第005話_魔動騎士、継承。
体は鉄でできてはいない。
心は打撲と打ち身で痛いの一言。
されど、引っ張られ、激突す壁の冷たさを俺は知っていた。
詩的に語ってみたものの痛さは引いてくれない。
母に拉致されて、階段を下りるときすら離さない手はつかみづらいの一言で、足首に変わりそのまま引きづられるように、ガタっゴチっと青あざにならない程度の打ち身と打撲を負って今に至る。
ホントにこの親は子供を溺愛しているのかと疑いたくなるくらいに粗雑で乱暴な扱いだった。
痛みを押して目に入ったのは、1つの巨人だった。
全体的に人の模倣と取れる形。
手や足の間接部には駆動機関、足の部分は大きな装甲が取り付けれている。
二足歩行型の完全な人型だ、もといた世界の人型兵器とは比べるべくもない非武装はかなり癪に障るが、この世界でもロボを見たことにルナルの瞳からは涙がほとばしっている。
「どうしたっ感動して言葉もないか?」
ああっ何故感動の邪魔をするのかと横目に見れば
ああ、と母親に連れてこられたのを今更ながら思い出した。
温度差ある声に母は気づかない。
母は口調が軍役モードのそれで、性格も反転している。差し詰めこの状態を名づけるなら教官モードとも呼べばいいのだろうか。
いつの間にか手には紙束、小さめのホワイトボード、メガネの三点セットが装備、つれてこられてからから気づいたが、屋敷の外にある倉庫が今いる場所だ。
屋敷から出たことない俺が始めて外に出た場所が、この倉庫になるが俺にとっては本望だった。
意思を持たない機械美を目の前にルナルは感極まったように眺め続けた。
全体的に赤いホルム、とがったような一本ヅノと1つの青いメインカメラ、全体的に見た感じは軽量タイプの歩兵に見える。
武装がない所を見ると外部につってある。二本の剣が主要武器と見て間違いない。
早く動かしたい触りたいと暴走に拍車が掛かる。
前の世界では動かすことすら、躊躇われた人型兵器が目の前に存在するだけで、餌にかかった魚だった。
危ない、危ない、とどうにか思考を母親に向ける。
前世の因縁をここに出すわけには行かないと平静を装いながらルナルは母に聞いた。
「何だ、その紙束とメガネは…」
場違いなほど似合わない、尖ったメガネと指揮棒片手に母は立っていた。
「フフン、いい質問だ。」
まじめに話す気なのだろうが、どこか遊んで見えるのはどうしてだろう。
それほど歯車やねじが跳んでいるのか
メガネをクイっとおしやって、
「趣味だっ。」
堂々と宣下してくださいました。
訂正、完全にトリップしてやがると結論付いた。
こっちの目は死んだ魚の目になったが、気づかず上機嫌なようで鼻歌を歌って何かを走り書いている。
母の人格をこれ以上壊さないためにも、早急に話をすすなければならなかった。
精神年齢的には年上なのだから、ここは教示を見せて大人な対応を取るべきなのだろう。
「そうですか」
重い一言でしか帰せなかった。
SAN値が下がりまくりでどうしようもないが、母はようやく話を進めるようだった。
「これは、魔動騎士アルテミス、私の機体だ」
まるで懐かしむように、軽く脚部をなでる母ははっきりといった。
「そして、お前に預ける機体だ」
「えっ」
すでに夢中で観察していた。
目の前にある未知の機体はどういう構造をしているのだろう。
動力は?、駆動系は?動作システムは?
答えない機体に、返事を要求するのはばかげている。
なら、とひとつの帰結はこれを解体してもいいのだろうかと心の中で思ったことだが、口に出せば母が狂気乱舞しそうなので、もし借り受けてもこっそり解体するつもりで話を進めてみる。
「くださるのですか?」
自然と丁寧な言葉になったのは、処世術としてか、欲望に従順なだけなのか
「お前にやる、本当は成人の儀に送るつもりだったんだが、お前がそこまで乗り気だったことがうれしくてな。」
本当にうれしそうに母は言った。
語るらぬが華とこっそり分解計画立てつつ、ルナルは母に尋ねる。
「操縦とか細かいところまでは、蔵書の中にはなかったよ。あくまで魔力を通すやり方と姿勢制御の方法のみだった。そこらへんは?」
「判っている。魔動機関の操作の仕方はこちらに書いておいた。」
先ほど走り書きしていたのがそれだった。
仕事が速いと、母に渡されたそれを持ち前の速読で読み終える。
操縦方法
基本動作→魔力の供給による魔動機関の起動とリンク。
右手左手は固定アームの連動はアクティブ・インターフェースを使用。
脚部は固定フットを動かしての連動も上と同様。
動作術式は登録することで使用可能。
脚部の装甲は着脱可能。
個人登録により搭乗するCPサイズの調整可能。
あとは、微細に書き連ねてあるが、こんなときに速読という特技は役に立つ
あとの基本は大体つかんだ。
「大体判ったよ」
「何、結構専門用語が多かったと思ったが……。」
「俺を舐めてほしくはないな母上、伊達にエンジニアではない」
8歳の子供が言う言葉ではないが、構わない。この教示と有り方は、前世かならの因縁だ。
だからこそ曲げられない。俺は技術屋の意地として断固として譲らない。
「エンジニア?」
この世界の単語ではないから、母には理解できかっただろうが気にはしない。
母の横を通り過ぎて、片膝をついた機体、主なきアルテミスのコックピットに乗り込む。
始まりはこんなにもあっけなく一つ目を達成した。
が、全てが思い通りに行くほど世界はトンとあまくない。