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第001話_瑣末な技術屋の最後

一歩手前の暇つぶしにどうぞ

 



 ―世界はひとつではない―


 

 ―魔法のある世界、機械が発展する世界、何もない世界、似通った世界―


 

 ―世界は数多(あまた)、星の数より多い―


 

 ―しかし、交わることのない平行線上に存在して尚、その世界を超えようとするものがあった―


 

 ―次元の壁を量子を焦し、現れた『』―


 

 ―それは、ひとつの世界に舞い降りた―


 

 ―精霊が舞い、魔法があり、その『』がいた世界にはない力が満ちた高位の次元世界。―


 

 ――名をアルカディアといった――


 

 






 

 

 

 

 室内は荒れ放題だった。

 紙が床下に散乱し、慎ましくもきれいに整頓されたベットの上さえいろんなものが散乱している。

 その中央に、腰掛けた椅子に背をあずけ本で光をさえぎって眠る一人の男がいた。

 軽く(くく)っているだけの髪が床に着きそうなほど長い。

 白衣を着ているのは彼が、この研究施設の研究者である証である。

 人型兵器開発の技術屋(エンジニア)でオリジナルの機体設計や最新のOSを組み込んだ機体の製造をしていた。

 主ではある事柄から離されて今は軟禁中。



「まぁーたくっお堅い奴らだね」


 

 本の下から、愚痴をもらす。

 寝てはいなかった、この苛立ちと不満に愚痴をもらすのは仕方ないと本をどかして小さな照明を仰ぎ見た。

 目に眩しく、細くなる視線もかまずに、自然と口を付いて出た。


「俺の設計にミスなんてないのにな……」



 半場自室にて軟禁状態なのはこの男の手段の選ばなさにある。

 製作を先行するあまり、過程と資金をすっ飛ばし無断で資材強奪と侵入を試みたオオバカであっさりと上司に見つかってしまい、この状態。

 彼にとって趣味を取り上げられた子供に等しいが言わずもがな自己責任といわざる終えない。

 この戦時下に何を言っているのかと上司の男なら言うだろう。

 だが、彼、ウツミはこの世界は末期だと思っていた。

 戦争に投入される人型兵器は、人類に向けて使われる。

 元々は、工事や建築の作業効率をあげるための工作機械をもとにして作られたものだったが、どこの誰だか知らないが兵器転用を申し出た奴がいた。

 なんと愚かで、解かり易い考えをするものだとそれを書いた書物を読んだときに笑ったの覚えている。

 馬鹿みたいな予算配分で作られた人型兵器は今までの戦争を覆した。

 戦車を主とした攻撃手段以上に機敏に動き人を効率よく殺すことのできる殺人兵器は次第に、兵器同士の戦いに発展し今では世界の軍部がこぞって人型兵器の開発を主軸に置いているくらいだ。

 戦時投入を主として、武装、武器、の兵器の開発も進んだといえるだろう。

 核等の爆発物が使われないのはかろうじての状態が今の現状を語るには解かりやすいだろう。

 いつ世界が終わってもおかしくない現状にウツミは苦笑を形作る。


 

「面白い」


 

 そう、ウツミにとってはどうでもいいことだった。

 世界が戦争で滅ぼうと、どうなろうが、この男は趣味に生きるオタクである。

 オタクとは総じて、自分固有の世界を持つものだが、ウツミにとってはActive(アクティブ) tracer(トレーサー)略してATがまさにそれだった。

 本来は追随して動作を追う機械的な意味での試作機はやがて、Tactical(タクティカル) armor(アーマー)TAと戦術的な鎧と略を逆にして言われるが、先にあった名前が製作者からの申し出で未だにATと呼ばれている。

 意図しない戦術機への転用に名前だけでも反逆したかった当時の研究者の遺言に近い。

 しかし、そんなことに関係なく、人型兵器(AT)同士の戦闘に白熱し、新たな武器や装備が追加されれば、目を輝かせる。

 新型など作り出すなら、昼夜徹夜でもかまわないほどだ。

 唯一の欠点は操縦できるほど体が強くないことだった。

 持病の心臓病がなければ率先して乗っていただろうが、それがかなわないと知ったときほど絶望を知らない。

 故に、もどかしい。何故こうも作るだけで終わるのだろうかとウツミは歯軋りしたいほど悔やむがポックリいけば、どうしようもないと泣く泣く諦めたのだ。

 だが、運命はそれよりも残酷だと言えた。

 いつ死んでもおかしくない世界でいつ死んでもおかしくない病気にかかったのだから、


 

 それは必然だったし阿呆(あほう)な誤算でもあった。


 

 発作が起こった。


 

「ぐぅッッッ!!」


 

 心臓が締め付けられる。息が続かない。

 椅子から転げ落ちて、手探りで机の引き出しに手を伸ばす。

 次の瞬間、情けなくも唖然とした。発作をおさめる鎮静剤のビンを手に取ったが

 

「空かよ!!」

 

 まるでコントのように、ビンを投げ捨てるが、状態は悪化する一方だった。

 そうして、あっけなく誰も助けにこない自室の部屋でウツミは息を引き取った。

 乗らなくてもポックリ逝ってしまったのはウツミ唯一の不覚だったと言えるだろう。

 





 

 

 時は少しばかり違うが、異世界アルカディアで産声が上がる。


 

「よしよし、いい子ね。」


 

 柔らかく長い黒髪で優しい感情を含んだ赤い瞳、肌白く綺麗な女性は一人の赤ん坊を抱いていた。


 

「難産でしたな。」


 

 白衣をまとった老婆が、額の汗を拭きながら女性の抱く子供を見る。


 

「ええっ」と答えうれしそうに子供見るのは母親ゆえの愛情と生まれてきてくれた嬉しさにあふ


 れていた。老婆も一緒に嬉しそうに子供見る。


 

「お名前は、おきめになったのですか?」



 

「ルナルよ」


 

 ほほうっと老婆が名前を反芻し、いい名前ですと返した。


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