第二話 惑星ユニシス
勇也は暗闇の中に浮いている。
向こうにうっすらと光が見える。いや、見えている気がするのか?
向こうでその光が呼んでいる。いや、呼んでいる気がするのか?
どうもはっきりしない……。
だが、光はますます激しさを増して、大きくなっていく。そして……
勇也はようやく目を覚ました。
「ぐ……、こ、ここは?」
目を覚ました勇也が最初に目にした風景は、見慣れた自身の部屋などではなく、広大な平原であった。
「あ、あれ? なんでこんなところに? 確か俺は…、部屋で…」
自分の身に起こった事を確認する勇也。服装は記憶通り、制服のYシャツとズボンであっている。さらに持ち物は胸ポケットに入れていたスマートフォン(攻略サイト確認用に持っていた)ぐらいである。財布などは所持しておらず、これも記憶通り制服のブレザーに入れっぱなしなのだろう。記憶と違うのは部屋どころか広い草原に居ることぐらいだろうか。ますます訳が分からないとばかりに頭を両手で掻き毟る勇也。そんな勇也を胸ポケットのスマホが存在を主張するかのように音を立てる。
聞きなれた着信音を耳にした勇也は、つい普通に電話に出ようとして思いとどまる。記憶では、確かマナーモードにしていたはずであり、着信音が聞こえるはずが無いのである。そして送信者に ”ゆにてる” とあり、ますます勇也を混乱させるのであった。
「――誰だよ? これ?」
勇也が電話に出るのを躊躇していると、痺れを切らしたかのように音が止む。そしてすぐにスマホにメールが着信した。その内容を確認すると、
『私は惑星母神ユニテルです。あやしくありませんので、ちゃんと電話に出てください!』
と、怒られてしまう。それを見た勇也が、
「いや、普通にあやしいだろ……」
と突っ込みをいれると、すぐに着信があった。メールを見た後でもあり、今度は電話に出ることにして受信すると間をおかずユニテルが捲くし立てる。
「もしも……!」
「あ~、やっと出てくれました。ひどいです! 私はこれでも惑星母神ですよ!」
可愛らしい声で怒っているユニテルと名乗り、神と自称する少女を「不審者だ」と心の中で決める勇也。だがすかさず心を読んだユニテルから突っ込みが入り、話したいことを一気に捲くし立てるのであった。
「――いいえ、不審者じゃないです。話が進まないじゃないですか。いいですかユーヤさん、まずはあなたの現状と私の事をお話しますよ。とっても大事なことなんですから、ちゃんと聞いてください。いいですね?」
「……え、はあ、まあ、わかりました……」
どうやら話を聞くしかないと勇也はあきらめる。そもそも見知らぬ勇也のスマホに通信してくるあたりで、彼女がいろいろと事情を知っている様子なのは間違いが無いのだ。たとえうさんくさい態度の自称神だとしても。
「ん、よろしい。ではまず最初に質問です。ユーヤさんは『エイシェント・ユニバース・オンライン』を知っていますね?」
知っているも何も先程まで部屋でプレイしていたのである。答えは当然決まっている。
「……ええ、さっきまでプレイしていたはずなので。それがなんでこんな草原にいるのか不思議なんですけどね?」
「それはそうでしょう。アースに頼んであなたのバックアップデータを転送してもらったのですから」
「――はあ? バックアップデータ?」
勇也は話が見えず困惑する。バックアップデータとはどういうことなのだろうか。それにアースって誰のことだと考えていると、ユニテルがすぐに答えてくれた。心を読んでいるのかもしれない。
「アースとはあなたの惑星、すなわち地球の惑星母神のことです。私の事情を話し、あなたのデータをゲーム内のあなたのキャラクターデータと融合して転送してもらいました。そして私がこの地でデータを元にあなたを再構築したのです。そもそも『エイシェント・ユニバース・オンライン』とはこの惑星ユニシスの世界そのままをゲーム化して、地球の住民にシミュレートしていただくためのものだったのです。もちろん、細部は省略してゲーム化していますが。その中で一番の適性者だったのがあなたです。古城勇也さん」
「俺が…適性者…だって……?」
