第15話 雛菊
やっとの思いで辿り着いた特殊医療室。
そこは他と同じように薄暗い部屋だった。
現在は赤色灯が光を放ちながら回転しているためちかちかと赤い光が部屋の中を照らしている状況だ。
そんな部屋の一番奥。
1つだけ稼働している医療ポッドの中に小さな人の姿があった。
さくらたちと同じくらいの大きさの長い黒髪のかわいらしい少女だ。
「雛菊……」
見たところ雛菊は激しく消耗しているような状況だった。
さすがに死んだりはしないものの、消耗状態から見て医療ポッドでの治療は数百年単位に及ぶと思われる。
「マスター。急ぎ雛菊ちゃんを抱きしめてあげてください」
さくらが近くに寄り、私に言葉を掛けてくる。
「あるじ様、早く~」
「ほら詠くん。早くやっちゃって」
雛も鈴も早くやれと私の背中を押してきている。
「まぁ、あれだね。改めて抱きしめろって言われるとちょっと困惑してしまうね。一番早くエネルギーを補充する方法だってわかってはいるんだけどさ……」
なんとなくの照れからくる若干の抵抗はあれどやるべきことは1つしかない。
私は医療ポッドの管理端末に手を当てるとイリスの機能を仲介してポッドの開錠を行う。
医療ポッドは命令を受け取るとウィーンという音を響かせながら蓋を開ける。
「雛菊。ごめんな」
軽く謝罪の言葉を口にし、雛菊の体を抱き上げる。
そして小さな体を軽く抱きしめる。
しばらくして、特殊医療室の外にガードロボが集まり始め騒がしくなってきたころ、「ご主人様……?」という小さな声が聞こえてきたのだ。
「雛菊!?」
「はい。ご主人様の雛菊はここにおりますよ」
腕の中の雛菊はそう口にすると、嬉しそうにほほ笑む。
そして腕に頬擦りつけ、感触を確かめるように何度も繰り返す。
「ようやくお会いできました。でも申し訳ございません。わたくしのミスで【空間結晶】が発生してしまいました。なんとか拡大は食い止めましたが、おかげで2つの大陸を犠牲にすることに……」
「あまり無理はしないでくれ」
そっと起き上がり、こちらを見上げる雛菊はすぐに謝罪の言葉を口にした。
どうやらさくらが報告していた2つの大陸が使えなくなった件は【空間結晶】発生によるものだったようだ。
「大丈夫……かはわからないけどどうにかするから安心して」
「ありがとうございます、ご主人様。それはそうと、室内に入ろうとしている存在が邪魔ですね。停止させましょう」
雛菊はそう口にすると近くにある端末に向かい手を翳した。
『副管理者権限により警戒モードが一時解除されました。恒久的な解除には管理者権限での命令が必要です』
「これでよし。ご主人様。早速で申し訳ないのですが、管理室まで向かいましょう。ご主人様の権限の再取得が必要です」
「うん、そうだね」
「雛菊ちゃんが無事でよかったです」
「雛菊ちゃ~ん」
「雛菊、ひさ」
「さくら姉様、雛ちゃん、鈴ちゃん。皆さんも元気そうで安心しました」
ひと時の安らぎの時間だ。
さくらたち姉妹は嬉しそうに再会を喜び合っている。
なんだか私も嬉しくなってくるよ。
「あの、ご主人様?」
「ん? なんだい?」
姉妹たちと話していた雛菊は、スススッと私の元まで近寄ってくるとそっと耳元でそっと囁く。
「あの、久しぶりにご主人様と一緒に寝てもいいでしょうか? その、お恥ずかしながら寂しかったもので……」
「あぁ、いいよ? いつもはみんなが思い思いの場所に陣取ってる気がするけど」
雛菊のお願いを聞いて最近のことをふと思い出す。
大体さくらが私の上で小さくなって寝ていて、雛と鈴が両サイドを埋める形で寝ていたっけ。
「今日はさくらの場所を雛菊に譲ってもらおうね」
「はい!」
なんとなくの提案だったが、雛菊は嬉しかったようで大きく頷いてくれた。
各々別々の部屋があった方がいいかなんて考えていたけど、まだ必要はなさそうだ。
女の子ばかりなんだし、気を遣うこともあるだろうとは思っているんだけどね。
一応従者ではないけど副官の形で男性の部下はいるので今度呼び出してみようかと思う。
「では、管理室へ向かいましょう」




