第5話 依頼その1 森狼との戦い
森狼を100体倒せば一か月暮らせるなんて簡単に言ったことを私は後悔した。
範囲攻撃でまとめて倒せれば確かに楽かもしれないが、1体倒すのもなかなかしんどいしめんどくさいのだ。
「さくら、森狼が飛び出してくるよ」
「お任せください。【鉄華】」
飛び出してきた森狼に飛び掛かられたさくらは鉄扇を取りだして踊るようにその場で一回転する。
その直後、鉄扇から空気の刃のようなものが飛び出し、森狼の開けられた口に直撃。その口を切り裂いて狼の頭を横に両断してしまった。
【鉄華】はさくらのオリジナルスキルだ。
鉄扇を操り、鉄扇の先端から真空の刃を発射して敵を切り裂く。
舞踊を学んでいるさくらは舞うようにそのスキルを使うため、一見すると何をしているのかわからない。
ぼんやり見とれているといつの間にか両断されていることだろう。
そうこうしているうちにまた1体飛びだしてきた。
私の元に。
「マスター」
「私のほうで処理しておくよ」
意気揚々と飛び込んできた無防備な体に向けてクワッと口を開け噛みつく動作に移る森狼。
しかし次の瞬間、森狼の体は突然吹き飛ばされてしまった。
私が手で叩いたのだ。
「ギャウッ」
飛び掛かってきた森狼はそのような鳴き声だけを残し、地面に落ちるとそのまま動かなくなる。
首の骨が折れたらしい。
「お行儀の悪い犬たちだ。少し躾が必要だろうか?」
途端に残っている森狼たちは尻尾を巻いて逃げ出してしまった。
脅しすぎただろうか? おかげで10体しか討伐できていないんだが……。
「マスター。威圧してしまったらせっかくのお金が逃げてしまいます。少しは自重をお願いします」
「申し訳ございませんでした」
さくらたち従者には素直に謝ることにしている。
だって頭が上がらないからね。
ともあれ、森狼の遺体を回収しておこうか。
倒した森狼に近づき、その体に向かって手を翳す。
すると森狼の体がキラキラと輝く粒子となり、手のひらへと吸い込まれて行ってしまった。
インベントリを確認すると【狩猟品】という欄に森狼が追加されている。
あとはインベントリ内にある【解体ボタン】を押すことで【素材】と【廃棄品】に勝手に分けてくれるという仕様だ。
廃棄品は【削除】ボタンを押さない限りはそのまま残るので、もし廃棄品が必要な状況が来たら都度外に出してもいい。
「しかしこの探索者登録カードは便利ですね。受けた依頼を自動的に表示してくれますし討伐したら討伐数が勝手に更新されます」
ゲームのようなこのシステムだが、結構便利だと思う。
大元はアーカイブなのだろうがそれを利用して討伐数や受注中の依頼を表示してくれるのは非常に助かるのだ。
「とりあえず戻ろうか。5000クレムならそれなりの資金になるだろうし」
「銀貨の価値はあまりわかりませんけどね。市場調査は雛ちゃんを呼び出してからです」
「うっ……」
「あえて名前は出してませんでしたけど、鈴ちゃんもお忘れなく。雛ちゃんは甘えん坊寂しん坊名だけで済みますけど、鈴ちゃんはそうはいきませんので」
全員同い年のはずなのだが、印象的にはさくらが高校生くらいのお姉ちゃん、鈴が中学生くらいの多感な次女、雛が甘えん坊な小学生の末っ子といった感じだったりする。
そんなこんなで探索者組合に報告に戻る。
道中他の探索者に出会わなかったけどあまり依頼を受けていないのだろうか?
