第六話 超古代兵器作成
「これで燃料は手に入れた。つぎはこの『コロナダイト』を磨り潰して、エナジーパックに入れて電池にしよう」
宿屋に帰った勇也は、手に入れた燃料源であるコロナダイトの加工を目標に定める。超古代兵器は燃料を力に変換して使用するため、無駄を出さず、かつ安定した出力変換のために粉末状にしておく必要があるのだ。
「乳鉢で鉱石は磨り潰せないから、ごみ山で資材をあさ…発見しにいかないとな……」
『――ついにサイテックの兵器を作成するのですね?』
「ええ、見送るつもりだった『コスモガン』をやっぱり作成しておこうと思います。燃料も限られてますしね。明日発見できるアイテム次第で、変更するかもしれませんが……」
『――そうですか。もっと地下まで探索できればいろいろあると思いますが』
「残念ですが、俺はギルドに登録していないから、遺跡の探索は難しいでしょうね。冒険者ギルドには入るつもりはないですし」
この世界にもギルドは存在している。登録すれば様々なサポートを受けることができる。勇也も登録していれば金銭を借りることができたであろう。しかし、あえて勇也は登録をしなかった。
『――どうして登録しないのですか?』
「古代の強力な兵器を使える人間がいると、人間界のパワーバランスがおかしくなります。なるべく目立たないほうがいいかなって」
『――なるほど。確かに使用できるのはユーヤさんだけですしね』
「それに、ああしろこうしろと干渉されるのもちょっと……」
勇也は人付き合いはそこまで苦手ではないが、性格が凝り性なためにどうしても相手にあわせづらい。もともとほとんどソロでやってきたので慣れている動きをとっただけである。一応ゲームでこの世界のことはある程度知っているため、今のところ問題が起きているわけでも無い。今後の状況次第で登録するかもしれないが、今はまだ必要が無いと考えている。
「今日はもう休みます。明日、ごみ山で探索ですね」
『――そうですか。いい素材が見つかるといいですね。おやすみなさい』
そう挨拶を交わし、勇也は眠りについたのだった。
翌朝になり、朝食を済ませた勇也は、すっかり相棒となり、死線?を共にくぐりぬけたオリハルコンパイプを片手にごみ山へと向かっていた。
「野球をやっていたからか、このパイプが一番しっくりくるな」
そういいながら素振りをしていると、前方にイビルプラントが現れる。すかさず勇也はイビルプラントに向けてパイプをフルスイングすると、あっけなくイビルプラントは砕け散った。
「うむ、さすがオリハルコン製だけのことはある。相変わらずすごい威力だなあ。バットのグリップと太さが似てるせいか使いやすいし、重さも同じ位で丁度いい」
砕けたイビルプラントから蔓を回収すると、勇也は体に違和感を感じる。そこにユニテルから連絡が来る。
『――おめでとうございます。レベルアップしたみたいですね』
「そういえば、なんか体が軽くなったような……」
ステータスをスマホで確認すると、確かにレベルが2に上がっていた。
コシロ・ユーヤ
LV 2
HP 150
TP 120
『STATES』 『EQUIPMENT』
STR(腕力) 83 :オリハルコンパイプ+420
CON(耐久) 51 :ぺらぺらの胸当て+10
AGL(機敏) 72 :革の靴+10
INT(知性) 72 :
LUC(幸運) 80 :神樹の琥珀 [水属性吸収 土属性無効 即死無効]
STM(体力) 73 :
GUT(根性) 82 :
HPやTPなどの他に、ステータスも若干の上昇が見られる。
「まあ、鍛えるのはまずは部品を集めてからかな」
とはいいながらも、道中襲われるたびにフルスイングで魔獣を倒していく。今日はやけに多いなと思いつつも、レベルが3に上がったところで遺跡に着いたのであった。
遺跡に着いてすぐに聞き覚えのある声が耳に入る。
「お、この間の兄ちゃん。また来たのか? ごみはこの間と変らんぞ」
見張りの兵士が勇也をみて呆れ顔をする。彼は先日も見張りしていた兵士だ。話が早くて助かる。
「おはようございます。では、早速行ってきます」
「もう全部持っていけよ。どうせまた埋めるんだし」
そういえばなぜごみをここに出しているのだろう。遺跡に入れない勇也にとってはありがたい事だが。それと気になる話が聞こえた。その件を兵士に聞いてみる。
「えっ! 埋めるって、いつですか?」
「ギルドからは早くて来週って聞いてるぞ。遺跡の探索もほぼ終わってるから、もういらないんだろうな」
「じゃあ、探索を急がないと。あと、燃やしたりはしないんですよね?」
「ああ、そのごみって妙に堅いし、しかも熱が伝わらないんだ。大昔のシロモノはよくわからんから戻すんだろうな」
よくわからん時代だったんだなと笑いながら持ち場に着く兵士。急がないとまた埋められてしまい、入手が困難になるだろう。
「とりあえず片っ端から使えそうなモノを持っていこう」
そう言って勇也はごみ山に突入して、探索を始める。
