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集結した崩壊を進んで  作者: 美紗埜 穂美
少女たちのその運命は
2/7

果てに続く星の彼方で

 prologe

 

 なぜ?

 何故私たちは生まれてきたの?

 

 なぜ?

 この世に生を受けたことの意味は?


 なぜ?

 全てが繰り返しのこの日常は?


 

 つまらないこの世なんて要らない。スリルと面白さだけが必要この世の存在意義。

 どんなスリルを求めるかって?

 決まってるじゃない。悪いことをしてそれから逃げおおせられるか、それとも見つかるか?

 そのぎりぎりの境界線の上を落ちないように歩くの。

 何をするかって?

 野暮なこと訊かないで!

 いろんなことをするに決まってるじゃない。

 どうしてそれが分からないの?どうしてこの気持ちが分からないの?

 人の世に限界を感じ新しくしてやろうってこの気持ちが。

 なんでみんな感じないの?新しく創ろうとすることへのスリルを。

 君が特殊?

 えぇそう。

 私は特殊かもしれない。

 でも私以外にこの気持ちを感じている人が一人もいないって、なんで?!

 まぁいいわ・・・・・・。

 私が全てを覆す。

 めちゃくちゃに壊して、新しい世の中を創る。

 本当に出来るのかって?

 見ていなさい。

 すぐにやって見せるから。


 歪んだ彼女の気持ちはどうしようもなくこじれていて、きつく絡まっていて、もう後戻りも出来ないほどになっていた。

 

 そして、つまらない世界の全てを写し、彼女の歪んだ感情が、ある崩壊を産み出した。



_____________________

  イチ

  崩壊


 全て、何もかも。

 1から10まで。

 消す。壊す。そして・・・、再構築。



「おはよー、友美(ゆみ)チャン」

「おはよぅー」


 何の変哲も無い朝がまた幕を開ける。

 席に付いて、周りに集まってくるみんなと話す。

「ねぇ、最近どぅ~?」

「どぉって?」

「ほら、ムーくんとだよ」

「あぁ、うぅん、なう喧嘩中?」

「まじか」

「えっ付合っとったん?!」

「今更?!」

「えぇー」

 ・

 ・ 

 ・


 この変哲の無い日々も今日が最後。

 この、私の手によって、全てのものが崩壊する。


 私、実生友美(みしょうゆみ)は、庄月中学の2年生。

 この日々が退屈でたまらない、中学生だ。

____________________


キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン


 放課後のチャイムがなり、皆がいっせいに部活に行く。

「ゆーみっ」

「わっ」

 突如、肩に勢いよく置かれた手によって、友美は思わず大声を上げてしまった。

「なんだぁ、ヒノか」

「なんだって何よ?」

「別にぃ。あ、そぅだ。先生に部活遅れるって伝えとって」

「? なんで?」

「ちょっと内村ティーチャから呼び出し食らってってさぁ」

「ざまー、どんまぃっ☆」

「そんな露骨に喜ばれてもねぇ」

「別に喜んでなんか無いよっぅ」

「ちょっと殺意が芽生えてきたゎ」

「きゃー」

「っと、早く行かなきゃまた説教が長引くから。じゃねヒノ」

「がんばってー」

 友人の声を背に聞きながら、友美はため息をつく。

 ポッケの中には財布が入っている。

 その財布を取り出し、中からコインのようなものを友美は取り出した。

 そのうらっかわに張り付いている両面テープのシールを剥ぐと、友美はまた深々とため息をついた。そして、何かを決心したように顔を上げると、校舎の壁の見えにくいところにそれを貼り付けた。

 何メートルか歩くたびに友美は壁にそれを張り付け、全て貼り終わると満足そうに顔を上げたのだった。

 そのまま、重い足取りで友美は職員室に入った。

 数秒後、大きな怒鳴り声が、職員室の中から廊下まで響き渡ってきた。

 

 十数分後、やっと内村から開放された友美はまた大きなため息をついた。そして、階段を降り、下足ロッカーから走ってグラウンドへと向かっていった。


「ゆみーお疲れさんー」

 部室に入った途端聞こえてきた声に半場あきれながら友美は返す。

「もぅーヒノもチコもヒトゴトだとおもって」

「だってヒトゴトだもーん。ねぇー」

「ねーぇ」

「うぅ・・・、意外とは薄情だね」

「ねーぇ」

「ねぇー」

「でもヒノもチコも内村には気をつけたほうがいいよ超ウザッタイから」

「気をつけてるよー。宿題サボるときはばれないように自分とこの提出欄に○付けてるし」

「せこーぃ」

「えっ、ばれねぇの?それ」

「うん、ばれないよ」

「いぃなー」

「いぃって?」

「私それやってバレて呼ばれたんだよ今日」

「はははぁ~、へたれだー」

「だぁー」

「もぅ、そんなこと上手くなってどぅすんのよぉー」

「もっとサボるぜー。いぇい!」

「チコも今度やってミヨーっと」

「もぉうぅ~」

 ・ 

 ・ 

 ・

 

