黒い3連星
西国~メタルエンパイア~エリアD
そこは砂地に聳える巨大な2つの岩の間だった。直ぐ眼前には灰色の不気味な砦が広がる。辺りはもう暗く星も出ていた。物音はなく静まり返っていた。その2つの岩の間にはテントが張られ、簡易のベッド、机、椅子のような物もあった。岩の後には十字の木で作った墓があり、戦没者が眠る。
「ファイヤキャンドル」テントの中、蝋燭に火が灯された。
そして、その蝋燭を囲むように今回招集されたアドルフ部隊12名は腰を下ろした。
「全員準備は整ったかの?」アドルフが問い掛けた。
「暗幕準備完了です。」黒森が答えた。
「聖鎖の罠準備完了です。」聖鉄が答えた。
「対機地雷も準備完了です。」『爆弾魔』ニトロ・スギモトが答える。
「良し良し、これで敵が来ても大丈夫だな。」
「こうして、このメンバーと話をするのも明日で最後になるかもしれない。最後に語り合う場をと思ってな。」アドルフは続ける。
「よくここまで1人の犠牲者も出さずに着いて来てくれたな!ワシは嬉しい限りだ。半数が初招集の中ここまで来たのは王国騎士団初かもしれん。」
「アドルフ司令の的確な指示のお陰です。」投擲が話す。
「水魔法で濡らした後、雷魔法で短絡死させる。これで厄介だったキラーマシンの無差別破壊者状態を防ぎ、倒せますからね。」雨乞いが話す。
「魔獣対策要因として自分を選んでくれたのも感謝します。」吸血が話す。
「確かに今回は魔獣がやたら多かったな…」爆弾魔が話す。
「まぁ短絡死させれば無差別破壊者状態にならないということも魔獣の異常発生も『蒼剣』達の調査報告によるものだがな。」
「『蒼剣』…ってあの!?!?」リチャードが乗り出す。
「確か、王国騎士団最強の剣士にして、この国のギルドランク1位のギルド『―迅―』のリーダーでもある男。」激流が答える。
「『戦華』クイナ、『博識』のサジ…と優秀な兵士ばかりのギルドですもんね。」黒森が話す。
「あの青二才も出世したものよ…まぁアイツの下調べは信頼出来るからな…ちなみに、もう1つ悪い報告もある。聞きたいか?」
全員がその報告に構える。
「エリアDに守護機神兵がいるのはもう皆の者はわかっていると思う。」
「そして、さらに黒い3連星が配下の魔人達を率いて陣取っているそうだ。」
「それはマズい…」雨乞いが声をもらす。
「そんなにヤバい連中なんですか?」リチャードが尋ねる。
「俺は普段、魔人の討伐依頼が来たら最低3日はかける。1日はその魔人がどういうヤツかを調べる為だ。魔人は個体によって弱点とする属性が違うから、攻撃のしようがない場合もあるからだ。討伐不可能と判断した場合は直ぐに中央に強力要請をしている。」吸血が答える。
「魔人1体1体が殺戮兵器より強い。ここに着いたとき、遠視スコープで確認したが20体はいたよ。」投擲が話す。
「黒い3連星はその魔人達の親玉、魔人将軍デーモンの息子で3兄弟なのさ。ヤツらには王国騎士団もかなりの犠牲者を出しているよ。」聖鉄が話す。
「黒い3連星は魔人の中でも知能が高く、魔法や魔具も扱える。それに残虐性、狂暴性は折り紙付さ」爆弾魔が話す。
「魔犬の発生もヤツらの仕業ってことですか…。」激流が話す。
「そういうことだ。近年はエリアGでの目撃も多数あった。この前の『蒼剣』達の調査中もヤツらの三男と遭遇し、深手を負わしたらしい。まぁそれでここで待ち構えているんだろう。」
「『蒼剣』様はやっぱり強いですね。」黒森が話す。
「まぁ後皆の者、明日に備えてゆっくり休め。明日は日が登ってから出発する。」
それぞれが明日に向け道具等の準備をし、休み始める。
少年は星空を見上げ、物思いにふける。
「眠れないのか?確か『悪童』だったな…」大男は尋ねる。
「そうです。ちょっと考え事してて…『赤翼』さんですよね?
