第12話 転移紋
鉱石精錬の目途が立ったので、雛に頼んで鉱石の種を洞窟内に植えてもらうことにした。
この鉱石の種は発芽すると地中にある未精錬の対象鉱物の成分を利用し、徐々に周囲の岩をその鉱物に置き換えてしまうという特性がある。
「いっそこっちの世界とは別に仮の空間を作ってそこで育ててはどうですか?」
さくらの助言である。
「いわゆるダンジョンみたいな感じになるというわけだね」
というわけで早速洞窟内に別の空間を作ることに。
「【アクセス デュオ クリエイト ニューワールド】」
クリエイトスキルを使用するとすぐに目の前にうっすらとしたもやもやした白い渦のようなものがが出現する。
やがてその渦は少しずつ形をはっきりさせていき、白い扉のような形でその場に顕現した。
「とりあえず洞窟内ってことで接続先も洞窟にしてあるよ。とりあえずいこうか」
今作りだしたポータルの先にあるのは今いる洞窟を模した岩に囲まれた小さな世界だ。
外に地上はなく、ただ洞窟だけがある、そんな閉じられた空間となっている。
そんな空間に繋がるポータルの先には、高さはあまりないが開けた空間が広がっていた。
「これならどうにかできそうです! とりあえず貰った鉱石の種を植えてしまいます~!」
さっそく雛が手近な場所に鉱石の種を植え始めた。
種自体は楕円形のいかにも種ですという形をしているが、岩の上に置くと同時にその姿は砂のように崩れて消え去ってしまった。
代わりに小さな金属の芽が岩の上に現れる。
「この芽の下に鉱脈が生成されていくよ。採掘の目安は花が咲いて種が落ちたころだね」
その期間概ね1週間である。
めちゃくちゃ早い。
ちなみにこの鉱石の種は宇宙空間では育てられず、酸素と窒素、それと適度な二酸化炭素のある惑星内か同等の環境がある場所でしか発芽することはない。
「この種が無事に育ちますようにっと」
雛が早速芽が無事に育つようにと祈っているので、無事に育つよう私はこの場所の管理をイリスに任せることにした。
「イリス。今作った空間の鉱脈の成長を管理してほしいんだ。頼めるかな?」
「はい、マスター。ようやく私に接続することができましたね? ともあれ空間の調整はお任せください」
「頼んだよ」
イリスは一応実体も完備されているが基本は【情報生命体】というものに分類される。
汎用人工知能とは違い人間に近しい感覚と考え方をしている、データ化した魂みたいなものだろうか? まぁそんな感じの存在だ。
基本的には赤色の瞳、銀色の髪に白い肌、細めの体の少女という姿をしている。
ちなみに男性型も存在しているので女性型ばかりというわけではない。
贔屓目に見ても美少女ではあるけども。
「イリスちゃ~ん!!」
「雛ちゃん? おはようございます。お元気そうですね」
「うん~! イリスちゃんは相変わらずミステリアス可愛い!」
「ふふ。ありがとうございます」
イリスは姉妹たちと仲が良いので呼び出されれば大抵こんな感じの挨拶を交わしている。
実にほほえましい限りだ。
「あるじ様~! イリスちゃんの呼び出し権限ほしいです~!」
「無理だって。イリスたちの領域に遊びに行けないでしょ? 私は行けるから権限取得できるけど」
「うぅ~!」
と、イリスを見ると雛たちは毎度のごとくこうして権限を欲しがる。
でも残念。彼女たちと契約するには彼女たちの領域に行って直接契約しなければならないのだ。
「ふふ。いつか領域にも遊びに来てくださいね」
イリスはそう口にすると、スッとその場から消えてしまった。
「うぅ~。イリスちゃ~ん……」
「ほら雛? もう行くよ? また呼び出してあげるからさ」
「う~……。は~い……」
しぶしぶ納得してくれた雛の手を引いて、私たちは元の世界へと戻ることにした。
