ある夏の日に来るもの
Prologe
さぁ、始めようか。
髪を鮮やかな金色に染め上げた少女がつぶやく。
ニコリ、と、その少女は夜空に向かって笑った。
彼女を取り囲んでいたチンピラたちが、気味の悪そうに一歩引く。
笑顔のまま暗い倉庫の中で彼女はチンピラたちを見渡した。
「かかって来いよ」
少女が言った。
若き女のその言いように、彼女を取り囲む空気がより圧迫される。
だが、少女は何てことないかのようにニコニコと笑い続けている。
「てめぇ、誰に呼び出されたか分かってんのか?キョウカさんよぉ」
闇の中で、チンピラたちが言った。
「何でもいいからさ、まぁ、かかって来いや」
その問いの答えとも取れない少女の言葉に、チンピラたちは鈍く笑う。
次の瞬間、鉄パイプやスタンガン、ナイフなどを持ったチンピラたちが一斉に、少女のもとへ駆け込んだ。
数分後
その倉庫の中には、一つの影があった。
倉庫の中にこもる血のにおいが、あたりを赤く染めているかのように外に広がっていく。
床に転がる男たちを踏みながら、その少女は倉庫を出て行く。
赤くぬれている倉庫から外に出た少女は、大きく深呼吸をした。
「あぁ、つまんねぇぜ」
金髪の少女は月に向かってそう呟いた。
そのまましばらく歩き、川沿いの畦道を通る。
「うちの妹は充実した日を送ってるってのによぉ」
「まっ、それも何もかも運命ってことで諦めなよ。栱崋」
少女の後ろから近づいてきていた人影が、その金髪に声をかけた。
その者は、少女と同じくらいの年の髪を赤く染め上げた少年だった。
「またおめぇか」
はぁっ、と大きくため息をついて少女は続ける。
「失せろ」
「ひどいなぁ。せっかく来てやったっていうのに」
「黙れ」
「栱崋はいっつもそうなんだから」
「一回死ね」
「ねぇ、栱・・・」
「消えろ」
「・・・・・・、もぅ、ぃぃ」
「それでいぃ」
「でも栱崋ってさ、死ね消えろは言うけど殺すは言わないよね」
「だから?」
「それはさ、君が僕に少しでも好意を抱いていると考えてもイオッノァァァアァアァアアアッッッッッッ」
ジャボン
「一回死んでもう一回死んでこいや」
少女が少年を殴り飛ばし、声の余韻を残しながら少年は川の中へと吸い込まれていった。
しばらく少女は水面を見て、待っていた。
1秒、2秒、3秒・・・・・・・・
・・・・・・。浮かんでこない。
わずか3秒で少女はその場を立ち去った。
月明かりの下、2人の少女が歩いている。
川沿いのその畦道を歩いていた金髪の少女の足に突如川から湧いて出てきた腕が、ヌッと絡む。
少女はその足を払い、もう一回川に落とすと、何事もなかったように平然とまた歩き始める。
ザバァッ
「栱崋、酷いよこれは・・・・・・」
「どうしタ?夜中に水泳でもしてたノカ?」
セラセラと笑いながら、金髪の少女の隣にいた美しい黒髪をした少女が言う。
「んなわけないだろぅ、もぅ。っていうかさ、なんで魅螺がいるわけ?」
「さっきそこで会った」
「っな、僕が落ちたとこじゃねぇか」
「ハハハ、おまえの落ちる姿、マヌケで面白かったゾ」
「ねぇ、魅螺って絶対本名じゃないよね」
「なんでこの会話からそれがでんだよ」
「いやまぇまぇから気になてたしさ、やっぱ今聴くかなぁと」
「KYだナ」
「CKY」
「MKY」
「うぅん、何か聞こえるけど、気のせい気のせいィィィイイイイナァアアアァァアゥッッッッ」
ボチャン
「いまそこになんかいたカ?」
「いいや、だぁれもいなかったぜ」
月明かりの下で少女たちが笑っている。
川は波立ち、水中から突き出た手がくるくると宙を仰いでいる。
畦道の中で、2人少女がわらっている・・・・・・。
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人の一番
教室の中で、3人の高校生が雑談をしていた。
一人は、金髪のショートヘア、もう一人は黒髪のぱっつん、最後に、唯一の男は真っ赤なロンゲ君だった。
「まったくもう、響樺と魅螺のせいで風邪ひくとこだったじゃないか」
「だまれゲスやろう」
「つくづく思うけどさ、響樺とまともな会話したことないよねぇ」
「うぜぇナスビ」
「・・・・・・、もぅ、ぃぃ」
「安心しロ。バカは風邪ひかネェってむかしからいうぢゃねぇカ」
「魅螺、遅れてるゼ」
「ワルかったナ、響樺さんヨ」
「だけどさ、どうする?俺らの界隈」
「うちが言おうとしとったことを言うな。赤ライオン風情が」
「・・・。わかりましたよ、響樺様」
「それでいい」
「オクビョウものは黙ってナ。ふぁいやぁへっど」
「魅螺まで」
「で、どうする?うちらの界隈」
「これまでどぉり治めたらいいぢゃねぇカ」
「あ?近くのチームがいくつか寄り集まって100強の連合グループ作ってんだぜ?」
「だからどうしタ?」
「うちらでも100も一気に攻められたら皆殺しはムズいだろうが」
