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 ゆっくりと部屋が明るくなっていく眩しさに目元を歪めたのを、先に上体を起こしていた灯織くんに見られた上笑われてしまった。

 

「プラネタリウムなんて初めて来た」

「どうだった? 正直な感想で」

「星自体に興味が湧いたわけじゃないけど、面白い施設だなと思った」

 

 感想を求められ、馬鹿正直に素直に返したら灯織くんは「悪くないならよかった」と笑った。

 館内を出て、暗くなるまで時間を潰すのと早めの夕食を取る目的で近くのファミレスに入る。

 

「ごめんね、おれの趣味に付き合わせて」

「何度も言うけど気にしなくていいよ。面白かったし、いい経験した」

「そ? そう言ってくれるならありがたいよ。次はおれが付き合うからね」

「交互じゃなくていいだろ、別に」

 

 メニューを広げ、なにを食べるか選びながらそんな話をする。

 今日はたまたま灯織くんから誘われて彼の好きなことに付き合っているけど、行きたいから付き合っているのであってそれはお互い様なんだから順番じゃなくたっていいと返せば灯織くんは嬉しそうに「そっか」と呟いた。

 今日はこのあと、さっき見た施設の屋上で天体観測するイベントに参加する予定だ。

 数日前に灯織くんに「プラネタリウム行かない?」って誘われて彼が天体観測が好きなことを初めて知った。

 

「さて、なにから聞かせてくれるのかな」

「なにから聞きたいんですか」

 

 それぞれ食べたいものを注文し、交代でドリンクバーで飲み物を取ってきて着席するなり灯織くんが両手で頬杖を突き真っ直ぐにオレを見やる。

 勿論話そうとは思っていたが向こうから切り出されると逆に話しづらい。

 眉根を寄せると灯織くんは「ごめんよ」と言って眼鏡の奥の瞳を細めた。

 

「この表現で合ってるのかわからないけど」

「はいはい」

「朧と付き合うことになりました」

 

 妖を相手にしての適切な表現ではないと思いつつ、遠くない言葉で伝えたら灯織くんは小さく「うん」と頷いた。

 

「よかった。おめでとう」

「あ、りがとう。ごめん……」

「なんで充くんが謝るの?」

 

 正直どこかで、よかったもおめでとうも灯織くんから言ってもらえるとは思っていなかった。責められるとまではいかないが、受け入れてもらえるとは思っていなくて。

 つい謝罪の言葉が口を衝いてしまい、灯織くんは首を傾げる。

 

「反対していたのも、心配してくれているのも知ってるから」

 

 彼は、人と妖の間に生まれたハーフだ。故にその苦労をオレなんかよりもよっぽど身を以て知っている。

 そのことで縁を切ろうとしたこともあるくらいだ。

 あの時は彼が折れてくれたし、応援すると言ってくれたのも嘘ではないと理解している。でも彼の複雑な気持ちが拭えたわけではないしどころか更に複雑にしてしまっているだろう。

 友達だからこそと想ってくれているのも知っているからだと呟けば、灯織くんは「そうだね」と否定はしなかったがその声は穏やかだった。

 

「両手を叩いて、立ち上がって泣いておめでとうとは言えない。賛成できないのも心配しているのも本当。でもおれはきみのこと友達だと思ってる。きみの想いが報われたことは素直に嬉しいよ」

 

 複雑だけれど嘘は言っていないと言ってくれる人に、オレは本当に一方的な感情をぶつけているなと思い申し訳なさばかりが募る。

 

「そんな顔しないでよ。これはおれの勝手でもあるんだから」

「でも、その……お礼も違うし……」

 

 友達だと言ってくれるその優しさに付け込んでいる負い目はどうしても消えないんだと、そうだって思っていること自体も申し訳ないと視線を逸らせば灯織くんは眉尻を下げた。

 

「ならおれとの付き合いが続く限り、友達でいてよ。それでたくさん遊びに行こう」

「ええ?」

「だっておれは視えるからね。他の人と同じように縁を切る必要ないもの」

「ははっ、そうか。そうか、じゃあ遊びに行こう。たくさん」

 

