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そのボケカスは、天使様でした

 やばい奴対処マニュアル。

一、刺激しない。揉めない。

二、その場をすぐに離れる。

三、無理だったら諦める。

  

 やばい奴はこちらの論理が聞かないからやばい奴なのだ。だったらそんな奴とは関りを持たず、距離を置くことこそがベストな選択。

 という訳で俺はそのマニュアルに従い、こいつの言うことを適当に聞いて逃げよう、と思ったのだが――。


「人に頼む量じゃねえだろ……」


 忌むべきはそのゴミの量の多さ。

 これを片付けて退散、というのを簡単に言える量ではない。

 まあ、ゴミの津波が起きてしまうほどだから当然か。足の踏み場がない、なんて生易しいものではなく、生き物が存在出来る余白がない。

 とりあえず俺のやるべきことはゴミを道になるように片付けて移動経路を確保、そして外にあふれ出てしまったゴミを近隣住民の迷惑にならないように回収……って俺の迷惑にはなりすぎてるのだが。

 んで、燃えるゴミの日は明後日だから二日間の間にまとめ上げ、ゴミの保管は俺の家を使うか。明日だったら徹夜確定だし、遠すぎるとゴミを長い間家に置いとかなければいけないため、ゴミの日だけは幸運か。

 と、言いたいところだがこんな奴が隣に引っ越してきた時点で幸運なんてものはない。


 一日で終わる気がしない量のゴミの片づけを平気で押し付けてくることが、SSRやばい奴である証拠。普通の完成や良心が少しでもあるのなら、遠慮くらいあるはずだ。

 しかしやばすぎる奴だからこそ、彼女に従うのが吉。俺の基地を荒すこいつはキチ……やめとこう。


「案外手際がいいじゃない。褒めてあげるわ」


 ぶち殺していいかな……こいつ。

 こいつ殺して俺が捕まるの、どう考えても理不尽だろ。


 こんなのが野放しの世の中が正しいわけがない。再認識したよ、法ってやつのガバさを。

 こんなのが生きていける世の中、どう考えても間違ってる。

 隣に引っ越してきた少女を男子高校生が殺害。これだけ聞いたら血迷ったと思われるだろう。ただ、本人から言わせてもらえば彼女に従っている今の状態こそ血迷っている。


 そうやってニュースに映る自分の姿に思いを馳せていると、ゴミの中から包丁の柄が出てきた。


 ――武器が手に入っちまったな。


 言われた気がした。殺すべきだと。


 危なすぎるし、これのせいでゴミの開拓が慎重にならざるを得ないし。

 ていうかあのゴミの津波で普通に死ぬ危険もあったよな? ゾッとするわ。

 こいつに殺されかけたということで、もう殺人の動機は十分でいいよね。


 そうして俺は覚悟を決め、柄を引っ張り出した瞬間――。


「ええ~~?」


 包丁に、かじった跡があった。人間の歯をかたどり、穴の開いたその包丁。それを見て、俺は騒然とする。


 え? これ……噛んだの? 食ったの??

 怖すぎる……助けて? もう帰りたい。


 殺意と包丁を片隅に置くと、少女の方を見る。

 少女は俺が片付け、広がった空間に座ると、退屈そうにスマートフォンを眺めている。ふてぶてしい限り。が、彼女への鬱憤は出てこない。


 ゴミ屋敷から一転。

 今俺がいる場所は、化け物の巣窟だったのだ。


 俺……食われんのかな。


「よし!! あなたを従者として任命してあげるわ」


 そうして戦々恐々している俺に、また意味わからんこと言い始めた。この化け物。

 従者になるってことは食われないのかな……ってなんで俺喜んでるんだろう。

 まあ、死ぬよりはマシか。


「そのためにもあなたにだけ、正体を明かしてあげる」


絶望して諦めきっていた俺。何度意味不明という言葉を頭に浮かべればいいのか。

 と思ったら、状況も意味不明なことになる。


 彼女の背中から羽が生えてきたのだ。

 そして、どこからともなく頭上に天使の輪が浮かび上がる。  

 俺の目の前にいた頭のおかしい美少女は、天使へと変貌を遂げた。 


「私様は天使、ミカエル。信仰心をもって私様(わたしさま)の世話をしなさい?」


 ボケカスと思ってたら、そいつは天使だった。

 何の冗談なのだろうか。


  ***


  人間じゃない狂い方してると思ったら、人間じゃなかった――ならいいかと言われれば、より悪い。


 こいつが天使? このボケカスが?


「天使の幻想……返してくれよ」


「? どうしたの? 聞こえないんだけど」


 何を隠そう、俺は天使に萌える系オタクだ。

 現実の天使がこんなのなんて、絶対に認めない。


 あんなに憧れた存在とのファーストインプレッションがこれ?

 そんなの、あり得ていいはずがない。


 だから、断じて認めない。


「いいか? 天使っていうのは、おしとやかで、清楚で、優しくなきゃいけないんだよ!! なのになんだお前は!?」


「? 私様にぴったりじゃない。おしとやかも清楚も優しいも、私様のために作られた言葉でしょ? 私様で何が不満なの?」


 お……終わってる。

 自覚なしの悪。故に最悪。


 こんなに堂々と、こんなことを言われるなんて……。

 今日、何回こいつのことを“頭おかしい”って思っただろうか。


 そうやって立ち上がって抗議した俺を、天使は一言で撃沈させた。

 

「ああ……俺はどうしたら」


「大丈夫。道に迷っても私様がついてるから。天使の導きがあなたに正しい道を与えるわ」


 どこまで自覚ないんだこいつは。

 なんで道に迷わせてる奴から導き受けなきゃいけないんだよ。事件の犯人に推理させてるようなもんだぞ?


「疲れてるようね。今日はこのくらいでいいわ。明日もよろしくね」


 今日が終わったことへの安心感と明日があることへの絶望感に同時に襲われる。

 これを優しさと思ってしまったことが、こいつが芯から終わっている証明だ。

 夜逃げも考えたが、なんかこいつ飛んでついてきそうだし、親に迷惑はかけられないし。

 

 ということで、俺の日常がこのボケカスダメ天使によって、騒がしくなった。

 誰か……助けてください。本当に。


見つけていただき、読んでいただきありがとうございます。

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