「抹殺前提カヨ」
クク、と笑って魅螺が言う。
「あいつを起こしたらいいヂャねぇかヨ」
「生理的に無理だわさ」
「お前の妹に頼むってのは?響樺様?」
「だまれロンゲ」
「まぁなんにしろ、私らのチカラ見せればいいんダヨ」
笑って、魅螺が言った。
その横で笑う響樺も、落ち込むロンゲ君も、声は出さないが賛同の意を示している。
「一気に片つけるゼ」
家・・・、といってもただのボロ1DKアパート、に帰った栱崋は、狭い部屋の中で優雅に横になった。
ケータイを片手に、身動きせずにメールをしているその光景は、傍から見ると至って普通だった。唯一、そのメールの内容を除けば・・・・・。
ニコリ
ケータイを見て不気味に笑った彼女は、そのまま立ち上がるとコートを持ってアパートの外に出た。
塀に立てかけてあるチャリンコにまたがり、疾走する。
月の明かりの中に一つの影が躍り、風にたなびく髪が煌く。
しばらくすると道路が荒れた砂利道に変わった。
ギヤを上げ、砂利の中でもスピードを落とさずに彼女は走る。
砂利道が広がり、ついに広場みたいな感じになった。
その広場には、すでに何人もの人影が集まっていた・・・・・・。
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悪魔の二番目
砂利の中に、一陣の風が吹き渡る。
その広場には、二つの集団が対面していた。
片方の集団は100人近くにもなろうかという、見ただけでヤンキーだ、とわかりそうなやつらの塊。
もう片方の集団は、たった3人だけだった。一人は美しい黒髪のぱっつん少女、もう一人は赤く染め上げたロンゲの少年、最後の一人は、月夜に煌く金髪をした少女だった。
「てめぇら、うちらの界隈に入ったってコトはドーユーコトかわかってんだろうなぁ?!!」
金髪の少女が闇に高らかに吼え上げる。
100人近くいるもう一つの軍勢が、うろたえたのが目に見えてわかった。
「つまりは仏刹確定ってことナンダヨ」
黒髪の少女が言う。
「チェックメイト」
ロンゲ君が、始まってすらないのに終了を宣言する。
「いぁ、GOか」
そして一人つぶやく。
だがそのころにはすでに、傍らにいた二人の少女は100のグループの中に突っ込んでいっていた。
闇に血しぶきが飛び、罵声が響き渡る。
始めのうちは呆けていた大衆が、仲間が一人、また一人とやられ始めると、彼らをやった人影に向かって特攻していった。彼らのリーダーたちは何か叫んでいるが、頭に血が上りそれすらも耳に入っていないようだ。彼らは、複数のグループの集合連合だった。
栱崋は、熱気の増す男たちの中を、それらを薙ぎ倒しながら突き進んでいた。
横から振り降ろされるパイプをかわし、そのついでにと振り下ろした奴の胸あたりに膝を一発入れる。
ボキッっっとにぶいおとがして、男が崩れ落ちる。
その間にも、次から次へとそれらは襲ってくる・・・・・・。
彼女は笑った。冷酷に、なおかつ残虐に、心底楽しそうに笑った。
「ハハ、このムシケラどもめが」
四方八方から飛んでくる幾数もの手を一人の手をつかみ、そこを支点として上に跳躍した。
そのまま下降する勢いで一人、また一人と頭から潰していった。
・・・・・・・・・・・・暗くたなびく闇の中、動かない人間の中心に、三人の者が立っていた。
美しく赤い刃身のナイフを手に、ニコニコと笑っている赤髪の少年。
ドス黒く滴るチェーンを両手に、ケタケタと哄笑する黒髪の少女。
片手に男の頭を持ち、薄く笑いながらそれを横に放り投げた金髪の少女。
彼らの前に、5,6人の男たちが対峙している。
「ちょ、ちょタンマな?」
明らかに焦りの声が混ざった男たちの頼みを少女は笑う。
「てめぇらからしかけたんだろぅが?」
笑いながら、その男の頭を蹴り上げる。
ゴフっ
鈍い音とともに、男は崩れ落ちた。
「あ、あああ、ああのな、お前らとは殺りあいにきたわけじゃねぇんだよ」
「嘘つけや」
残っている男の言葉を少女は一蹴。
「いあ、なマジだって。こいつの彼女の妹が自殺したらしくてよ。でその彼女が塞ぎこんでてな、その元になったやつブチ殺すために協力してくれねぇかって話し合いに来た・・・・」
喋っていた男が力なく崩れ落ちる。
「キャハハハハハ、喋りすぎだナンだヨ」
黒髪の悪魔は月に哄笑する。
「魅螺、ちょ話させろ」
「響樺いいのカヨ」
金髪の悪魔はニッと笑う。
「その話、興味があるもんでな」
「お、おぉお、そ、そうか。おめぇらが味方についてくれるならアリがてぇ」
「あぁ?!誰が味方につくって言ったよ?嘘だと思ったら時間無駄にしたってことで虐殺してやるから安心しとけ」
「や、嘘じゃないからな、簡潔にいうが。その元になったやつは、つぅかそのグーループはよチコってやつがリーダーなんだよ」
月夜に、金の悪魔の笑い声が響いた・・・・・・。