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 レポートやフィールドワークが続いた上に、風邪までひいてしまい最初に遊羅くんに出禁を言い渡されてからだいぶ日が経ってしまった。

 なんやかんやありつつ、灯織くんとは現状維持という和解をしたのでその報告も兼ねて社へと来たのだが不安ばかりが募る。

 あの弾く術がかなり痛いので若干のトラウマになっているともいえる。

 灯織くんが最初にオレにかけたのは社の場所を探る為だったから強くなかったらしいがあれだってそれなりに痛かったし、遊羅くんから拒絶されて弾かれた時はアドレナリン出てたから耐えられたけどかなり痛かった。

 今後もうビリビリ椅子とか無理かもしれないと余計なことまで思考を巡らせているとそんなオレを見て隣で灯織くんが笑った。

 

「緊張してるの?」

「それもある」

 

 そもそも朧に謝罪に来たのだから許してもらえるかという不安と緊張も強く、灯織くんの問いかけに幾度も頷くと彼は瞳を細め小さな声で「おれも」と零した。

 

「灯織くんも緊張してるってこと?」

「今までの経験でなんとなくわかる。おれの力じゃどう足掻いたって敵わない。つまり、結界を破れる自信がない」

 

 数日前、風邪も治ったので朧に逢いに行こうと思う、と伝えたらついて行ってもいいかと聞いてきたのは灯織くんの方だ。

 一瞬また喧嘩を売るんじゃないかと疑いの眼差しを向けてしまったのだが彼は意に介することなく「二人で行った方が仲直りしたという説得力があるだろ」と言ったのでそれに納得し、一緒に来てもらったのだ。

 だから緊張しているという理由もわからなかったが、その言葉で思い出したことがある。

 

「お前みたいな成り損ないにゃあ、もう二度と潜れんよ」

 

 灯織くん、遊羅くんに軽々と蹴り飛ばされた上そんなこと言われてたなと。

 灯織くんは院瀬見家は祓い屋の中でも名家だと言っていたが彼自身の実力も、本当のところでの遊羅くんの強さも理解していないが敵うと思って喧嘩を売っていたならそれなりに自信はあったのだろう。

 それをあんな易々と破られてはそりゃあ自信も喪失するだろうが、それでも今日こうして一緒に来てくれた。

 きっと本当は端からオレが鳥居を潜れるようにする為について来てくれたのだろう。

 

「まあでも充くんに怪我させずに来たのを知らせるくらいはできると思うよ」

 

 灯織くんは照れくさそうに首を少しだけ傾けると手元でいじくっていた薄い紙をくしゃくしゃと握り潰し、それを鳥居へと向かって投げる。

 火花を散らせて弾けたのを見て自分があれになっていたのかと思うと想像を絶したが「あれはワザとだから」と言われ少しホッとした。

 

「性懲りもなく祓い屋連れてきて、なにしに来たんだぁお前」

 

 暫くなんの反応もなくてもう顔を合わせてももらえないのかと不安に思い始めた頃、のそのそと遊羅くんが出てきた。

 オレの隣にいる灯織くんを見てはどういうつもりだと睨み付けてくる眼光に強い怒気が籠っていて一瞬怯んだが、ぶんぶんと頭を振り恐怖を散らす。

 

「この前と同じ、朧に謝りに来た!」

「だのになぁんで祓い屋がいる?」

 

 ここに来る理由ならこの前から変わっていないと声を上げたが、遊羅くんの声は冷たいままだ。

 その低い声に思わずヒュッ、と喉が鳴ったのを聞いてか灯織くんがオレの前に手を出した。

 

「おれが勝手について来た。個人的に貴方に言いたいことがあったから」

「言いたいことだぁ? しゆを惑わすなだの取り憑くなだの囲うなだのしょうもないことをか」

「おれはまだそうだって言ってやりたいけどね」

「あ゛ぁ!?」

「灯織くんっ!」

 

 オレを庇おうとしているのだろうが、同時に喧嘩を売っているようにも聞こえるので遊羅くんの怒りが爆発する前に止めようとすると灯織くんはこちらを振り返ってにこりと笑った。

 

「おれは自分たちの道理を押し付ける妖を許すつもりはない。でもおれは祓い屋であることより充くんの友人として彼の想いを尊重することにした」

「友人? 尊重ぉ? 成り損ないの祓い屋が人の子につくっていうのか」

 