グレーメルの街に戻り、探索者組合の扉を開く。
今の時間帯は夕方であるせいか組合内はたくさんの人で溢れていた。
「ずいぶん人が多いですね。皆さん依頼帰りでしょうか」
「周辺の依頼やそのほかのこっちにやってくるタイプの依頼とかが多いのかもしれないね。できるだけトラブルは避けていこうか」
安全第一ではあるものの、トラブルとはどこからともなくやってくるものである。
気が付けば自分の周りにケモミミの女性たちが集まっているではないか。
「この狐耳のお兄さんなんかすっごくいい感じ」
「わかる、落ち着く」
「ちびっ子は子供かな? なんとなく似てる?」
「それはそれでショック……。あっ、でもありかも」
女性たちの言葉を聞いて苦笑いする私とむっとした表情をするさくら。
さくらはこう見えて独占欲は強いほうである。
「マスター。そんな風に女性に囲まれていると他の男性たちから恨まれますよ。見てください、周囲を」
さくらの言葉を聞いて周囲をちらりと確認すると、そこには鋭い視線を向ける男性が多く存在していた。
視線は語る。『もげた上で爆発四散しろ』と。
「さくら、すぐに報告に行こうか。私の命が危ないよ」
「そのくらいでマスターが死んでしまうなら大戦を生き延びたりはしませんよ」
恐れをなした私はさくらの手を引いて依頼の報告へと向かった。
列は長かったものの、報告の窓口は多く依頼報酬受け取りも別口であるため流れは存外スムーズだった。助かる。
「はい。依頼の報告ですね。登録カードを確認致します」
依頼報告窓口の女性に登録カードを渡す。
しばらく確認した後、「初日なのに10体も討伐されたんですね」と感想を漏らしていた。
「パーティーを組めばそれくらい行けそうでしたが」
自意識過剰ではないと思うが、いいパーティーを組めるなら初心者でも数を伸ばせるのではないだろうか。
「森狼は素早くタフなことで有名です。1体討伐するだけでもそれなりの労力と時間を使いますので10体はなかなか難しいんですよ。初心者なら頑張っても5体が精々でしょうか」
なるほど、私たちはカウンターを決めるのが上手かったので比較的簡単に倒すことができたが、普通はそのようにはいかないというわけか。
実に勉強になる話だった。
「はい。こちら報酬引換券です。売却するものがありましたらついでにご相談ください」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。ところで組合として森狼の素材でほしいものはあるのでしょうか」
どうやらさくらはここで素材の情報を集めるつもりでいるようだ。
「そうですね~~。今でしたら毛皮や牙、爪でしょうか。状態が良ければ高値で売れると思います」
「毛皮に牙に爪。ありがとうございます」
「いいえ~。では次の方どうぞ~」
一通り情報を集めることができたので報酬の引き換えに行くとしよう。
続いて報酬引換所。ここでは報酬引換券を渡すことで対応した依頼の報酬を受け取ることができるようだ。またここでは素材の買取所、物資の販売所も併設されている。
「らっしゃい。ここは報酬引換所だ。引換券を渡しな。すぐに用意してやるよ。買取希望なら右のやつに頼みな」
ガタイのいい禿頭の筋肉質の男性がニカっと笑いながら引換券を受け取る。
少しして報酬を皿の上に出して見せてくれた。
一緒に数えると今度は小さい布袋に入れてそれをこちらに渡してくれる。
「ありがとうございます」
「いいってことよ! 兄ちゃんは細いから肉食って筋肉鍛えろよ! でなきゃそっちのちっちゃいお嬢ちゃんを守れねえぞ?」
「そうですね、善処します」
「ふふ。最近怠けてましたものね? 頑張って見せてくださいね」
そんなやり取りをしながら買取所に向かう。
そこでは眼鏡をかけた細身の男性がルーペで素材を鑑定しながら次の客を待っていた。
「森狼の毛皮と牙と爪、これらを売りたいのですが」
一声かけると買取所の男性はちらりとこちらを見て「物を出しな」と声を掛けてきた。
「こちらです」
そう伝え素材を台の上に並べると買取所の男性は食い入るように見て確認を始める。
「ほう。いい腕だね。解体も上手いし倒し方も上手い。森狼の頭は毛皮としちゃ不向きだから別にいらないがそのほかは問題ないようだ。森狼の上等な毛皮だからな。組合じゃ少し安くなるがそれでも?」
買取所の男性が確認の言葉を投げかけてきたのでさくらに振る。
「それで構いません。おいくらでしょう」
「毛皮1枚につき2000クレム出そう。牙は1本につき100クレム、爪は1本につき50クレムだ。長いものしか買い取れないから注意してくれ」
「ではそれで」
「長いものだから牙は上下4本、爪は親指の爪4本、毛皮1枚。全部で10体分だからしめて48000クレムだな。いい稼ぎじゃないか。小さい爪や短い牙は装飾用や武器用には使えないが薬にはなる。薬屋に売るといい」
「ふふ。ありがとうございます」
「腕のいい奴は大歓迎だ。またよろしくな」
終始にこやかに話が進み48000クレムを稼ぎ出すことに成功した。
さくらはそれが嬉しいのかニコニコとしている。
その後、物資の販売所で食料、水、テント、ベッドロール、桶、布、調味料を購入して組合の外へと出る。
組合の外へ出てから少し行き、誰も来ない暗がりの木々の中に転移アンカーを設置して島へと戻った。
こうして異世界生活2日目が終わったのである。