「――はい。あなたが一番若く、体力もあり、高いスキルを使いこなせる人材だったのです。アースのお墨付きもあります」
転送されたという話はあたりが部屋から草原へ移動していることからも分かる。だが他にも疑問がある。そもそもなぜ転送されなければならないのか。ユニテルはまたも心を読んで話してくる。
「――その疑問にお答えします。その理由は私の事情にあります。ユーヤさんが『エイシェント・ユニバース・オンライン』をプレイしているとき、みんな魔法を使っていましたね。実はそれが原因なのです」
「魔法が……原因?」
「――そうです。魔法の発動にはマナを必要とします。そんな魔法によりマナの減少が進んでいることが、あなたをお呼びした原因なのです。なぜマナが減少してはいけないのか? なぜなら惑星の維持にもマナが必要だからです。マナが無くなればこの惑星は滅んでしまうでしょう。」
畳み掛けるようにユニテルは話を続ける。
「そもそも魔法はこの世界には存在しませんでした。しかし、ジェネイン公国と言われる国が『惑星守護獣エルダードラゴン』の鱗から生化学技術を発展させ、自らの種族を生態強化させて人間が魔法を使うようになってから話が変りました」
「――ジェネイン…確か……」
勇也はその話を聞き、ふと思い出す。『数千年前にジェネインとサイテックの両国が戦争中に天変地異が起き、惑星が一度滅びかけている』とエイユニの公式ページに書いてあったことを。なおも話く……。
「超生化学大国ジェネインと超科学技術大国サイテックは紛争を続けていました。もともと数で勝るジェネインが、大量の魔獣を生み出し、サイテックに進攻させたのです。最初はあっさりとサイテックが魔獣を駆逐していきました。しかし鉱物資源が燃料の科学兵器はいつか燃料が底を尽き、ジェネインが優勢になっていったのです」
「――魔獣が発生した理由って、まさか!?」
話を聞いた勇也が気がついた疑問は、どうやら正解だったらしい。
「――そうです。魔獣はジェネインが造った生物兵器であり、それが繁殖、進化したものです。そしてその魔獣たちもマナを消費します。魔獣を駆逐するのに魔法を使い、魔獣が活動するのにもマナを消費される。今はまだいいでしょう。ですがもし大規模な攻勢に出れば間違いなく私は持ちません。前回のような天変地異どころか惑星が崩壊する可能性が高いのです」
「――なるほど、数千年前と状況が似ているってことか」
「いいえ、前回とは規模が違い、人口も魔獣も増加しています。それだけに消費も早く、時間が足りません」
かなり危機的な状況らしい。ゲームでは知りえなかった状況に勇也は愕然とする。しかもなぜ地球人を募ったのだろうか。自分の惑星くらい自分で守って欲しい。そう勇也は思う。
「――それは無理です。太古の技術は今の人類には扱えません。地球にてある程度の科学技術に触れ、且つゲーム内でスキルを得たあなたにしか ”理解” できません」
「……ほんとに俺が見てすぐに分かるもんなの?」
勇也はあまりに突拍子もない話についていけない。まあ普通はそうであろう。だからこそユニテルは直接話しかけてきたのだ。そして信じてもらうために様々な気配りを勇也にしているのだが、勇也はまだ話を聞いただけで実践しておらず、気付けていないのだ。
「もちろんです。まあ後で分かる事ですので、まずはご自身の状況を確認してください。いま通信しているあなたの『すまーとふぉん』にステータスが乗っています。それでは、一旦通信を切りますね、切らないと見れませんから」
そういってユニテルは通信を遮断するが、すかさずユニテルからメールが入電する。
『これからはメールでやり取りをしましょう。理由はこの通信をしている姿をユニシスの住民に見られては面倒だからです。例外として、ユーヤさんが本当に信頼した人の前でだけ許可しますが、なるべく控えて欲しいです』
確かに神とつながっていることが住民にばれたら面倒である。要らぬ敵を作りかねないだろう。盗まれたりしないように細心の注意を払わなければならない。
「えっと。まずはステータスか…」
