第20話 領主の覚悟
組合長であるマッシュさんと共に受付カウンターのあるロビーへ出る。
ロビーでは水晶が壊れただと何か異変が起きただのと大きな騒ぎになっていた。
「静まりたまえ。水晶の件は問い合わせたところ不具合であるという回答を得た。正常に登録されているとのことなので安心したまえ」
さすがは領主である組合長の一声というべきだろう。
あれだけ騒がしかったロビー内があっという間に静かになったのだ。
「組合長がそう言うんなら、そうなんでしょうけど」
「やめとけって。相手は組合長だけど領主様なんだぞ」
「だよなぁ……」
一部納得がいっていない人もいるようだがそれも仕方ないだろう。
それにしても領主様がなぜ組合長をしているのだろうか。
「なぜ組合長をしているのか疑問に思っているのだろう? まぁ我が家のしきたりでな。民衆と同じ場に立ち、物事を知ることも領主の務めなのだよ。知らないと思うがこの街はグラーデン公国という国に属している。国主はわが父グラーデン公爵だ。まぁ詳しいことはまた後にするとしよう。今は屋敷へ急ぐぞ」
マッシュさんは話を切り上げると私たちを率いて組合の外へと向かっていった。
後に続く新人の私たちを見てさすがの探索者たちも困惑気味の様子。
ひそひそと囁くように「いったいなぜ組合長と一緒にいるんだ?」などの声が聞こえてくる。
「さすがに目立つね。状況が状況だから仕方ないというべきか」
「マスターはまぁまぁ目立ちますからね。甘んじて好奇の視線も批判的なまなざしも受け止めてくださいね」
「さくらはいつも手厳しいね」
さくらは私に厳しいのである。
「外に馬車を用意してある。すぐに向かうぞ」
マッシュさんが扉の前に立つとまるで意思を持っているかのように扉は自動的に開く。
目の前には黒塗りの高級そうな品の良い馬車があり、その前には執事服を身に纏った初老の男性男性が一礼をした状態で立っていたのだ。
「旦那様。お迎えに上がりました」
「うむ。ギルバート。こちらが件の者だ」
マッシュさんが執事のギルバートさんにそう説明したところ、ギルバートさんは私のほうに向き直り、一礼する。
「これはこれは。詠春様、お初にお目にかかります。私はギルバート。アラディア家の筆頭執事を務めさせていただいております。先ほどお嬢様の件で旦那様より連絡をいただきましたゆえお迎えにあがりました」
「初めまして。狐塚詠春です。状況は一部ですがお聞きしました。色々と確認がしたいので申し訳ありませんが急ぎ向かいましょう」
「そうだな。ギルバート。急ぐぞ」
「承知致しました」
どうやらマッシュさんはいつの間にか執事に連絡を取っていたらしい。
どういう手法かはわからないが、おそらく伝心のようなスキルを持っているのだろう。
「色々と急で申し訳ない。子供は何人かいるのだが、エリーゼは末っ子でね。特に気に掛けているのだ」
「家族の一大事とあれば致し方のないこと。お気になさらずに」
「すまぬ」
どうやらこのマッシュさんという高位の貴族の男性はよほど人ができているらしい。
今はこのように頭を下げてはいるが状況を考えての行動なのだろう。
「旦那様がそのように頭をお下げになられるとは」
「下げるだけですべてが解決するならいくらでも下げてみせる。事は一刻を争うのだ」
「そうですね」
状況はわからないものの聞きかじった話から察するにひどい状態であることは間違いない。
となれば最悪【創造】を使い臓器自体を再構成する必要すらある。
今回は無償で構わないが本来であれば対価は相当なことになる。
しばらく他愛無い話をし、さくらたち従者のことを軽く説明していると馬車は丘の上の屋敷へとたどり着く。
屋敷はかなり大きなもので、門前には武装した兵士が常駐。
物々しい警備の中をゆっくり馬車が進んでいくと、やがて入り口前でギルバートさんが降りる。
そして私たちの乗っている馬車の扉を開けると恭しく一礼して降りるのを待ってくれていた。
「さぁ行こう」
緊張した面持ちでゆっくり馬車を降りるマッシュさん。
そのすぐ後に私たちも続くのであった。




