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徳無き街

「徳とは何か。それは徳エネルギーと切り離して語ることは最早できない。仏教のみならず、功徳に近い概念……『善行は報われる』という信仰は人類に普遍的なものだ。即ち、元来人類が形而上作用として持っていた功徳を、形而下に作用するようにしたもの……それが徳エネルギーの正体だ」

 老人は机に向かい、誰にともなく呟き続ける。

「だが、儂は後悔しいている!!特に『マニタービン』。あれさえ発明しなければ、徳カリプスの発生は……っ!」

「おじいちゃん、興奮すると体に毒ですよ」

 興奮し、立ち上がる老人を諌める孫娘。

「……いつもすまんのぅ」

 互いの気遣い。実に美しく、徳の高い光景だ。だが今年齡80を数えるこの老人こそ、徳エネルギーの権威にしてチベット仏教の高僧、ラマ・ミラルパ20世である。

「それは言わない約束でしょ」

 そう言って孫娘は微笑む。この高僧は彼女のただ一人の縁者であった。

「爺さん、爺さん!」

「邪魔するぞ」

 そこへ慌ただしくドアが開き、入ってくる男が二人。クーカイとガンジーである。

「ソクシンブツを見つけてきた。これで三ヶ月は持つぞ!」

「……そうか。良かった」

 老人の皺だらけの目元が微かに綻ぶ。

「徳ジェネレータを動かしてくれ。爺さんじゃないとダメなんだ」

だが、娘が割り込む。

「ガンジーさん、お爺ちゃんは疲れてるのよ」

「……わかったよ」

「ジェネレータの所へ搬入しておいてくれ。今晩にでも見てみよう」

「よろしく頼む」

「しかし、爺さんくらい徳があれば、自給自足だってできるだろうに。有り難いのは確かだが、なんで採掘屋の街なんぞにいるんだか」

「年寄りには、色々とあるんじゃよ。それに、自分のためにしか使わぬ徳は、錆び付く」

「そうかい。ぽっくり成仏しないよう気を付けてくれ」


--------

 二人の若者が立ち去り、『孫娘』も自分の部屋に戻った後。

「……徳カリプス。ポテンシャルとして蓄積された徳エネルギー雪崩による、集団解脱現象」

 老人は再び、誰に聞かせるともなく呟く。彼が素性を隠してこのような場所に潜むのは、決して徳カリプスを引き起こした負い目のみによるものではない。

「人類は、行き詰まりつつあるのやもしれぬ。だが……それでも。『取り残された』1人として、あのやり方を許すわけには、いかぬ」

 老人……ミラルパ20世は、何事かを書き留め、机の中に仕舞う。彼に残された時間は少ない。だが、成仏するには未だ、早すぎる。

--------


「……あの爺さんも謎が多いな」

「そう言うな。あの爺さんが居るから、徳ジェネレータが動かせるんだ」

 老人と別れたガンジーとクーカイは、ささやかな祝杯を上げている。ソクシンブツ発見報酬が手に入る前の、前祝いだ。

「でも、今回は危なかった」

「……水素のストックも、もう少なかったからな」

「だが、俺は思ったね」

 酒の勢いからか、ガンジーの口はいつもより軽い。

「今回のソクシンブツは、天啓に違いないって」

「……また、その話か」

 帰りの車中、幾度も聞かされた話。

「考えてもみろ。あれほどのブツが見つけられたんだ。いけるって」

「有るかどうかも怪しい代物だろう……無限の徳エネルギーなんてな」

 内なる徳に見切りを付けた彼等は、徳エネルギーをそのまま扱うことはできない。徳ジェネレータで徳からエネルギーを取り出し、その熱でお湯を沸かして蒸気でマニタービンを回して発電、或いはエネルギーを使って水素を作り、それを利用する他ない。

 だからこそ、『無限の徳エネルギー』は夢なのだ。

「でもあの爺さんは、『有り得ない話じゃない』、って言ってたぜ」「『有り得る』と『見つかる』は別問題だ」

 アルコールが潤滑油となり、二人の議論はエスカレートする。

 徳エネルギー工学の基礎を解しない彼らには知り得ぬことだが……それは『有り得る』ことなのだ。

 無限の徳エネルギーを生む伝説の遺物……その名は、『仏舎利』。


-------

「風力、太陽光、バイオマス、地熱、化石燃料、そして原子力。エネルギーは数あれど、人類が徳エネルギーを用いるようになった理由。それは『再生率が極めて高い』という点にある」

 徳ジェネレータの前で、ミラルパは呟く。

「例えば、ある上人が徳を積み、徳エネルギーを放出する。そこまでは普通のクリーンなエネルギー源にすぎない」

 老人は、ソクシンブツを見つめる。ミイラは何も答えない。

「だがその上人は、徳エネルギーを人々を助けるために使うことで……更に徳を高めることができるのだ。徳エネルギーが徳を生み、徳が徳エネルギーを生み出す。故に、「再生可能」。そして……」

 老人は言葉を切る。

「もしも仮に、徳と徳エネルギーの変換を、100%に近付けることができれば。それは、『徳エネルギーによって人々が救われる限り、徳が積まれ、徳エネルギーが供給される』ことを意味する」

 それは限りなく、人類の夢。永久機関そのものだ。

「だが……そんなものの存在を、この宇宙の法則は本当に許すのだろうか?」

 ソクシンブツはやはり、何も答えはしない。

-------


 ガンジーとクーカイは貴重な酒瓶を開け、料理を平らげる。『仏舎利』などという争いの種は、いつの間にか置き捨てて。

 彼等はまだ知らない。徳エネルギーの意味を。自分たちが見つけてしまったのが、如何なるものか。そして『仏舎利』の存在、『永久機関』の矛盾……だがその答えは次節に譲り、ここでひとまず幕としよう。

 若人達は勝利の美酒を浴び、夜は静かに更けて行く。

データ破損のため、暫定的にこの仕様で投稿します。

後ほど加筆の可能性があります。

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