「これも持っていこう。それとこの形はいいな。コスモガン作るのに丁度いい」
オリハルコン製の乳鉢っぽい器などを得て、まだまだ探し続ける勇也。しばらく探索を続けていると、エンジンらしき物を発見し、同時にPOPが浮く。そこにはなんと『小型発電器』とあり、そばには巨大なエナジーパックが置いてあった。残念ながら勇也は今は発電機を生かすことはできない。少なくとも自分の拠点を構えるまでは難しいだろう。だが、間違いなく一歩前進である。
「とりあえず持っていればいつかは役に立つだろう。でも『粒子形状固定リング』と『亜空間固定ゲート』が無い……。あれがあれば旅に出られるんだけどな」
勇也は「そうだ!」と言って、ごみ山に向かって鑑定スキルを発動してみた。いつもは自動で発動するのだが、発動する時は決まって ”自分が気になったとき” だったため、今回は意識してスキルを発動してみたのである。
「おおー、やったぜ、大成功だ! あちこちPOPが浮かんでる。なになに……」
勇也はごみ山でまとめて浮かんでいるPOPに目を凝らす。だいたいエナジーパックかオリハルコンの何々とかばかりだったが、ひとつ気になるものを見かけた。
「あれは『小型パワーモーター』か。あれがあれば『ワイヤークロー』が作成できるな。まだ『ダマスカスワイヤー』を手に入れてないから作成できないけど」
早速ごみ山で『小型パワーモーター』を入手する勇也。前日では確かに気付かないだろう。なにせペットボトルの蓋くらいしかないのだから。
「あとは分解して探すしかないか。でも今日は工具類も豊富に持ち込んでいるんだ。きっと見つけるぞ!」
またも勇也は夢中になる。しかしスキルの有効な使い方も身に着けた勇也は、効率よく探索していった。そして……、
「あった! これこれ、これだよ。欲しかったのは!」
ごみ山のてっぺんで大騒ぎしている勇也に見張りの兵士が近づいて声をかける。勇也は知らないが彼の就業時間はすでに終わっていた。ギリギリまで待っていてくれたのだ。そのおかげで発見できたと言えるだろう。
「ほら、兄ちゃん、もう終わりだよ。いいのは見つかったかい?」
下から兵士に声を掛けられて、またも夢中になっていたことに気が付く勇也。すっかり日が暮れかけているが、今回は前回に比べて満足いく収穫であった。なにしろ念願の『粒子形状固定リング』に加え、『ハイエンド・ガラス』までも見つけたのだから。『亜空間固定ゲート』は残念ながら見当たらなかったが。
「いやー、もうバッチリです! 兵隊さんのおかげです。ありがとうございます!」
「なーに。あれだけ熱心に探しているんじゃな。それより、兄ちゃんは一体何探してるんだい? 冒険者…って感じじゃねぇんだが」
「あー、まあ。俺、職人みたいなものです」
「職人にも見えないけど、まあ知識はありそうだな。正直よく分からんが」
「ホントですよ。そうだ、これ俺が作ったんです。お礼に差し上げます」
そう言って、勇也は作りたてのハイ・ヒールペーストを渡す。
「へえ、いいのかい。魔獣退治の際に役に立つな。ありがとうよ」
「いえ、ご迷惑おかけしました。これでもう帰ります」
見張りの兵士は「そうかい」といって白い歯を見せながら笑顔で勇也を送り出す。
こうして、遺跡を出た勇也は走って街まで帰る。
そして、宿屋へ戻って食事を済ませた後は部屋にこもり、早速集めた素材で超古代の兵器作成に勤しむのであった。
☆~~~~~~~~~~~~~~☆
勇也は部屋でスキルの効果をひとり満喫していた。なにしろ「これを作ろう」と思っただけで、手が勝手に動いてくれるのだ。日本だったらまず無理である。
「もっとすりあわせないと……」
すり。すり。すり。
「ここを……」
こり。こりっ。こり。
「できた。これに『粒子形状固定リング』をセットしてと……」
カシャッ。 すり。すり。
「スイッチをつけ…・る」
しゅっ。しゅっ。かちっ。
「ふむ」
物凄い集中力で武器作成に勤しむ勇也。その姿は3日間に及び、ユニテルが心配する位であった。
『――あまり無理なさらないで下さい。身体を壊しては元も子もありませんから』
「なに、途中で手を止める方が余程精神衛生上良くないです。まあ、まかせてください」
そういって勇也は手を止めず、3日間過ごしてきたのである。しかし、そのおかげでゴールが見えてきた。念願の『レーザーブレイド』と『コスモガン』が完成に近づいたのである。
「そういえば、武器出来てからどうしようかな。アムリタでも作って金策するかな。燃料も少ないし、予備のエナジーパックを準備しておくか」
すいっとエナジーパックをレーザーブレイドの柄の部分に挿入する。考え事をしていても手は止まらない。
「港町タミールで一度鉱石を見てみるのもいいかな。あそこは貿易港でもあるし、ドラングラント大陸へ渡るのもそこに行かないと始まらないし」
ぶつぶついいながら勇也はてきぱきと武器を作成する。最後にコスモガンにエナジーパックを挿入し、蓋で固定する。
――カシャン!