「ふぅ。明るい場所はやっぱりいいね。洞窟内はどうしても暗いし」
若干洞窟に閉塞感を感じていたが、外に出たことで気分はすっきりとしていた。
「あ、マスター。ちょうどいいところに」
外の空気を吸っているとさくらが慌てたようにこっちに駆け寄ってくるのが見えた。
「どうしたんだい? そんなに慌てて」
さくらが慌てるなんて珍しいと思いつつ理由を尋ねると思わぬ回答が返ってきた。
「転移紋を見つけました。場所は少し行った先にある崩れた社の中です」
「なんだって?」
どうやら私たちが探索していない場所に祠が存在していたようだ。
でも建築物ならわかりそうなものなんだけどな……。
「鈴ちゃんが見つけたのですが、樹木の中に彫り込む形で作られた社がありました。外側は隠蔽されているので発見は困難だと思います」
どうやらわざわざ隠蔽までしてその存在を隠していたようだ。
ともあれ、転移紋があるなら次にやるべきことは決まったようなものだ。
「とりあえず案内して」
「わかりました」
「雛菊ちゃんに会えるの?」
「おそらくね」
雛菊のことを気にする雛の頭を軽くなで、手を引いたままさくらに案内されるままに、しばらく森の中を歩く。
周囲にはこれといった特徴はなく目印を付けなければすぐに忘れてしまいそうな場所だった。
そんな森の中の対象の木、そこには今鈴によって注連縄が巻かれていた。
「転移紋のある社と周囲の世界を分けています。余計なものが入れないようにする必要がありますから」
鈴が注連縄を巻き終えると、小さな錫杖を取り出し幹を軽く小突く。
錫杖の遊環がシャンという音を鳴らす。
すると注連縄の巻かれた木が一瞬光を放った。
どうやら注連縄を中心に内と外を分けたようだ。
「よしっと。詠くん。来たね? いよいよだよ」
鈴が一仕事を終えこちらを向く。
その言葉通り、この転移紋の先には雛菊へと続く繋がりがはっきりを見てとれていた。
今までは繋がりがあることはわかってもそれを辿ることはできずにいた。
原因はこの隠蔽にあるようだ。
「じゃあいきますか」
「はい」
「はーい」
「うん」
木の中にある社は日本にもよくあるタイプの小さな小さな社だった。
その構造は崩れつつあり、辛うじて扉が開く程度。
その扉の先に転移紋が刻まれていた。
うっすらと光る転移紋に軽く触れると、軽く押し返すような反発を感じる。
しかしその感覚もすぐになくなり、周囲が真っ暗な通路のような場所へと転送された。
「艦内通路か。直接繋がっているとはね」
艦内通路は金属でできているため、歩くたびにコンコンと音が響く。
「艦内の時間は今まで停止していたようですね。私たちが入った途端に息を吹き返しました。ただ防衛設備以外の時間は停止しているようです」
「防衛設備ねぇ。そういえばここにあった防衛設備ってどんなのだったっけ」
「侵入防止用のレーザーフェンス、ガードロボ、レーザーマシンガンタレットに煙幕タレットですね」
「ほう」
さくらの報告を聞いてふと考える。
今の私はまだアクセス権を獲得していない状態だ。
となると獲得するまでは侵入者の扱いになるというわけ。
うん。これはまずいね。
『許可されていない生命体の侵入を確認。侵入者と認定。排除機構起動開始』
直後目の前の通路の一部にレーザーフェンスが発生。逃げ道を無くすように進行方向をふさいでいる。
「参ったね。さくら、マップはありそう?」
「お待ちください。古いかもしれませんが設計図をダウンロードしました」
「お、ありがたい」
最低でも設計図があればおおよその位置がわかるだろう。
よし、覚悟を決めて逃げ回りながら進める場所を探しますか。
こうして私たちの突破作戦は始まった。