_________________________

「ただっまー」


 玄関のドアを勢いよく開けて家にはいる。

 今日、起こることに胸を弾ませながら、友美はセーラー服を脱ぎ捨てた。

 

 タイムリミットまであと1:25。

 

 ふかふかのベットに腰をかけて、友美は思いをめぐらす。

 私の手で、私の、そしてみんなの日常が壊れる。あぁ、なんて素晴らしいんだろうか。つまらなく繰り返しだった日々が幕を閉じ、たまらなくスリラーな日々が幕を開ける。こわれて、また新しくなるのだ。この新しさがどうなるのかはまだ分からない。でも、なるべくマシなものを創ろうと思う。

 内村がいなくなり、学校も無くなり、それでも勉強は消えない。

 今の私には、それが精一杯だ。

 

 タイムリミットまであと1:13。

 

 出来れば勉強、もっと言えば日本の社会そのものを消してしまいたいんだけど今はまだ無理だ。

 でも、もっと大人になって権力も手に入れて、その上財力まで手に入ったらそれも可能かもしれない。

 自分の部屋を出て、お風呂に向かう。

 あぁ、もっともっと。

 

 タイムリミットまであと1:10。

 

 洗面所で服を脱ぎ、洗濯機にいれ、そのままお風呂に入る。

  

 シャー

 

 シャワーの水が肌に当たり、枝分かれをしながら落ちていく。

 シャンプーを手に取り、髪の毛に付ける。

 

 シャー

 

 シャワーが髪についた泡を流し、その泡が白めの体を流れ落ちていく。

 自分の身体を流れる泡が崩れる様子その一つを見ても、友美にはそれが新しい日々の到来の前触れのように感じられて、とても、心地が良かった。


 タイムリミットまであと00:58。


 お風呂から上がって、寝巻きに着替える。

 ボふっと頭からベットに飛び込み、ちょうど足元に来ていたペットのスコティッシュフォールドを抱き上げる。

「もぅ、どうしたらいいの?楽しみすぎて、眠れない!」

「ナーォ」

「むぅ、まじめに答えてよー」

 そういいながらペットちゃんを床におろして、さて寝ようかと布団をかぶる。


 タイムリミットまで、あと00:50。


 暗闇に入り、暖かな布団で包まれたまま、私はその崩壊を、その崩壊のときを、感じようとせずそのまま眠りに付いた。いや、感じようとしなかったのではない。感じては、決して感じてはいけなかったのだ。

 

 タイムリミットまで、あと00:35。


 その夜、私は夢を見た。

 果てに続く星の彼方で、哄笑しながら堕ちていく自分の姿が、その夢の中に、あった。

_________________________________


 次の日、学校は臨時休校になった。

 連絡網でそのことが伝わってきたとき、私は自分のしでかした崩壊に興奮して震えていた。

 

 私は、500円玉ぐらいの大きさの小型時限爆弾で、学校の1階を破壊したのだ。

 内村に提出したノートの中にもおんなじ物を入れていたから、きっと今頃、内村はあの世で自分の行いを悔いているところだろう。

 あぁ・・・、破壊だ。私の目の前から日常のローテーションが消えて、新たなローテーションを組み上げようとしている。

 ・・・、次は再構築だ。

 壊れた日常を、私の手で、私に合うように組みなおす。あぁ・・・、私を中心に、全ての理をまわそうではないか。新しいルールを、究極のローテーションを、今こそ組み上げようではないか。

 結果、あの夢のように堕ちてもいい。

 最後に笑い、儚い夢となって消えていく。あぁ、素晴らしいではないか。

 友美は、恐ろしく狂気じみた考えを持ち、ケータイへと手を伸ばした。

 

 彼女は、同じ内容のメールを、いろんな友達に向けて一斉送信した。


『学校がテロにあったみたいだね。壊れた学校を私たちの手で、変えて、そこにあったルールーもついでに私たちのいい様に変えよぅよ。暇な人は、今から西公園に集合!』


______________________________________________


   ニィ

   再構築


 西公園には、10人ぐらいの友達が集まった。

「ねぇ、ルールかえってなにすんの?」

「んんとねぇ、私たちがちょいと学校再建とかのために募金とかしればぁガッコ側もさ、私たちの意見とか聴いてくれねぇかなって。内村もさぁ、くたばったことだし十分にありえると思わない?」

