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第018話_王との会談、別の転生者_後編

 状況はあまりよろしくなかった。

 ルナルの想定外にして、ある意味で自業自得な結果には違いない。

 王家と言う位ほど、魅力的な結婚相手は居やしない。

 政略結婚も確かにありえたことを念頭に考えておくべきだった。

 あのあと、三者が固まった状態から一番に復帰したのはイグニスだった。


「な、お父様、どうして勝手に決めるのですか!?」


 非難を浴びても不遜な顔を貫く王に、俺自身かける言葉も罵倒もなかった。

 いたく当たり前にこの事態を受け入れなければいけないことを理解していたのだ。

 イグニスの反対もことこのことに関して言えば、あまりにも的外れになるだろう。

 王が言った、国同士の有効、結実させれば、どれだけの安定が得られるかわかったものではない。

 今情勢が不安定にあるアスガルド、そしてそこに攻め入るルフラン。

 関係上は他人事のはずのこの国が、横槍を入れるのもその後のためにと揶揄してのことだ。

 あの武器のこともあるが、他の国に牽制としてあの情報を送りつけてきたということは、手出しするなという脅迫と、圧力もあるだろうが、一番の理由は、次は何処になるかという示唆(しさ)も含まれる。

 あの国が魔動騎士を量産できることを考える上で、あちら側にも魔法使いが居ると見て間違いない。

 そして他より先ん出て、国を動かしているのもルフランだ。

 魔動騎士の量産、そして魔道技術があの国を先進国へと押し上げているのだから、他国にそれに対抗しうる戦力があるか俺はしらない。

 それでも、この少女然とした姫様には、そんな物は関係ない。

 個人的にはかなり冷淡な扱いだろうとは思う。

 この少女は利用される側にある、そしてその為に何も知らせなかった道具としての利用価値が今使われているのだからそれに反発するのはあまりにも無意味だった。


「それが、お前の存在意義だ」


 イグニスは部屋を飛び出していった。

 荒く開かれた扉が、ぐらぐらと揺れる。

 王の冷淡な言葉は、交渉としての王の顔だ。

 この世界ではまだいい王様なのだろうとルナルはその顔を眺めた。

 しかし、今なら逃げ出せなくもないと棒立ちのエドガーを横目に見る。

 

「姫がけっけけこん?………。そうだ披露宴はいつになるだろうか?………いやまて、……そのまえに……会場を………。」


 完全にてんぱっている。

 結婚より先に婚約が主だとわかっていないようだ。

 貴族常識で15が成人になる、ならそれまでに俺自身国を取り返し王政に返り咲かねばならないのだから、やることは山済みといえた。

 実質、この話は俺にそこまでの器があるか測るための条件でもあるのだ。


「王様」


「お、話をしてる場合か?」


「王としては正しい、道具結構、この交渉受ける。だが、一つだけ言わせてもらう。」


「ん、」


 イグニスが出て行った後、楽しそうに笑う王の顔にルナルは不機嫌顔で言った。


「親としては最低だ。」


 開いたドアに向かうルナル。

 それをとめるはずのエドガーは混乱から回復していない。

 だが、王もそれをとがめようとはしなかった。

 受けると言った以上、ルナルが逃げないと解ってのことだ。

 そして、娘を思う父としては、この話がうまくいくであろうことを何となく感がそういっていた。

 部屋を出ていイグニスを追うルナル、魔術を解除して、緑色の壁がはがされる。

 足は駆け足で、姫を追っていった。

 それを背中に笑う王は、この交渉はどちらが勝ったのか全くわからないことに自ずと気づいた。

 後ろ盾ができたての小僧が言った戯言を、何処まで守るかも結局、信頼を勝ち得るかはルナルしだいなのだと。




 豪華な監禁部屋を出た後は、どちらに行ったかを探ることから始まった。

 突き当たりにあったこの部屋からまっすぐ走り、左右方向に分かれた場所に出たのだ。

 もう後姿すらないとは、さすが御転婆姫というところだろう。

 仕方がないと、ルナルは思考領域に保存した先ほど出来上がったばかりの魔術式(プログラム)を使うことにする。

 先の応用ではなく単一で、『空間認識』を出来るだけ広範囲に展開し、『分析(スキャニング)』をかけ 屋敷の構造を把握する。

 移動物体を探し、それがどこに向かっているのかを推測し先回りすることにした。

 何かと高いところの関係を今ここで考えるべきではないが、分かりやすいところに逃げ込むものだとルナルは走りながら苦笑する。

 この駐屯地は、それほど広く設計されていない、形的には、南側の砦になるのだろうが、南は砂漠地帯でそこから攻め込まれることを想定してはいないらしい作りだった。

 それでも、監視台があるほどには砦らしいところもある。

 

