前編
私はどこにでもいるような平凡な女だ。
少しだけ運動神経が良いものの、他には大した特技がないごく一般的な小市民である。
事務仕事を黙々とこなして友人関係は深く狭く、彼氏とは別れたので絶賛募集中だったのだが、ことりと首を傾げる。
目が覚めたら知らない天井だった。
いや、ネタではなくマジで。
天井にはシャンデリアよりもキラキラしく光り輝き、壁や床はクリスタルなのか透明で神秘的だ。
断じて私の部屋はこんな高級感が漂うものではなく一般的なしょぼい部屋だ。
どのくらいかというと、ちょっぴり壁紙が黄ばみ、若干継ぎ目が剥がれそうな塩梅をしている。
うん、胸を張るようなことじゃないよね。
分かってるけど、今の状況についていけなくて混乱しているからしょうがないさ。
務めて見ないようにしていた魔法使いっぽいローブを着たコスプレ集団を視界に入れる。
ご丁寧に杖まで持ち、中心人物は白い髭をふっさりと生やしている。
もしかして、アレですかね。
召喚トリップってヤツですか?
勇者を召喚して魔王を倒せ的な……その割には空気が重いっスけど、どうしたもんか。
「失敗じゃ、馬鹿者めが!」
汚い物を見るような目つきで私を見下し、吐き捨てるように舌打ちをした。
酷くない?
こっちは誘拐された被害者なんだぜ。
慰謝料って請求できんですかねいっ?
「これで、6人目ですわね。次で失敗したら、また双月まで待たねばなりません」
美人がため息を吐き、どこかに視線をやる。
辿っていくとおぞましい光景に両手で口を塞いだ。
人の形をした物体が無造作に積み重なれ、赤い液体を流しているのだ。
平和ボケボケな日本で育ちましたが、一目で何だが分かります。
もしかしなくても、死体ってヤツですよねー。
あれれ?
これってさ、私ヤバくない?
つーっと冷たい汗がにじみ出て、心臓が全力疾走したときのように速くなる。
逃げ場を探しながら後退しようとする私に眼鏡の青年が気付いてしまう。
「マスター、あいつ逃げようとしてますけど」
「フン、無駄じゃ。ココからは出られん。さっさと殺して次の召喚をするぞ」
一瞥すらせず髭は次の準備に取り掛かかり、美人や他のローブ達も手伝うが眼鏡だけ私に杖を向ける。
ヤバイ。
構え的に攻撃魔法ってヤツでねーの。
どんな効果があるかは知らねーけど、凄い威力が込められているのを肌で感じ体が震えてく。
「やだ、やめて」
首を振り懇願するも止められることはないだろう。
――だって、コレは儀式なのだから。
魔王を倒せる存在である勇者を異世界から召喚するため、間違って召喚されてしまった者は不純物。
世界にとって要らないモノ。
不必要なモノは殺さなくてはならない。
私はこの世界の人間の都合で呼び出され、必要なモノじゃなかったために、この世界のために殺される。
自覚すると恐怖は増していく。
「死にたくない、よ」
「ブレ・ロンヒ」
杖から青い光りが放たれ、私の体を貫いていく。
「あがっ、ぎぅっ」
痛い、熱い、苦しい。
おま、殺すなら一思いに痛みすら感じないくらい一撃でヤれよ。
無駄に外すから半端ないほどの痛みにのた打ち回らなきゃじゃねーか!
マジムカツクんですけどー。
「あれ? まだ、生きてる。しぶといなぁ」
違うっつーの!
お前の腕が悪すぎなんだよ、ヘボ魔法使いめ。
地獄に落ちろ!
「ふざけてないで、早く止めを刺しなさい」
「へいへい。もういっちょ、ブレ・ロンヒってね」
美人さんから注意を受けて眼鏡はもう一度同じ魔法を唱え、今度こそ私の意識は失われ殺された。
ノリと勢いで書いてしまいました。
今回も自分が好きな要素を入れてます。
異世界トリップ・召喚・失敗・嫌われ・ふざけた感じの主人公。
この嫌われは歓迎されてないって意味です。
しょっぱなから殺されちゃうし。
後、珍しく一人称にしたので読みにくかったらすみません。