「あ、いいねそれ」

「募金?!マジでんなかったり―事センにゃならんの?」

「うぅん、3分の1学校に寄付して残り小遣いになると思って頑張って」

「お、詐欺?詐欺?」

「募金詐欺かぁ。いいねそれ」

「でもなぁ、なんか詐欺って気が引けるな・・・」

「大丈夫だって。学校にはきちんと寄付するんだし、私たちの、庄月中生の心を癒すためにもお金はいるからっ。十分詐欺じゃないよ」

「のった!大賛成っ!!」

「うぅん・・・、私も・・・、やろっかな」

「よしじゃぁみんなでボキンしよー」

「おぉーーっ!」

「じゃぁさ、募金箱とかどぅする?」

「みんなでつくろぅよー」

「よし!それ決定っ!」

「いぇーぃ」

「じゃぁさ、みんなで箱持ってこようよ」

「おぉ~し、一回みんな家に帰れー」

「ラジぁー」

 正直言って、ここまで上手くいくとは私ですら思っていなかった。

 みんな、学校が爆破されて悲しいとかうれしいとかいろんな感情が混ざり合ってるんだと思う。そこにこんな話が飛び込んできて思わず喰らい付いた。お金と一緒についてくる、学校での特権。

 子供にとっては、最高の話だ。

 再構築も、崩壊のときと同じでどうやら上手くいきそうだ。

 そんな甘い考えで、友美は行動していた。


 そぅ、彼女はすでに哄笑し、堕ち始めていたのだ。

 夢で見たように。果てに続く星の彼方で。

 

 彼女は、上手いこと募金活動をまとめ、1ヶ月で一人当たり約2万円、合計で23万稼いだ。

 駅前、公民館、商店街、大手デパート前・・・・・・。

 とにかく人通りの多く、なおかつビジネスで動いている人が少なそうな場所を選んで募金活動を行った。 

 デパートに頼んで、店内に募金箱を置かせてもらったりもした。

 それで20万しか貯まらなかった。

 友美にとっては1ヶ月で23万は少ない金額であり、半分を学校に寄付したとしてもまだまだ特権を得るには及ばないだろうと考えていた。

 1ヶ月もたって、学校の修復も大分進んだ。早くしないと、間に合わなくなる。

 そこまで考えて、ある一つの結論に達した。

 箱の数を増やせばいいじゃん。

 商店街の店一つ残らず、デパート内にも増設して、公民館にも常時設置の募金箱を用意すればいい。今の倍以上の利益がないと学校というものは動いてくれない。

 友美は、特にこの計画に賛成の人3人を連れて交渉に行く事にした。

 すべてが丸く収まり、最後に友美は生き残る予定だった。

 だが、今晩を持って友美は堕ちる。極限まで堕ちて負ける。

 たった一日の優越感に浸り堕ちる。

 その運命を彼女は知らなかった。


__________________________________________

      サン

果てに続く星の彼方で哄笑して堕ちる少女



 次の朝、今度は連絡網を介さず学校から直接電話が掛かってきた。


 どきどきしながら電話に出る。

 そこにあったのは、冷徹な校長の声。

『今すぐ、学校に着なさい。君が煽動した仲間たちもいますからね』

 

 何が起こったのかは、すぐに理解できた。

 誰か裏切り者が、学校にチクった。

 あの募金活動のことを学校側が知り、呼び出されたのだと。

 

「君たちがここに来た理由は分かっているね」

 校長の声。

 皆が、ゆくっりと、そして恐る恐る肯く。

「学校のために募金をしてくれた。そこまではよかった。では何故、その募金して集まったお金を一部自分たちが使おうなドと考えたのかね?ある生徒、まぁこのメンバーの中にはいないのだが、たまたまそれを見ていた生徒が実生さんがそういっていた。と言っていたのだが本当かね?」

 これには、友美以外のみんなが自分の罪を少しでも軽くしようと大きくうなずいた。


 

              

               友美の中で、なにかが壊れた。




「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 突如こみ上げた笑いが、性懲りもなくたまらなく、止まらなくなった。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 皆が何かおかしなものでも見るような目つきで友美を見ている。

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 床にひざと手をつき、崩れ堕ちる。

「アハッハッハッハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハ」

 そんな友美を校長は一瞥して、他の皆に言った。

「皆さんは、今回は許すとしましょう。本来、学校のためを思って始めたことなのですから。次からは、まちがった道に走らないように気をつけてくださいね。実生さんは、そのまま残っていてください。校舎の爆破のことで訊きたいことが山ほどあります」

 その間にも友美の哄笑は続いていたが、校舎の爆破の事が出た途端、それがぴたっと止んだ。

「ハッ・・・、ハハ・・・」

 友美はそのまま立ち上がると、おもむろに窓に向かって走り始めた。

 

 ガシャン

 

 割れた窓ガラスと共に、友美の体が下へ下へと堕ちていく。

 自分が崩壊させた、瓦礫へと向かって、下へ、下へと堕ちていく。


「アアアアアハハハハハハハハハハハハハッハアハハハハハハハァアァァッァアアア・・・・・・・ッ」


 こうして、崩壊の少女は、自らも崩壊し、瓦礫という果てに続く星の彼方で、哄笑しながら最期を迎えたのであった。



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