 朧と付き合うということがどういうことかを知っている灯織くんにそれを言われてしまっては、断る理由もないと返せば彼は目尻を吊り上げて少し悪戯な笑みを浮かべた。

 

「オレ、両親が思い通りにならないとすぐにカッとなるタイプで。体裁を気にするから手こそ出されたことなかったけど」

「うん?」

「正しいとか理屈とか全無視で、とにかく乱暴な言葉で早口で捲し立てて相手に反論する隙を与えず黙らせるみたいなやつ」

「ああ……」

 

 そうこうしている内に食事が運ばれてきたので、二人で手を合わせて食べ進めつつ話始めるも脈絡がないせいか灯織くんが返事はしてくれているがその頭上に疑問符が浮かんでいる。

 

「オレ、今まで記憶が抜けてたところがあったから比較的抑えられてただけで。感情爆発しやすいタイプだったらどうしようって不安で……」

「ああー……」

「……カッとなると手に負えない感じあるでしょ?」

 

 灯織くんの返答が途端に歯切れが悪くなったので、思い当たる節あるよねと問いかけたら申し訳なさそうにしながらも頷かれた。

 自覚があるので、肯定されること自体はさほどショックではない。

 

「今まで見せてきたものと違う自分だから、好いてもらえるかなってこと?」

「それもあるけど。朧のこと縛り付けてしまわないかが不安だ。愛してるからって自分の好き勝手にしていいわけじゃないのに、望んでしまいそうで」

 

 自分の想いを知っているからと、好かれているからと自分の所有物のように扱っていいわけはないと言えば灯織くんは首を傾ける。

 

「望んでいいかって聞いたらいいんじゃない?」

「ええ?」

「そうだって不安に思ってることを朧さんに聞いたらいいよ」

「身も蓋もない……」

「きみの話を聞いてる限り、ちゃんと話を聞いて自分の答えをくれる人だと思うけど。あ、人ではないか」

 

 折角そういう関係になれたのにこれから付き合っていくに当たって不安要素があるんですなんて話、するのも嫌だしされる方もいい気はしなくないかとぼやくオレに「その程度の人なの?」と返され、一瞬にして目が覚める。

 

「おれだって普通の人だったら言わないけどね。きみは友達だし」

「灯織くん」

「なにより相手は妖だから、人の子の物差しで測ったところでだよ」

「ああー……」

 

 恋愛に対していい感情を持っていない灯織くんに特別だからと言われ感動したが、道理が違う相手に遠慮したところでと半ば呆れたように吐き捨てられ納得せざるを得ない。

 

「それに、朧さんだって同じ覚悟をしているなら同じくらい不安だろう。黙っているのは不誠実だ」

「灯織くん本当ズケズケ言ってくれるから助かるよ。オレ本当になんにもわかってない……」

「充くんが大事にしたいって思っているのはおれでもわかる。きみは自分の性質を恐れて『大事だからって好き勝手にしていいわけじゃない』と言ったけど、自覚があるのとないのとでは全然違うよ」

 

 浮ついている自覚はあったが、普通の恋愛ではないのだからそれだけではダメだと灯織くんに叱咤してもらうと背筋が伸びる思いだ。

 それでいてちゃんと寄り添ってくれる言葉もかけてくれる彼のこと、一度は縁を切ったって構わないと思った自分を蹴り飛ばしてやりたい。

 感情が溢れないように引いていた一線を外した瞬間、大事に想われているのだと伝わってくる。オレはこの感覚を知っている。

 

「話してみるよ、ちゃんと」

「それがいいと思うよ」

 

 見栄張ったって長続きしない。そもそもオレが情けないことなんて朧どころか社のみんなには周知だし。

 それに灯織くんが言ってくれたようにちゃんと伝えなければいけないことを隠しているのは不誠実だ。

 早い内に向き合うよと告げれば灯織くんも深く頷いた。

 

「なら近い内に社に行くよね。伝言頼まれてくれない?」

「うん、いいよ」

「寧緒のことなんだけど」

「寧緒さんの」

 

