第015話_錬金術師の娘、逃走_前編
フラスコの中の小人と揶揄されたホムンクルスを元に竜の心臓を植え付け魔族の毛髪から素材を作り上げた。
人型になったそれは少女の姿まで成長を遂げ、ついには暴走した。
周囲のものをこれは食するそれが生命力奪取というものだった。
エドガーはそれを破壊しようと魔術を発動した。
しかしそれすらも吸収してしまいこれを破壊できなくなった。
エドガーは、対竜討伐魔術で結界を施した。
魔力を吸収しうるなら枯渇すればどうかと魔力を遮断しうる鉱石を媒介に魔術を発動した。
言っていて矛盾しているがこの魔術には起爆とも言うべき最初の動作があれば事足りるのだ
功を沿うし、結界に閉じ込めることに成功した。
だが、それでも生命力奪取はその表面からも発せられる。
エドガーはこれをとめなければいけないと上から氷結の魔術で覆った。
これで直接触れることがなければ、死にはしない程度に収まった。
氷結は低体温に少女をとどめ、吸収を和らげたからだ。
エドガーは誰にも目に触れることはないように研究を中止した。
出資者や王族から批判が集中したが危険があって封印したと伝えた。
当然エドガーは、厳罰と資金提供を打ち切られ、騎士団の団長の座を追われた。
それから半年後、俺に騎士団復帰の打診が来た。
上の方は、エドガーのもうひとつの肩書き、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)としての腕を腐らせるのは惜しいと今になって思い直したらしかった。
だが、それには条件があった。
エドガーの叔父に当たるドラネル・エイラートの暗殺だった。
それは途方もない重労働をエドガーに課した。
姑息にして実に見つかりにくい手を使い、奴隷貿易や国の資金流用、他国とのつながり等々、そのまま報告すれば半年はかかるだろう情報が俺の元に集った。
エドガーがひそかに部下と連絡を取りあっていたことでそれがなされたのだが、国には報告してもまだまだ、それから搾り取れるぐらいに手広くやっていたことがありありと分かった。だが、ここで気づいたのは明らかに個人では収拾が付かないほどの流通だということだ。
何が腕が惜しいだと乗せられた自分が情けない。
貴族が欲したのは証拠隠滅の為の手頃な道具だった。
エドガー自身は利用されているとわかって、駄目元でさらに上に話をつけることにした。
王に直談判したのだ。
以前から、エドガーの隊に入りこむ御転婆に繋ぎをつけてもらい事実そのままを伝えた。
そうして、エドガーは本当の意味で騎士団に復帰した。
王がエドガーを復帰させる条件として、上にいる者を晒せと言ってきたからだ。
だから、周りからはエドガーが未だ、厳罰で騎士を追われたものと見せかける必要があった。
もちろんエドガーに話をつけてきた貴族にもだ。
エドガーに最初に目をつけ復帰させてやると行ってきた貴族をつるし上げるための材料が必要だったからだ。
エドガーが研究者と知る叔父は以前からエドガーが作り上げた兵器に着目していた。
資金提供の一部を持っていたのもこの叔父だった。
分野違いで甚だしい商人の叔父がなぜそんなものに興味を持つのかエドガーにはわからなかった。
だが、作ったはいいものの、動かせない。状態にあるアレを利用しようと打診したのも叔父だった。
そうしてやっとこの日が来た。
色々嘘の情報を混ぜて叔父を篭絡したのはよかったが叔父や貴族のせいで一年を棒に振り、今やっと待機状態から動く事態となったのだ。
エドガーはこの屋敷での阿呆振りを演じきった。
戦闘もなく、研究も禁止、はっきり言って地獄。
慰めは読書くらいだ。
そういって見渡せば、どっさりと本が散乱している事態だった。
貴重な蔵書も多く、軍関連の書物もある。
エドガーは不器用だった。物を整理などは家ではメイドの仕事だったが、資金提供ガ無くなって家から母やメイドが出て行ってからは掃除すらまともにしていないのが屋敷の現状だ。
そんな奴に本の整理などできるはずもない。
そこでギルドから雇い、見た目だけでも整理させる手足を雇った。
外部に情報を出すことを恐れ、雇い入れは子供と指定を出した。
そこで来たのは、黒髪と赤い瞳の少年だった。
