第010話_箱庭出る、夜空の…
魔女に釣られて俺は箱庭を出た。
多分に危険を孕んだ時間を過ごす事になるだろうと覚悟の上の選択だった。
「フフフ、驚いているようね」
現状に埋没した危機感は、俺の精神回復よりしがみ付く事へ現実的な死の回避を優先した。
魔法だけがファンタジーではない。
世界もそれなりに変わっていた。
現在、早朝だと思っていたが、外は真っ暗な闇に覆われている。
夜空の月は、半壊していた。
大きく丸い穴が開いて、三日月に近い形になっている。
そして今まで居た所は、外に出るとまるで森が茂っていて見る影もない。
一番の問題は、俺はなぜかそれを空から見ているということだ。
付け加えるなら、大きく大翼で風をないで飛ぶ全長20mは有ろうかという赤い竜の背中に乗っけられていた。
エルヴィンは全く風の抵抗を受けてないようだが、俺に至ってはしがみつくので精一杯だった。
狂風注意報発令宜しく、俺は死物狂いで摑まっている。
「スライサー、高度と速度を上げなさい。」
「Yes, mother」
「あ、忘れてたわ」
素で忘れていたのか、魔女と言ったことを根に持っていたのか彼女の結界により危機は脱した。
暴風で飛ばされるシーツの気持ちが少しわかったりする感覚だった。
爬虫類特有の微妙な冷たいうろこの上に腰を下ろし、ため息をついた。
「ワザとだろ?」
と文句を言いかけたがその光景に一瞬だけわれを忘れた。
赤い髪は腰まであり少女の細い体躯を隠すには十分な量の髪、黒いローブで身を包んだ魔法使いは振り返る。その一瞬、夜空を背景に絵になる一枚画を見るような感慨を持ったが、すぐにその顔に薄笑いを浮かべたことで一瞬で崩れ去った。
「不愉快な視線ね。」
「ハ、すかれてるとでも思ってたのか?」
こちらは嘲笑を返して、視線だけを魔女に向ける。
8歳の子供と少女という年頃の背丈は若干少女のほうが高い。
その性もあってか、よけいに見下されている体勢が癪に障る。
「まぁ、別にいいわ…。それより、魔法使いの話が途中だったでしょ?」
今更ながら、この竜の上で始める談義としては妥当だろう。
いつルフランにつくのかもわからない俺としては願ってもない暇つぶしだ。
「魔法使いはね、大抵が転生者なのよ。」
「はぁ?」
自然と口を着いて出た。
なら、返す言葉は決まっている。
「お前もそうなのか?」
「ええ、3度目の転生よ。この世界の前の世界では魔法という概念もなく普通だったけどこの世界では、転生者は魔素に極端に影響されやすいらしいの」
言いえて妙だった。
魔素は空気中に自然発生している。ある説には魔界という場所からもれ出ているとか神々の塵だとか、神秘性や他世界解釈などが濃厚と書庫だけの知識ではそんなものだった
魔素自体は魔力を精製する際のエネルギーだ。それ自体に意思はないが毒性があるのは確かだった。
肉体が変質するという事例がいくつかあったらしい。
肉体一個の許容量を超えての魔力精製は、毒を溜め込むも一緒で蓄積した毒はやがて体を侵食し変質させるという。その末路が化け物となりヒトに討たれるという悲劇を生んだらしい。だからこそ妙なのだ、魔素も影響されやすいというなら毒で体をむしばまれると言う方がしっくりくる。
「なら、俺は失格だな、魔術を使い、毒で倒れた。それは毒を受けやすい体質ということか」
ハッキリ言えば不本意だ。
魔力等は魔動騎士に必須事項なのに出鼻をくじかれたも同然だった。
「違うわよ?貴方、アルテミスで動かしたのよね。」
「あ、ああそうだ。」
「そもそも、アクティブ操作なしで直接入力するなんて芸当は誰にもできないわ。汚染のほうはたぶん、出力が大きすぎてよったんでしょ。」
たぶん屋敷のヒトも気づいてないでしょう。とエルヴィンは呟いた。
「?」
首を傾げたい気分だ。俺は確かに魔動騎士のコアに直接アクセスした。
後は純粋にどう動けばどう止まるのかを計算して実行したに過ぎない。
だから解せない、魔術じゃないとはどういうことなのか
「魔術は人が魔法の真似事をするために作られた学問なのよ?」
「?」
「気づいてないようだから言うわ、魔動騎士のコアユニットに部分アクセスしかけるなんてそんな魔術は存在しないわ」
「いや、現に俺が使ったじゃないか」
何を不思議がっているのだろう。制御術式を探知し、検索し、プログラムを通して掌握して出力計算、起動計算等を行い動かしただけだ。
「はぁー、アクセスする手段が無いものをどうやって起動したの?」
「アレ」と疑問符が浮かんだ。俺はどうやって魔術を行使したのだろうと今更ながらに思ってしまった。
「解った?それは既に魔法よ、接触点で魔術の経路を逆にハッキングし、目的のプログラムだけ起動し掌握するなんて無茶は「思考で魔法を行使するもの」でなければできない所業よ」
「貴方の魔法は、接触することで最適なプログラムをくみ上げる。自動変換プログラムとでも言えばいいのかしら、アクティブ操作なしで動くように最適なプログラムを用意したプロセスは魔法そのもので既存の媒体を使っていない。」
「だから、貴方には魔術は必要ない。基本コードすら本来必要としないでしょうけど魔術ごときでは逆に貴方の魔法の足かせにしかならない。仕組みを知っていれば行使できる。本当に簡単でしょうね貴方の場合は…」
確かにそれは納得のいく話だ。
魔力をかってに自分でくみ上げたプログラムではしらせて目的の術式を掌握して起動したのだそれも思考プロセスだけで
「つまり、魔法って言うのは」
言葉を引き継いで、エルヴィンが語る。
「思考プログラムを立ち上げて自在に組み替えて起動できるもの。媒体無しに魔術行使するもの
を魔法使いといえるのよ。」
俺はなんとなく理解したが、どこまでが魔術でどこまでが魔法かを理解したに過ぎなかった。
なんとなく相槌を打ったところで同じく竜も止まった。
「もう、着いたのか?」
「いいえ、これを渡しておくわ」
そう言って、俺に投げてよこしたのは小さな装飾華美な短刀だった。
「それはアルテミス召喚器、亜空間固定されているからいつでも呼び出せるわ」
「な、なんて準備のいい。」
「私は、貴方が魔術行使した少し前に転移してきたのよ。だから、経過は見てた。もらったものは使わなくてはね。それともう解ったと思うけど、乗るときは魔術は必要ない。思考で操縦すればいい。腕はそのうち身に付けなさい。」
そう言って、俺はけりだされた。
「えっ」
「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
「師匠からの最初の伝言。自力でAクラスの実力を身につけなさいだそうよ?
ギルドなりで登録はできるでしょう。子供でもお使いから始めれるって師匠が言っていたわ。 それにね、貴方は甘やかされ過ぎだから結構死地を体験してほしいそうよ。」
それを最後に、俺は墜落していく。ロープ無しのフリーフォール。
右手には短刀のみのサバイバルな滑空で、俺は今日も夜空が綺麗だと高度からの眺めに現を抜かす。
「この腐れ魔女めぇぇぇぇぇっっっっ」
真っ逆様に俺は見知らぬ世界にほおり出された。




