葉を口にする。


「かわいいじゃん」


 彼女は何か言おうとして口を開けたけど、何も言葉にならずにうつむいた。

 あんなに強気だった彼女が。今。下を向いて、顔を上げられずに。店の中に入ることもできず、ずっとここで待っていた。

 そのことだけでも、心が浮き立つ。

 彼女が下を向くと、自然とショールに顔を埋めることになる。

 自分を抱きしめるように、ぎゅっとショールの端を握ったまま、動かない。

 でも、彼女が怯えてすがっているそのショールでさえ、俺が渡したものだった。

 怯えられているようで、どこか頼られているような、矛盾に満ちた感覚を覚えて、ぞくりと心が騒ぐ。


「行こう」


 俺は店ではなく、川辺へ降りる道を指さした。

 このまま店に入ったとしても、たぶんきっと緊張し通しだろうから。

 警戒するように動けない彼女に、俺は紙袋からカップを取り出す。


「まだ熱いから、気をつけて」


 動けなかった彼女が、まるで子どもみたいにきょとんと目を瞬かせて、聞いた。


「何これ」


 それが、本日の第一声だ。

 ほかに言うことあるだろ。だけど、声が震えていないことにほっとする。


「ココア」

「あんた辛党なのに」


 それは、別に俺のセレクトじゃない。

 そう言おうとしたけど、両手でカップを持った彼女が、はじめてふっと息を吐いて笑ったから。

 それはそれでいいことにする。


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