白い肌は、ここら辺の生まれとは見えないし、華奢すぎる体だったために一瞬少女かと見紛うほどだった。
まぁ、いいかとエドガーはそのまま仕事を任せ、研究室件自室に篭もる事にした。
そして、叔父から連絡があり、ホムンクルスを引き取るという強引な申し出があった。
はっきり言って、動かせない、触れない、壊せないの三様をどうやって解決するのか俺には勝手にしろとしか言えなかった。
それは同時にどうにもできはしないと分かっていてのことだ。
あとはこの叔父を完膚なきまでに、精神を折って情報を引き出せばいいのだ。
のち半年で情報は出尽くした。
後は仕上げをごろうじろという具合だ
半年は、軍から離れたように見せかけるためとはいえ屋敷での生活は限界を感じていたところの開放だ。
朝は爽快さを以て起きたが、給料をわたすのを忘れていた子供にわたす為に久々に部屋から出た。
そうしてエドガーは知ることなった。
この子供の異常さと意外性に、子供の語る常人の理屈ではない言動に
そうして停滞していた時を動かしたのもこの少年だった。
あのホムンクルスから声がしたというのだ。
この一年で、多少はエナジードレインに安定が見れるようになってきたが、会話することなど夢にも思っていなかった。
エドガーにとってこの少年は意外性の塊であり、起爆剤であるようだった。
行動や知識に触発されるものがあった。
安く言えば、友人になりたいと思ったといってもいい。
ドラネルの来訪によりさ跨られ、阿呆で侮辱極まりない理由に猛ってしまったがそれすらも上回るものがこの少年だ。
逃がすつもりで相手を昏倒させたのに、この少年がやったことは、戸惑うこともなく挑むことだった。
そして自分の作品がこの世に本当の意味で解き放たれた瞬間だった。
エナジードレインの制御、魔力吸収は発動していない。
完全な安定状態でホムンクルスの封印はとかれたのだ。
自分の作り上げたものに悪意で興味をもたれたことでアレに触って死ねばいいとも思ったが、それを解いてくれたことにはうれしいという感情しかない。
娘のようなモノだったそれが本当に目覚めたのだ。
うれしくないわけはなかった。
それでも、屋敷が粉砕し、魔動騎士が召喚されるなど夢にも思わなかったがと苦笑した。
と、思い返していた事態をさえぎったのはその少年たるルナルだ。
「エドガー、後頼んだ。」
ルナルは、ファブニールをつれて帰ることにしたらしい。
そういって興味深い具合に無詠唱、媒体無しの魔術を見せてくれる。
ファブニールを抱え、小さいからだが遠ざかる。
すごいスピードで去っていくルナルの姿に苦笑しながら、追尾するために数人に令を発した。
「絶対に逃がすな」
と令を発し、接触も手出しもするなと厳命した。
隣で膨れる姫にエドガーはどうするかを伝えるつもりだ。
「大丈夫です姫様、また会あえますよ」
甘言をいいながら、その実、あの少年のいう好奇心に突き動かされている自分がいた。
エドガーが、おいと声をかけるが、ルナルは関係ないと、立ちふさがるファブニールの右手を持って、不思議そうな表情を向けるファブニールに、軽く微笑んで思考領域内の魔術式を立ち上げる。
抱き寄せて、退路を確認する。
どうにも面倒ごとになりそうだとルナルは逃げることを選択した。
ファブニールはもう自分が世話をすると割り切る。
王族まで揃い、そこに武力が同時に存在しているのだ。
怒鳴り散らさんばかりに御転婆娘がどんな命令を下すかわからない。
総じて権力者というのは傲慢だとルナルは知っていた。
この世界ではない、過去を思い返すが、怒鳴られ意識がそちらに向いた。
「貴様、その子をどうするつもりだッ!?」
なんとも見当違いに怒ってくれるものだと笑う。
どうやら権力の扱い方を知らないらしい。
エドガー自身が『娘』という言葉を信じるなら今は逃げた方が得策だろう。
魔術式『神威』が発動し目にも映らない速さで移動する。
何、と叫ぶ少女の姿が見えたが構わない。
この子の目覚めは予想外のはずだ。
故に国がそれを知ればどうなるか見当が付くというものだ。
それだけを心配し行動する自分はどういうわけかこの子供の親をやるつもりでいるようだった。