」
「あぁ、お互い初招集、緊張するな…」
「・・・『赤翼』さんは死ぬの怖くないんですか!?」少年は突然切り出す。
「愚問だな…俺は王国騎士団に入る前、もっと言うとアドルフ隊長の下荒くれどもの楽園で闘うことになった時からいつでも死ぬ覚悟は出来ている。」
「強いですね…僕はここに来てちょっと怖くなりまして…。」
「俺だって怖いさ。だが、お前も王国騎士団に入れたということはそれだけの素質があるということだ。自信を持っていい。簡単には死なないさ。」
「魔人もいるんですよね…?」
「魔人が強いというのは知能があるからだ。その分迂闊に攻撃はして来なかったりもする。まぁアドルフ司令の作戦通り行けば余裕だろう。」
「はぁ…」
「明日も早いし、寝るぞ寝るぞ!」
赤翼は悪童をテントの中に連れ戻し、床につく。
~次の日の朝~
日が上ると同時に、一団は荒野を駆け抜け、砦に着く。
砦は後ろを崖にして建っており、左右に大きな扉、そして、中央には3つ首の巨大な機械仕掛けの犬が鎮座していた。
守護機神兵・ケルベロス
今までこの砦を100年以上に渡り、守って来た番犬である。その耐久力、攻撃力は殺戮兵器を遥かに凌ぐ。また、3つ首の頭はそれぞれ違った属性の攻撃を可能にする。コレを突破せずに砦陥落はありえない。
守護機神兵・ケルベロスの前には無数の殺戮兵器がいたが、こちらには気付いてないようだ。
砦上空には黒き魔人達が翼を広げ、獲物を探すべく旋回している。その真下、砦の上部は部屋のようになっており、そのバルコニーから3体の魔人がこちらの様子を伺っている。
「とうとう、ここまで来ましたね。兄者」背の小さな魔人が言う。
「まぁ魔犬ごときに殺られることは無いとは思ってはいたが…お前のお目当てのヤツはいなさそうだな…」背の高い痩せた魔人が答える。
「蒼いヤツゥいない………」角が折れ、全身切り傷だらけの太った魔人が話す。
「まぁ堂々としたものよ。犬っころ。魔人3兄弟はあの上か…」アドルフが口を開く。
「皆の者ぉ~先の作戦通り、自分の任務を全うするのじゃ!情けは無用!一度も気を抜いてはならん!必ずやあの砦を落とすのじゃ!」アドルフは号令とともに剣を抜いた。
「さぁお手並み拝見と行くか…」背の高い魔人がアドルフ達に向け、手をかざす。
「ガォオオオォォォ!!」ケルベロスが唸り声を上げ、動き始める。その音に反応し、殺戮兵器も動き始める。
上空を旋回していた魔人達も一団目掛けて飛んでいく。
「ゴガァあオガオオオァァ!!」アドルフも低い唸り声を上げる。それはそれまでの優しい司令官の目ではなく、飢えた獣の眼だった。
一団も武器を取り、作戦通り方々に散る。
今、戦いのゴングが鳴った。
《登場人物紹介》
No.19『爆弾魔』ニトロ・スギモト
王国騎士団きっての爆発物のエキスパート。対殺戮兵器に用の爆弾も数多く考案している。招集経験も豊富。ちょっとふくよかな体型からは想像できない身軽な動きをする。電気系統にも詳しい。
No.28『赤翼』ギル・スタング
鳥人族の1人。赤く硬い皮膚に覆われた大男である。空中戦を得意とする。アドルフのギルド「荒くれどもの楽園」の一員。ギルドとしての戦闘経験は豊富だが、部隊招集は初めて。
No.36『悪童』グリンゼル
王国騎士団最年少で今回初招集。実は新型の殺戮兵器の破壊経験がある。元々は田舎で盗人をして生活をしていた。