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「人の道理を外れる、とか。戻れなくなる、とか。最近よく言われるんだけどどういうことなのか……朧は知ってる?」

 

 朧とのデートの最中、愛司さんと出逢って言われた「妖と馴染み過ぎたせい」「馴染み過ぎるといづれ戻れなくなるからな」という言葉。

 オレはそれを漠然と、人と人が仲良くなるような感覚で受け止めていた。

 だがそれはあくまでオレが言葉から受け取った印象であり、少し前に祓い屋である灯織くんからも苦言を呈されたことも考えてまったく違うものなのだろう。

 朧を好きだと言ったのなら、彼がその好意を信じたいと思ってくれているならオレは知らなければならないと、朧に問えば彼は「怖気づいた?」と悪戯に笑った。

 

「まさか。ただ知ろうともしないことの方が上っ面に思える」

「そういうところある」

 

 真剣なので目を逸らさずに告げたのだけれど、何故か肩を竦められてしまった。

 そういうところ、ってたまに言われるけどもしかしてこれって「面倒くさい」とそんなに変わらない? 最近納得なのか諦めなのか判断付けられなくなってきたな。

 

「しゆ、さっきアイキさんに『戻れなくなる』って言われた時『なにに』って聞き返してたけど」

「うん。なんか愛司さん不思議な反応したよな」

「それは『どこに』って返されると思ったからだろ」

 

 考えが少しずれそうになったところで朧がさらりと本題へ入る。

 それにその時の状況を思い返すと、驚いて笑って罵倒されたんだよな。あれよくわからなかったと呟けばため息を吐かれた。

 その言葉で愛司さんがオレに「頭がおかしい」と言った理由を理解したが、想像と違うものが返ってきたくらいであの人があんな不思議な反応をするだろうか。

 彼はどこに、ともなにに、とも言わなかったのだからオレが「なにに」って言ったっておかしいことはなにもないように思うが。

 と、ぐるぐると思案をしていると朧が真摯な眼差しでオレを見ていることに気付く。

 

「アイキさんは知らないからな。しゆが実家に帰りたくないこと」

「あ、ああ……。確かに」

 

 一瞬、妙な間があったが朧の声色が変わったせいで伝わってきてしまった。言葉を選んだんだって。

 でもそれで十二分だ。知っていようがいまいが関係ない。

 オレのあんなたった一言で二人には【オレには帰りたい場所なんてない】と思っていることが伝わってしまったんだって。

 前もアイキさんに喧嘩売った時、朧に「死に場所を探してるのか」って聞かれたけどそれとも同じだ。

 恐らく危うい、と思わせた。

 思い当たることがありすぎて勝手に右手が口を覆い隠す。なにかを隠したいわけでも、黙りたいわけでもないのに。

 そんなオレの反応を見て、朧は冷静な声で「続けるけど」と零すのでオレは無言で頷いた。

 

「しゆの答えはアイキさんにとって想定外だったんだろうけど、答えは同じだよ。【人の子】に戻れなくなる」

 

 本来なら複数回行われるはずの問答が一度で終わってしまったことだと、なんてことないように朧は呟き本来あの時愛司さんがくれたのだろう答えを教えてくれた。

 否、例えばあの時オレが「どこに?」って返したとしてもあの人は満足そうに笑って話は終わっていたかもしれない。

 話の腰を折るのでそう思ったことは心の内に秘めておく。

 なにも言わず黙ったままのオレに、朧は返事も聞かず話を続けた。

 