 朧とのことを話している内に食事を終え、飲み物のお代わりを取ってきて落ち着いたところに灯織くんが思い出したように出した名前に、思わず身構えてしまう。

 嫌な予感がしたにしても弟である灯織くんの前で出す態度ではなかったと謝ったが彼は「察しがいいね」と笑った。

 

「あいつ、もしかしたらその内また社に行くかもしれない」

「ええ……?」

「まあ遊羅さんとの約束に寧緒は納得したわけじゃないからな」

 

 前回、あれだけやり合った上でもう関わらないって話に落ち着かなかったっけと思ったが、確かに寧緒さんは納得してたわけじゃない。

 灯織くんが言うにはそれでも院瀬見として約束してしまったから寧緒さんが行ったら約束を違えることになってしまうと呟いた。

 

 彼の話を聞くと、院瀬見の家には【白檀】という名の非凡な才を持った祓い屋がいて、一族に長いこと掬っていた腐敗を根絶させたという書物が残っているらしい。

 その者はたった一人、たった一晩で貪汚した考えの汚濁した者共の首を刎ね、道徳心に反した書物や呪具が保管されていた蔵を燃やし尽くしたと。

 その者が変えてくれた神聖で崇高な院瀬見の血を穢してはならないというのは長く伝わっていて、寧緒さんが所謂クーデターを起こしたのもそれを倣ってのことだったらしい。

 だがその当人から受けた印象では「どうにも逆のことが起こっていたようだ」と灯織くんは言った。

 確かにダンくんがそういうことするタイプとは思えないし「目論んでた通りに自分のことが残っていたのがわかったよ」とも吐き捨てていたからつまりはそういうことだろうな。

 寧緒さんのような人の考えに抗った結果がダンくんの行動なのに、それに憧れて行動した寧緒さんは彼の目論見をひっくり返したことになりそれは彼のプライドを深く傷付けただろうと思う。

 そういうことかと視線で訴えれば、察したように灯織くんは深く深く頷いた。

 

「非凡な才、っていうのは事実なんだろうな。オレは寧緒にあの術を使える存在を初めて見た」

「そうでなきゃ多少盛ってるにしてもたった一人、一晩でっていうのは難しいよね」

「いやあ、あの力を目の当たりにすると本当のことだと思う。今より考えが古く堅苦しい時代で、分家に生まれたあの人がそれだけの力を持っていたというのは申し訳ないけど不幸だと思わざるを得ないよ」

 

 息苦しいどころの話ではなかったのではないか、と零す灯織くんにだからダンくんは灯織くんに同情したのかな、なんて思った。

 まあお互いにそんなことされたってって思っていそうだけど。

 

「なんにせよ憧れた存在が自分の考えを否定している上、自分より強く、妖に堕ちまだ生きているっていうのは寧緒には許せない」

「だからダンくんを目当てに社に来るってことか」

「その隣に遊羅さんがいるなら尚のこと寧緒が社に入れるとは思わないけど、前も言ったけどそういう時の寧緒はなにをしでかすかわからない」

 

 自分の口で言うのも、想像するのすら嫌だというのが言葉の端々から伝わってくる。

 ついには頭を抱えてしまった灯織くんにかける言葉が思い浮かばなくて「なにか甘いもの食べる?」って聞いたら顔を上げて「食べる」と頷いた。

 

「寧緒が『勝ればいいだけだ』って言ってたのが気にかかる。絶対、あの二人に迷惑かけることになると思う。意味ないと思うけどおれが謝ってたって伝えておいて」

「わかった。灯織くんの名誉はオレが守る」

「必要とあらばいくらでも菓子折り持っていくから頼んだよ」

 

 関わらないと言った以上、自分では直接頭を下げには行けないからと零す灯織くんに拳を握って見せると灯織くんもそれを真似て返してくれた。

 本当は、灯織くんのことあれだけ蔑ろにするような寧緒さんのことそこまで考えなくたっていいんじゃないかと思ってしまうのだけど自分の周りの人間が自分と同じように容易く縁を切れると、切ろうと考えるわけではないというのも理解している。