「ここか…」


 後姿は、銀色の髪が夕日二反射して映える姿だった。

 しかし、その肩が小さく震えていることから、泣いているのだと自然と分かった。

 

「義務として、追いかけてきたのか?」


 涙声だったが、俺は自然と普通に接した。

 同情もしなければ、別に好きだというわけでもないのだ、おためごかしはきらいだった。


「それもある。」


「な、何だ、まだ理由があるというような言い方だな……。」


「俺はお前のことを好いてもいないし嫌ってもいない。」


 沈黙する彼女は壊れそうなほど、びくりと反応した。

 

「子供のくせに何を言っている。」


「お前は先ほど俺の事情を多少なりとも知ったのだろう?」


 イグニスは言われた言葉に、この黒髪の少年が実際の年より精神年齢が高いことを思い出した。


「お互いを何も知らない、会ったのもこれで三度目だ」


 理解するには短いとルナルは言う。

 口下手がここに極れりというところだった。

 普段の魔術や魔動騎士や小細工、挑発なら、飾って言葉を並べるのだが、少女にかける言葉を素直に吐けるほど、恋愛の精神年齢は高くない。

 だが、自分より精神的には幼い少女に励ますくらいはしてあげたい。

 子供の身で、出来ることなど高が知れるが、意気消沈したこの顔を直すくらいは出来る。


「今、如何(どう)して泣いているのか、それから話してみろ」


 自然とぶっきらぼうな言葉になった。

 沈黙が長く続いた。

 その後、鼻を啜り、目じりをゴシゴシとドレスの袖で拭くイグニス。

 ポツリと語りだした。


「私は、何にも期待されない姫だった。」


 イグニスは始から行動的だったわけではない。

 母が死んで、甘える先がなくなったのを機に、外の世界へと興味を持つことにしたのだ。

 王である父は、何時も確かに優しい。

 しかし、それと同時に一つとして国の政治などには一切かかわらせないという徹底振りだった。

 第一王女である姉は、率先してかかわらせ今では大部分を取り仕切るほどになっている。

 反発ゆえか、寂しさゆえか、それはもう分からなくなっている。

 世界を見るという行動のために、エドガーに無理を言って騎士団に入団させてもらったりもした。

 行軍する任務にも、迷惑だと分かっていたが、何かを埋めるように着いてまわった。

 訓練ももちろんした。

 女だてらに、軽く騎士と打ち合えるほどには年月と僅かな才能がそうしてくれた。

 母が死んでから五年、その年月だけ寂しさがあり、必要に打ち込んだ訓練の結果だった。

 そしていつか父に必要とされる騎士になる、そんな淡い夢を抱いていたのだ。

 しかし、現実はあまくもなければ、優しくもない。

 求められたのは道具としての自分だった。

 政略結婚として、自分は使われるだけの存在。

 がんばった意味も、行動しようとした努力も何もかも意味はなかった。

 イグニスはそう語った。


「私には、もう強がるほどに気持ちを強く保てない。」


 ただの12歳の少女がそこにはいた。

 ルナルはあごに手を当てて、冷淡に言った。

 

「本当に陰気臭いな」

 