 当然だが一度妖になったら人の子には戻れない。

 人の子が妖になるにはその相手の眷属として契りを交わす必要があるが、人の子が妖に堕ちるのには必要がない。

 妖の持つ瘴気に中てられ続けることで人は妖に堕ちる。

 だが妖に堕ちた人の子は完全な妖ではなく、生粋の妖からすると人の子でも妖でもないどっちつかずの存在とされる。

 オレは遊羅くんとの仮契約の状態なので完全に堕ちることはないが瘴気は確実に溜まっていて、そもそも愛司さんが言いたかったのはそれが濃くなっていることだったらしい。

 そして契りを交わしたとてそれは永久ではない上、切ることが出来るのは死別などではなく妖側だけ。

 しかもそれをもたらすのが可能なのは死別などではなく、妖側だけ。

 つまり、燃え上がった恋情から我に返ったり、好奇心や人の奴隷が欲しくて拾ったが飽きたなんて理由で容易く契りを切られる。

 他の者と再契約も可能ではあるが猶予は少なく、じきに人の子としても妖としても生きられなくなる。

 

 そう淡々と話す朧の声に、灯織くんが「人の道を外れ、戻れぬことを後悔した時にはすべてが遅い」と言っていたのを思い出した。

 ゆで卵がどれだけ冷やしたところで生卵に戻れないように、人から妖になるという行為は不可逆的なのだ。

 ああ、あの時灯織くんは「人同士の恋愛で起こる程度のことと同じわけがない」とも言っていたが今になって初めて彼の言葉が正しかったのだと理解できる。

 

「どこへも戻れぬと気付いた時には人の時間は何十年何百年と過ぎている」

 

 頭を抱え、俯いて思考を巡らせているオレの耳に朧の声が届く。

 その言葉に理解が追い付いた瞬間、悪寒と恐怖が全身をとんでもない速度で駆け巡っていった。

 想像も出来ぬ世界の話なのに、目の前が真っ暗になる感覚がしてその状況に陥ってないのにうまく呼吸ができない。

 だがこれはオレの想像でしかない。実際に降りかかる絶望は今感じたものとは比べ物にならないだろう。

 人の道理を外れるということの恐ろしさの片鱗に触れ、言葉が何一つ出て来ず首を振るだけのオレに朧は呆れるでもなく緩やかに首を傾げた。

 

「人の子としても妖としても生きられなくなったら、なにになると思う? しゆ」

 

 そうだと問うのはオレの中に答えがあるのを知っているからだろう。

 それだけでヒントには十二分だった。奥歯が鳴りそうになる恐怖に堪えながら、オレはゆっくりと口を開く。

 

「澱……」

「うん」

 

 澱は、堕ちたものの総称だとダンくんは言ってた。だからそのすべてが人であったとは限らない。

 それでも自分が恐れたものになる可能性があるという事実に、今まで積み上げたものが揺らいだのがわかった。

 

「まあ妖側も一族や徒党から爪弾きにされるのなんて可愛いもんだから、人の子と共になることは自分だけではなく相手も不幸になるという覚悟がいるんだけどね」

 

 あからさまに反応が鈍り、俯きが深くなり、言葉を失っているオレを見かねて朧が慰めるような言葉をかけてくれる。

 一方的とはいえ、妖も失うものがないわけではないと知って少しだけ安堵し、落ち着いてくる。

 

「でもその不幸も、オレなんかの想像の範囲を容易く超えるのだろうな」

 

 容易でないことなんて、端からわかっていた。だがオレの考えはあまりに甘かったのだ。

 皆がその道が険しいとくり返していたのに、オレは何一つ理解しちゃいなかった。怒りに触れて当然だ。

 知ったからってオレがそれを反省するだけなんだけれども。オレが朧を好きなことには変わりがないからな。

 自己嫌悪に吐いたため息を聞いて朧がゆるりと頭を傾けた。

 答えがないことが肯定だと察しが付き、敢えてなにも言わずにいてくれているのが優しさだとわかるからオレはそれに情けなくへらりと笑って返すしかできない。

 

「嫌な思いするってわかってたのにオレに付き合ってくれてたんだな」

 