 だから少しでも灯織くんの担ぐ荷が軽くなるように手伝いをしようと思う。オレに出来るのはそれくらいだから。

 

 その後、二人してデザートまでしっかりと食べてから天体観測の会場へと向かう。

 数時間前にプラネタリウムを観た時と同じ解説員さんによる丁寧な説明を受けながら、本物の夜空に浮かぶ星々を眺める。

 きっと地元で見上げた方が空気も澄んでいてずっと綺麗に見えるのだろうが、初めてちゃんと見上げた星空はとてもとても美しかった。

 

「今日は付き合ってくれてありがとう」

「いいえ、楽しかったよ。またいつでも誘って」

「もちろん。充くんもいつでも声かけてね」

 

 イベントが終わり、駅に着く頃にはなんだかんだで21時も過ぎようとしていた。

 用事が出来てしまったと言う灯織くんとはここでお別れだ。

 互いにまたねと軽く手を振り合って、オレは帰路に就く人々の流れに従ってホームへと向かう。

 そのまま電車に揺られ、家の最寄で下りた時灯織くんから着信があったのに気付いて慌てて折り返す。

 

「灯織くん? ごめん、気付かなくて」

「よかった! 繋がって! 今どこ?」

「最寄りの駅着いたところだけど。どうかした?」

 

 数回のコールですぐに繋がったと思ったら酷く取り乱した声が聞こえて何事かと返すと「ごめん!」という謝罪が耳に届いた。

 

「家がごたごたしてる間に、捕らえてた蜃が逃げ出した。多分きみのところか、社に向かうと思う。今からおれがそっちに向かうから出来れば明るいところにいて!」

「え、あ」

 

 狼狽えっぷりから相当のことが起きているのだと理解し、わかったと答えようとしたが突然電話が切れ辺りの電気が消えた。

 背後にある気配に警戒しつつ振り向くとそこにいたのは蜃で、彼に気付くとオレたち二人を取り囲むようにして霞が広がっていく。

 

「充」

 

 そこに立っている蜃の頭上には帽子はなく、羽織っていたマントもボロボロになり土と泥で汚れていた。

 オレの名を呼び、長い前髪の隙間から真っ直ぐに見つめられても今は怖いと思わない。

 オレは自分の中にある寂しさを思い出し、そしてその寂しさとは決別したからだ。

 

「充、どうして。約束をしたのに。お前から寂しさを忘れさせてやったのに。どうしてあんなやつら、あんなやつに。どうして、ボクはいらなかったの」

 

 社に現れた時とは打って変わって低く落ち込んだ声でぶつぶつと呟く蜃に、首を振って返すが彼は止まらない。

 

「ボクと共に在るなら深海で妖とも人の子ともなんのしがらみに囚われることなく寂しさとは無縁に生きていける。それを望んでいただろう」

 

 どうして、どうしてと訴える眼差しは幼い子どものようだ。

 伸びてくる手を取って、両手で包み込むと驚いたからか蜃の口が静かに閉ざされていく。

 

「貴方が預かってくれていた寂しさを思い出した今だからこそ気付けた。今はもう、どうしようもない寂しさを『誰か』に埋めてもらおうとは思わない。『誰でもいい』とも思わない」

 

 自暴自棄ではなにも埋められないと気付いたと言葉にする度、オレではなく蜃の瞳に浮かぶ寂しさが強くなっていく。

 嗚呼、今ならわかるオレがこの妖に寂しさを託したのはきっと。彼にも深い寂しさがあったからだ。

 

「寂しさは決して消えない。寂しさが消えれば、他の感情がその代わりになろうとして【自分】なのに違和感が生じる。少しずつ違っていく」

 

 あった感情が突然欠けるということは、歪みが生まれるのと同義だと告げるが反応はない。

 変化はかなり乏しいが、心底理解できない話をされているという印象を受ける。

 

「それに今ある寂しさは、朧や灯織くん、遊羅くんやダンくんを好きだって思うオレの心が勝手に埋めている。じいちゃんの時も同じだったんだ。じいちゃんを好きだったオレの心が寂しさを勝手に埋めてた」