スマホを見ると、見慣れたステータス確認画面が出てくる。どうやらゲームに準じているようだ。そして勇也のパラメータは、
コシロ・ユーヤ
LV 1
HP 125
TP 100
『STATES』 『EQUIPMENT』
STR(腕力) 80 :
CON(耐久) 50 :
AGL(機敏) 70 :
LUC(幸運) 80 :
STM(体力) 70 :
GUT(根性) 80 :
と、ある。
「レベル1かよ!」
スマホに思わず声を出してツッこみを入れてしまい、あわてて周囲を見回す勇也。幸いあたりには誰もおらず、ほっと胸をなでおろしてスマホを見直す。
「……気を取り直して、次はスキルだな」
そしてスキル欄を見た勇也は驚きの声を上げる。超古代以外ののスキルが全てマスターであり、自身の『エイシェント・ユニバース・オンライン』のプレイキャラに準じていたからである。当然古代技術関連のスキルもあり、ランクは5であった。
「おお、俺ってすごくね? ん、なんだこれ?」
見慣れない『ユニークスキル』と言う項目を発見した勇也。その内容に目を向けると、そこには、
「全言語日本語化…、そういえば神様とも普通に日本語だったな……」
いまさらに違う星で日本語で話す不思議に気付く勇也。だがスキル欄には他にも記述がある。それを見ると、
「記憶有効…と、惑星の守護者…ねぇ」
勇也がなんだろうと疑問に思っていたところ、都合よくユニテルからメールが来る。それには2つのスキルについての答えが書いてあった。
『記憶有効スキルはレシピ無しで生産ができるスキルです。もちろん知らないレシピは一度見れば有効になります。惑星の守護者スキルは私のサポートが受けられると言うことです。せいぜい助言ぐらいですが』
「ふーむ、まあ、便利ではあるかな。…おや?」
メールには続きがあり、読んでみると…
『そうそう、全日本語化スキルの利点は、全言語を一つにしたのでスキル枠が空いたことです。これにより攻撃スキルを覚えることができます。ただし、あなたは魔法は使えません。地球人なので』
「…てことは剣術とか銃撃スキルを覚えられるのか。要は生産と攻撃を一人でこなせるってことだな」
ステータスをみてほぼ状況を把握した勇也は、最期の疑問をユニテルにぶつける。
「ところで、俺は地球に帰れるのですか? それに地球での俺は今どうなっているんでしょう?」
すぐにユニテルから返信が来る。そこには、
『この世界であなたが死んだら、私が爆発して滅び、引力の関係で地球になんらかの影響が出るかもしれませんけど、一応あなたは地球で何事も無かったかの様に目を覚まします。当然この世界の記憶は消えています。ゲームは違うゲームをやっていたことになるはずです。それがアースとの約束ですから。そのかわりうまくいって私が助かったら、”素敵なお土産つき”でその瞬間に帰還して頂きます。期待していますよ、ユーヤさん。それと地球での今のあなたは、いえ、むしろ地球は ”時間が止まっている状態” のはずです。私の結果が出るまでアースは待ってくれるそうですから。彼女には感謝してもし切れませんね。』
「時間を止める…、そんなことになってるのか? なんか影響あったらどうすんだ?」
勇也が不安に思うと、ユニテルからまたも返信が入る。
『惑星同士で話してるから大丈夫ですよ。むしろ ”惑星の死” の方が影響が多いのでみんな協力してくれますよ』
と、書いてある。話が大きすぎていまいち納得いかないが、どのみち勇也にはこの惑星で生き抜かなければならず、帰還できるのであれば頑張るしかないと気を取り直すのであった。実はちょっとワクワクして来ているのは内緒である。
「まあ、お土産も気になるし、頑張りますか!」
そう勇也が気合を入れると、ユニテルからメールが入った。
『ありがとうございます。どうかよろしくおねがいします。お土産は期待していてくださいね』
「はい! がんばります。まずは何をすればいいですか?」
勇也が今後の指針を問いかけると、ユニテルからメールが入る。そのメールにはこう書かれていた。
『まずはそこのトキーノ遺跡にある ”ごみ山” に向かいましょう!』
「ごみ山かよ!」
勇也はいきなりずっこけたのだった。