 理由はなんにせよ、人の子をこうやって社の外に連れて歩いていることも、そもそも社に入れるようにしているのも体裁が悪くなるって朧も、遊羅くんも知っていたんだろうに。

 わかっていてオレの身勝手を許してくれていたんだと呟けば朧は軽く伸びをしてから頬杖を突き、視線を店の外へと向けた。

 

「まあでもそれはオレも遊羅もどこからも弾かれた者だから、他の妖ほど気になることじゃなかった」

 

 自分たちはそれ以前にと零す朧に、だからってよくなるわけじゃないんだからと思ったが他人にそういうものだと思われてることも、それを理解し受け入れることも。

 悲しいけれどその楽さに身を置く理由はオレもわかるのでなにも言えなくなる。

 

「正直、もっと早く飽きると思ってたし」

「せめて諦めるって言ってよ……」

 

 外に向いていた視線がオレへと戻り、その眼差しに「存外しつこい」というのが浮かんでいて揶揄する朧にオレは形ばかりの文句を返すのが精一杯だ。

 

「まあ、前も言ったけどこうなるより先にしゆが諦めてたら『なんだ』って思うだけだったからな」

「今は?」

「うーん、今もまだ『そうか』で終わると思う」

 

 朧の言う「そうか」というのはきっと落胆であるのだが、もういちいち人の為に傷付いてやる心もないってことなんだろうな。ちょっと嫌なことあったな、くらいの感覚。

 でも「だった」と過去形になっているのが気になって、彼にその意図はなかったのかもしれないが一応聞いてみると悩んだ素振りをしつつ変わらないと言われてしまった。

 関係が以前より濃くなっているとしても、オレは白が赤になるくらいだったとしても朧からすれば白が薄いピンクくらいだったら認識も違うもんなぁ。

 

「でも今までとは違う。しゆはどこかに必ず現実の一線を引くと知っているから『そうか』で終わるけど、意味が違うものになる気がする」

 

 頷いて話が終わるかと思ったが、そうではなかった。

 言葉は同じでも持つ意味が変わると呟く朧の声に、歓喜に心臓がうるさいくらいに鳴り響く。

 大太鼓がドコドコ音を鳴らしながら全身を巡っていくような感覚に、体が熱を上げた。

 

「真っ赤。え、なに。熱? 泣いてる?」

「う、嬉しくて」

「嬉しい?」

 

 熱いことはわかったが、真っ赤なのは自覚がなかった。でも朧の目にもわかるほどオレは赤いらしい。

 涙は溢れていないものの、目の奥は痛み視界は歪んでいるので今にも泣きそうってやつだ。

 それが喜びからくるんだと告げたがオレが自分の言葉のどこでそう思ったのか理解できない朧は疑問符を浮かべ、半分呆れたような表情で首を捻った。

 

「人の道理を外れる覚悟があるかと今聞かれても、未来のことはなにひとつわからない。やっぱりまだ想像するのも難しい」

 

 話を聞いて今のことも、これからのことも今までよりずっと真剣に考えなくてはいけないのだろう。

 今のこうした答えだって期限が決まっていないからこそ出せる甘いものだってわかってる。

 

「でも今、朧といたい。朧が好きだから」

 

 それでも今のオレが出せる答えが辿り着くところはこれたった一つで、申し訳なくなる。

 朧の目はオレを見ているが黙ったままなので不安が過ぎって「ごめん」と言ったらすぐさま首を振られた。

 そして朧は少しだけ悩んだ後、ゆっくりと口を開く。

 

「そういう言葉を聞きたかったのかもね、あの時のオレは」

 

 あの時の、というのはオレが社への出禁のきっかけとなった喧嘩をした時のことだろう。

 だが朧は言葉自体のことを言っているのではない。欲しい言葉があったとかでないのはあの時もわかっていた。

 だからきっと、オレが朧に対して好意を抱いているということに対しての素直なオレの気持ちが知りたかったんだ。それはオレのことを、言葉を信じたいと思い始めてくれていたからだろう。