 空気をよまなすぎるルナルの発言にイグニスは目を尖らせて怒鳴った。


「何だそれは!?お前が言えといったのだろぅ!!」


 慰めてくれるものと思っていたイグニスは違う方向に怒らざる終えなかった。

 怒鳴る少女に、ルナルはいたって冷静だった。

 別段にどうでもいい話だったと結論付いたルナルはあからさまに少女を見てため息をついた。


「ああ、言ったが聞いてみて詰まらな過ぎた。」


「つまらないだと!?」


「酷い三文小説を読んでいる気になった。」


「ぬぐぐぐぐぐっっっっ」


 火山噴火の前触れのように顔を真っ赤にするイグニス。


「なぁ、そこの人もそう思うだろう?」


 ルナルの発言でこの場に誰かいるのかと周りを見回した。

 ルナルはここにもう一人、誰かがいることは先ほど、空間認識を使って知っていた。

 見張り台の上の屋根、そこから逆さに顔がのぞいていた。


「あら、分かった?」」


 屋根の端を手でつかんで、逆上がりの要領で、ルナルとイグニスの前に降り立った。

 青い髪を肩口でそろえた小麦色に焼けた肌の活発そうな少女だった。


「初めましてかな、私はも(ほむら)、出るに出れなくてね」


 気分も険悪そのものなのに、そこに乱入者もいた、(いたたま)れなさは軽くメーターを振り切っている。

 早足にこの場を去ろうとルナルの横を抜け階段を下りようとしたがルナルが呼び止める。


「別に、絶対に結婚ってわけではない」


「えっ……。」


 ルナルの言葉で振り返った。


「側室ならどうだ?」


 ヒュっと風を切る勢いで平手がきた。


「ヘブッッッ」


 ドカドカゴトンっ


 軽く身を乗り出して、落ちそうになるが片手だけでどうにか縁に掴まった。

 イグニスは涙をためてルナルを睨む。


「お、お、お前なんか嫌いだぁぁぁぁぁ」


 捨て台詞を吐いて、イグニスは降りていった。

 この場に残されたのは、落ちかけのルナルと焔と名乗る少女のみだった。


「そ、そこのお前……。」 


「ねぇ、アレでよかったの?」


「な、何がだ……。」


 落ちそうになりながら、どうにかもう片方の手も縁に掴まることに成功する。


「随分な演技だね、あの子を逆に怒らせて、逆に泣き止ませるなんて」


「お見通しとは恐れ入る……、それより助けてくれないか?」


「君ならどうとでもできるだろう、魔法使い?」


 ルナルはそこで落ちそうなフリをやめた。


「事情を知る人間か?」


 風の魔術で上向きに風を吹かせ、ふわりと縁に腰を下ろした。


「ご同輩さ、ここで雇われてね、今は魔動騎士の整備士さ…開発までは頭が回らないがね」


 あの魔女が言っていた少女がこれなのかとルナルは改めて少女を見た。

 どこか飄々とした雰囲気を持つ少女だ。


「やはり、同じ世界からの転生なのか?」


「君の言う同じがどういうものか知らないけど、私のいた世界は魔法なんてなかった。」


 ならやはり同じなのかと、ルナルは始めて故郷を同じにするものに会えたのかとやり切れない思いで少女を見る。

 あの腐った世界から来たのならろくな死に方ではないことがなんとなく分かるからだった。


「ATは存在したか?」


 これを真っ先に聞くあたりはルナルのオタク性は揺るがない者だとわかる。


「うーん、私の世界では人型戦術機っていうTAって言うのが普及してたよ。」


 名前が違うが、後継として残ったもう一つの名前の略が俺の世界ではTAだったことを思い出した。

 何かを考えあぐねいて眉間にしわを寄せるルナル。

 その後もいくつか質問して時間を費やし、そして結論に至った。


「どうやら違うな」


「そうだね、私と君の世界は別物だ似てはいるけどね」


 どうやらこの世界に転生してくるものは無数の世界から来ているようだった。

 もう日暮れが沈みにかかって良い怪訝に部屋に戻るべきだろうが如何せん姫の怒り顔が後につく。

 王とも軽くあわせる必要があるだろうが、ルナルはこれから少しこの国に居るつもりだった。


「あ、そうだった。」


 いきなり、(ほむら)は、ニタリと嫌な笑いを浮かべた。


「私はこういうものです。」


 ぴょこっと頭から猫の耳が生えた。


「なっ」


 するりと頬を撫でるものがあった。

 下に目を向け、青い毛並みの尻尾が御から生えているようだった。

 悪戯に成功した子供のように笑っている焔。


「王様から聞いてたよ、君の事はね……これからよろしくね」


 そう言って、猫耳と尻尾をつけた少女は実にすばやい機敏さで、見張り台から飛び退る。

 身体能力が高いらしく、近くにある木をばねにして、降りていく。



 それをみながらルナルは獣族を始めてみたことに驚いていた。




 

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