『外伝001話』_壊れた狂科学者(マッドサイエンティスト)
室内は閑散としていた。
所々に詰まれた本や紙束、レポート用紙も損材に手をつける事を憚られるもののはずが存在を忘れごみのように扱われている。
だが、異様なほどこの室内は沈黙を貫いている。
音源になるはずのPCは自動停止を余儀なくし電源落ち、空気清浄機はタイマーをすでに切っている。そしてその部屋の中央でこの部屋の主たるものは冷たい死体となっていた。
監禁中に発作を起こし、死亡したウツミの死体だった。
「クスス……、本当に死んでるね。」
その部屋に踏み入ったものがいた。
白い短めの髪、血色が悪く青白い肌は病的のようで、体躯も少女と危ぶまれるほどだ。
髪と同じ白い白衣を着用し主の緩しなく部屋に入る。
面会すら禁止し、自宅軟禁にあったウツミは本来ならこのまま罪状を採決するまでは誰とも会うことのない隔離状態ですごすはずだった。実際のところは、数日で死亡していたのだから、裁判など無論開かれることはない。だが、とある事情からこの部屋に監視カメラを仕掛けた男がいた。悪意や嫌悪の対象としてこの研究部署からはすでに変人扱いを受けた狂科学者であり開発者、アダムは笑いながらこの室内をみていた。
「君が死ぬことを僕は悲しいと思ってる」
さっきまでの笑いがうそのように、顔に無表情を作り、そして涙していた。
ウツミも自分と同じように変人と扱われたものの一人。そこに同類として感じ入ったのかどうなのかは解らない。すでに答えを聞くことはない得も言わぬ死体には感傷としての感情しか見出せないのかもしれない。
「君と会話したのは一緒に開発に携わった数回だけだ。」
ウツミの体はすでに冷たい。
死後硬直に陥り、体も仰向けに表情は穏やかで両目は閉じている。
だからこそ、侵し難い敬意を持って彼は対等と認めたただ一人の友人の体を担いでいく。
黒い長髪がばらけるが、きれいに整えて持ち直す。
「けれども、君の精神はオタク根性と好奇心で満たされていた。」
担ぎづらいのか、何度も持ち直しながらようやく部屋を出る。
「君は言ったね、思考こそが最大の好奇心を満たす所業だと」
警備兵がいるはずの廊下は沈黙していた。
監視カメラは室内以外は設置されいるはずだが、すでに事切れたように反応していない。
防犯装置にいたっては起動すら危ぶまれる。
「僕は否定したけれど、意外とそうなのかなとも思ったよ。」
そこには死体があった。
戦時下にあり、戦う事をよしとしても「こう」まで無残に死ぬことを誰も望まないだろう。
千切れとんだ下半身、手、足、頭、等々、その死体に一貫性はない。
ただ同じなのは、暴虐によって死亡した理由が同じという感想だ。
同じものに殺されたそれだけは断言できた。
そこに干渉はない。
友人は死んだが、こいつらは勝手に死んだのだ。
同情すらいらない。
「だから、僕は君の死をきっかけに世界を恨んでみようと思う。」
理由にはほど遠い。
意味にも、感傷にも、友情にも、愛にも、その感情は見出せない。
そこにあったのは、暗い狂った者のぎらつく目があった。
死は蔓延している。
どこにでも戦場がある時代だ、この研究所は終わったが、まだ戦いは終わらない。
いつ死ぬかも解らない人生だ意味を問いたい神ぐらいほしいほどだ。
ただ狂った人間は、狂うだけの理由があって狂ったのか、変人と呼称される以前の自分とはどう違うのか、もう判断はつかない。
だから理由なんてものはすでにないのかもしない。
普通を知らない世代のジレンマか、足掻きか、絶望か、問いかけるものは既にない。
「さぁ、一緒に世界を滅ぼそうか……、ウツミ」
答えは返ってこない。
地獄の釜は既に開かれて、世界を滅亡に導かんとした狂信者がいるだけだった。