 オレは恐らく特別なんだろうが持つ意味はイレギュラーに近い。好意でないのに、それに近い特別があるわけでもないのに、そんなこと望むなんで狡いって、勝手だって思うのに。

 朧の言葉は不思議だ。朧を好きなオレの心は不思議だ。

 それをどうしようもなく嬉しく思ってしまう、彼をもっと好きになっていく。

 

「好きだなぁ……」

「しゆのそれ、いつまで経ってもわからない」

 

 いい意味だけを持って口にしたわけではないのに何故好感度が上がるのか謎だ、と吐き捨てられたがオレにもわからないよ。

 わかるのはオレがどんどん朧を好きになっているということだけ。

 好きなのに、好きだって思うのに。

 

 思う度、なにか軽いものが落ちていく感覚がするのはどうしてなのだろう。

 

 *

 

 話し込んでいる内に外を歩く妖たちの様子が変わっているのに気付き、今日はちゃんと夜までに朧を社へ帰さねばとオレたちは闇市を後にし、真っ直ぐに社へと戻った。

 

「ただいま」

「戻りました」

「今回は無事に戻れたようでなによりだな」

 

 勝手口から居間へと向かうとそこには本当に愛司さんがいた。

 オレの姿を見て開口一番がそれなのだから悪趣味な人だな。この場にいる愛司さん以外の全員が今「お前が言うな」って顔をしているわけだが、当然伝わるわけもない。

 でもこの人さっき「ダンくんに逢いに行く」って言って今こうして社にいるんだから、もしかして本当にダンくんに逢いに来てたのか?

 オレはずっと祓い屋の気配のするオレを見張りに来てたのかと思ってたけど……思い違いをしていたのかもしれない。

 本心を探るようにじ、と床に座っている彼を見下ろしていると不意に口元に弧が描かれた。

 

「邪魔虫が来たから帰るか」

「最初からお前が邪魔なんだろうがよ」

 

 突然のことに驚いているオレに愛司さんは悪態を吐き、勢いよく立ち上がる。それに遊羅くんがなに言ってんだと吐き捨てたが首を傾げて知らん顔されてた。

 

「ああそうだ。先程聞き忘れたんだが、お前遊羅に呪いを解いてもらってから他の妖にちょっかいかけられているか?」

「今のところアナタくらいですけど」

「あっははは! 猪口才な!」

 

 居間を出ようとした彼とすれ違い間際、思い出したように問われそんなことしてきたの後にも先にも愛司さんだけだと返せばまた笑い飛ばされたけど、彼の手が自分の口元を覆った瞬間表情から軽薄さが一瞬にして消える。

 

「よくない気がすんだよナァ」

 

 手の隙間から零れ落ちた声は低く真剣なものだったが、口元は歪んでいる……というか、笑っているようにも見えた。

 オレに悪意を持って浮かんだものではなさそうだが、なんというか面白いことが起きそうだなぁとワクワクしているように感じる。

 でも彼の差す言葉の意味がわからず疑問符を浮かべるも、愛司さんはそれを無視してひらりと手を振って去って行ってしまった。

 

「よくないって言われたって……」

 

 視えるだけのオレにそんなこと言い残されたってどうしろと言うのだ。自滅したら彼は面白いのかもしれないが。

 モヤモヤと不安と不愉快さが残り、顔を顰めたオレにダンくんが「気にするなよ」と声をかけてくれる。

 

「やっぱり揶揄されただけなのかな」

「いや、アイキの予感は比較的当たる」

 

 さっき煽ったから仕返しなのかもとぼやくオレにダンくんは即答し、首を振った。慰めてくれたんじゃないのか。

 ならどうしたらと無言でダンくんに訴えるも、彼は真っ直ぐにオレを見上げる。なんの不安があるんだと言いたそうに。

 

「忘れるなよしゆ、お前の呪いを解いたのは遊羅だ」

 

 不安にならないでいい理由なんてたった一つだろうと平然と言うダンくんに、ドッと心臓が跳ねる。

 この純度100パーセントの信頼に中てられるなって方が無理じゃない!? 