 

 寂しさを強く感じる感情が戻ってきて最初は混乱し、戸惑い、錯乱状態にも陥ったが落ち着いた今だからこそ理解出来たものもあったと告げるものの伝わっていないのが首を傾げる仕草でわかる。

 今こんなこと思うのは違うんだろうが、そういうきょとんとした顔も出来るんだな。

 

「想われたい気持ちよりも想う気持ちの方がオレを寂しさから救い上げると知ったからもうオレはあの寂しさには捕まらない」

 

 忘れていた寂しさが思い出させてくれたことがあり、思い出すまでの出逢いがこうしてオレを救ってくれたのと告げて蜃の手を握る自分の手にぎゅ、と力を込める。

 

「それでもあの時、どうしようもなく寂しかったのは本当で。あの苦しみから逃してくれたアナタには感謝している」

「しゆう」

 

 逃げ出そうとした弱い心を救ってくれたのは事実で、きっとあの時彼が救ってくれなければ逃げ道など思い浮かばずオレは壊れていたかもしれない。

 だからそれには素直に感謝しているのだと伝えたら、蜃がもぞもぞと動き出し手を握り返そうとしてきたのでオレは首を振って手を離す。

 

「それでも、オレはアナタの元には行かない。アナタと共に在ることは出来ない。朧と出逢って、朧を好きになって、オレは彼でなくては駄目になってしまった。ごめんなさい」

 

 何故、と問う瞳に今自分の心は別の人の元にあるからと返せば蜃はボロボロと大粒の涙を溢れさせ、けれど拭うこともせずにオレを真っ直ぐに見つめる。

 

「嗚呼、充。お前も自分で呪いを解いてボクを見捨てるんだな」

 

 深海のように深い色の目は逸れることなくオレに向いているはずなのに、捉えているのはオレだけではない。

 それで確信する。

 蜃も、オレと同じだったんだ。その深い深い寂しさを埋めたかったんだ。

 その気持ちがわかるから彼はオレを見つけ、オレは彼を拒めなかった。

 今だって、理解出来ると頷くのは容易い。でも、しない。

 わかっている、本当に自分勝手だ。蜃に悪意などないのに。オレは助けようと伸ばされた手を、一度取ったのに自ら振り払うのだ。

 ごめん、ともう一度謝罪をしようとしたのを遮ったのは霞を断ち切った棍棒だった。

 

「あ、いきさん!」

 

 風を切る軽快な音、そして地面に重いものがぶつかってはめり込む鈍い音が耳に届くと同時に霞が一気に晴れていきそこにいたのは愛司さんだった。

 想定外の人物がそこにいたのに驚いて上げたオレの声を聞いて蜃が逃げようとしたが、愛司さんは再び棘の付いた棍棒の、棘の部分じゃないところで殴って気絶させるとぐったりとした蜃を軽々と肩に担ぐ。

 

「私の部下だ。此奴はこちらで回収する」

 

 ダンくんと激しい言い合いになった時に「この件には関わらない」と告げて以降、本当に姿を見なかったからビックリしたけど愛司さんは蜃を連れて行くことだけを告げるとそのままこの場から去って行った。

 霞が晴れ、辺りには普通に街灯が点いていたが恐らく蜃が消えたように見せていたのだろう。彼はそういう力を持つ妖だ。

 それから本当にすぐ、灯織くんが現れてオレの元に駆け寄ってくるので蜃は遊羅くんの上司に当たる人が連れて帰ったと告げたら完全に逃がしてしまう結果となったことに頭を抱えていたけど社やオレにこれ以上の被害が及ばないならいいと諦めていた。

 本来なら残った瘴気をちゃんと祓った方がいいが、下手に自分がやるより社で遊羅くんかダンくんにしてもらった方がいいと言われオレはその優しさに甘えることにして社へと駆ける。

 そんなに朧に逢いたいって顔をしていたかなぁと自分の頬に触れてみたが、していたかもしれないな。

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