「よっし、あとはテストで確認して完成だ! 長かったなぁ。でも大森林の神樹さまのおかげで大分楽ではあったかな。ありがたやありがたや」
『――ついに完成したのですね。おめでとうございます』
「いや、まだテストしてませんから。多分大丈夫だと思いますけど、念のため今確認します」
そう言って勇也は周りに物が無いことを確認して、レーザーブレイドのスイッチを入れる。すると、
――ヴォオンン!
桜色の光の刃が放たれる。起動は成功だ。今度はステータス画面を見てみることにする。
コシロ・ユーヤ
LV 3
HP 178
TP 142
『STATES』 『EQUIPMENT』
STR(腕力) 84 :レーザーブレイド+800
属性:光 効果:シールド破壊
CON(耐久) 53 :ぺらぺらの胸当て+10
AGL(機敏) 73 :革の靴+10
INT(知性) 75 :
LUC(幸運) 80 :神樹の琥珀 [水属性吸収 土属性無効 即死無効]
STM(体力) 75 :
GUT(根性) 83 :
次はコスモガンを装備して、同じようにステータスを確認する。
コシロ・ユーヤ
LV 3
HP 178
TP 142
『STATES』 『EQUIPMENT』
STR(腕力) 84 :コスモガン+1000
属性:光 効果:貫通
CON(耐久) 53 :ぺらぺらの胸当て+10
AGL(機敏) 73 :革の靴+10
INT(知性) 75 :
LUC(幸運) 80 :神樹の琥珀 [水属性吸収 土属性無効 即死無効]
STM(体力) 75 :
GUT(根性) 83 :
強力な武器と比較して、防御が悲しいことになっている勇也ではあるが、このトキーノ大陸にいる魔獣ならば一撃で倒せるほどの強力な武装であった。もっとも常にエネルギー切れには注意が必要ではあるが。
「これでひと段落だな。ちょっと休んでから、魔獣を退治しつつ港町タミールを目指そう」
勇也は装備をオリハルコンパイプに戻す。これも強力な武器ではあるため、性能は全く問題はないのだが、折角作った超古代武器を装備しないことをユニテルは不思議に思い、勇也に問いかける。
『――なぜ超古代兵器を装備しないのですか?』
「ん? ああ、この武器はエネルギーが必要なので、イザってときに燃料切れすると困りますし、第一目立ちます。なにしろ強力過ぎますからね。普段はこの相棒で十分ですよ」
確かに手持ちのコロナダイトでは二つの最新武器のエネルギーを満タンには出来なかった。共に三分の一位の残量であり、少々心もとない。
だが、それにもまして緊急の課題が勇也にはあった。疲労により意識が遠のいていく。
「すいません、神様。少し休んでいいですか? 落ち着いたら眠くなっちゃいまして……」
『――そうでしょうね。あれだけ夢中になってましたからね。ゆっくり休んでください』
「ありがとうございます。次は防具だな。何作ろうかなぁ……」
(アムリタも…つく…って……)
そう言って勇也はまどろみの中へと落ちていったのだった。
補足説明です
粒子形状固定リングは古代では空間画面転写に使用していました。質量を持たせて空中に画面を出し、タッチパネルで操作するハイテクな器械です。
小型パワーモーターは自動ドアの部品だったり。オリハルコン製防火ドアを熱感知で自動に閉じる仕組みでした。そんな設定です。