 さっきまで愛司さんがいたせいで損ねられてた遊羅くんの機嫌は一瞬にしてよくなっているし、朧はいつものことだとなんてことない顔してるし、ダンくんさっさと湯飲み片付けに台所に行っちゃったけど。

 状況の理解が追い付かずにいるオレに朧が酷く冷静に、それでいて呆れた声で「いい加減に慣れたら?」と吐き捨てた。

 

 

 その後オレは混乱と火照りを落ち着けるべく家へと帰ることにして、遊羅くんとダンくんに一言かけてから社を後にした。

 

「見送りなんていいのに」

 

 朧にも帰るよ、と伝えたら「そこまで」とだけ言って何故か鳥居の傍まで付いてくるので潜る前に一度足を止めてよかったのにと告げれば朧は一瞬眉根を寄せたが、すぐに直しオレを見上げてくる。

 

「今日は夜までに社に帰してくれたから特別」

「ははっ、ありがとう」

 

 なんとなく本当に言いたいことは違うように感じたけど、朧が自分で決めてやめたのならそれを聞き出そうとするのは野暮だろう。

 やっぱり言いたそうにしているなら別だが、そうではなさそうだし。

 なので素直にその厚意に甘えて、へらりと笑って返すと朧は小さく頷いた。

 

「朧、ひとつだけいい?」

「なに?」

「抱き締めてもいい?」

 

 そのまま踵を返してしまうのも、返されてしまうのも寂しくてできずダメ元で聞いたら朧のオレを見る目が丸くなった。

 驚いているのもあるけど、なんていうか「しゆってそういうこと言うんだ」って思ってるのが伝わってくる。

 意識されてないのは知ってたけどそういう欲求がないって思われてるのも一因だったのかもな。

 嫌悪されてないからってそういうの出したら気持ち悪いだろうから出来ればあまりしたくないけど。

 反応がないので「朧」ともう一度名前を呼んだら我に返ったのか、朧は冷静な声で「それくらいなら」と首を縦に振った。

 

「いいの?」

「オレからはしないけど」

「いい、いい。充分」

 

 嫌じゃないかともう一度確認したら、する意味がないから自分はしないがと言われたが構わない。というかハッキリ意思表示してくれるのオレも安心する。だって【嫌じゃない】のラインがわかるから。

 オレはこれから抱き締めると伝えるように両腕を広げてから、一歩分の距離を縮め朧の体を抱き締める。

 人が持つ熱とは違うもののそこには確かに誰かがいると感じるには十二分な温もりがあった。

 女性のように柔らかいわけではない、でも筋肉質なのに硬さはなく柔らかいと感じるのは朧の元が動物だからなのだろうか。

 加減もわからないし、あまり強くしてもと思う気持ちはあるのに欲求に負けて僅かに力を強めたが朧は痛がりも嫌がりもしなかった。

 勿論、抱き締め返したりもしてこない。

 

「また逢いに来るから。それで、またデートもしよう」

「うん」

 

 温もりに広がる安堵は確かにあるのに、同時に離したくないという気持ちも膨らんでいく。

 だが別れを惜しんでいたって仕方がないと、もう一度だけぎゅっと強めに抱き締めてから腕を解き再び一歩分距離を取った。

 

「今日も好きだよ、朧。またね」

「うん。またね、しゆ」

 

 手を振って別れを告げるオレを真似る朧に、胸の奥が締め付けられる。

 帰りたくない気持ちをなんとか深くに押し込んで、オレは石鳥居を潜り抜けアパートまでの帰路を軽く駆けた。

 

 道中でふと、オレはあの温もりを知っている気がしたが前から歩いてくる人とぶつからないように身を躱そうとする方に気を取られ、確かに記憶に引っ掛かったことがあったのに思い出せなくなってしまった。

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