 灯織くんの言葉に遊羅くんの顔には「道理を押し付けてんのはどっちだよ」と浮かんだがそれよりも言いたいことがあったのか、どの存在としても中途半端だからこそ信用できぬと吐き捨てた。

 いくら遊羅くんとは言えそれは言い過ぎだと反論しようとしたが、灯織くんが笑みを浮かべたのを見て浮かんだ言葉が消えていく。

 

「祓い屋としても、妖としても人の子としても成り損ないだからできることだ」

 

 そのせいで辛いのだと口にしたのと同一人物とは思えぬ表情に、遊羅くんも絶句していた。

 まあその眼差しには「正気か?」と浮かんでいて、怪訝というよりはドン引きしていたと表現した方が近いが。

 

「なので祓い屋として今後おれはここに来ない。ただそちらが充くんの想いを蔑ろにするようなことがあればこちらも黙ってはいない」

 

 遊羅くんが黙ったのを好機と見た灯織くんは言いたいことを言うと、満足したのか「後は頑張って」とオレの肩を叩いていなくなってしまった。

 見るからに機嫌を損ねた遊羅くんと二人きりで残されてどうするべきかと思案していたら、怒りに我を忘れていた遊羅くんはなにかを思い付いたように社の方へと駆けていくと小さめのツボを持って戻ってくる。

 そしてオレが目の前にいるのも構わず、大きく腕を振って中の塩を振り撒いた。

 

「道理押し付けてんのは手前だろうが! 言いたいことだけ言って帰りやがって! だから祓い屋は嫌いなんだよ! くたばれ!」

 

 普段の飄々と、それでいてゆったりと喋っているのから想像できないくらい早口で捲し立てる遊羅くんに相当のお怒りだというのはわかったが本気で拒絶しているのとは違うのも理解できる。

 だって遊羅くんが本当に怒った時は足元に暗く黒い影が這うから。

 沸き立つ苛立ちをどうにも出来ぬといった様子の遊羅くんを落ち着かせたのは、彼の名をいつもと同じように呼んだダンくんの声だった。

 

「オレが戻るまで出てくんなっつったろ」

「気配なんてねえよ」

 

 遊羅くんの低い声にもダンくんは誰に言ってんだとでも言いたげな口振りで笑っては自分の足元を差して「出てないし」と玄関の戸を開けただけだと主張した。

 そういうことじゃないと思ったのはオレも遊羅くんも同じだが、毒気を抜かれたのか遊羅くんは深く息を吐くとオレの方へ再度振り返り、そちらへ来るように手招く。

 

「朧に逢うんだろぉ」

 

 術が解けているのかどうかの確信がなく、潜れるのかという不安が過ぎるが遠回しに「それぐらいできないで朧に逢うつもりなのか」と問われ、意を決する。

 痛みさえ堪えれば遊羅くんがどうとでもしてくれるだろうと自分に言い聞かせ、オレは一歩足を踏み出した。

 

「ぎ、ぃぃっ……!」

 

 前回と同じように激しい電撃が走ったが見えない壁はない。

 両腕を前にしながらなんとか潜り抜けたが、あまりの痛みで立っていられない。

 膝ががくんっと折れるとオレの体はそのまま地面へと崩れ落ちる。

 目だけを動かして遊羅くんを探したら、酷く意地の悪い顔で笑っている彼と目が合いオレの意識はそこで途切れた。

 

 *

 

 素肌の上をなにかが這っていく感覚に瞼を持ち上げる。

 

「ここは……?」

「中だよ」

 

 見覚えがあるようなないような天井をぼんやりと見上げつつ独り言つと、傍からダンくんの声が聞こえオレは大急ぎで上体を起こした。

 

「い゛っ、だだっ!」

「暫く残るぞ気を付けろよ」

「朧っ!」

 

 全身を駆け巡っていく痛みに呻くオレにダンくんは慌てるなと声をかけてくれたが、オレの頭に過ぎったのは朧のことで辺りを見回して名前を呼べばすぐ近くから「いるよ」という落ち着いた声が聞こえる。

 目の前にある円卓と、見覚えのある部屋にここがいつも通される茶の間だと理解した。

 

「元気だな」

 

 知らぬ場所ではないことと社の中に入れたということに安堵していると、べしんっと勢いよく額を叩かれる。

 その声と手の主は遊羅くんで、なにか紙のようなものを張られたんだとわかったがそれは瞬く間にすぅっと消えてしまった。

 なにをしたのかと問おうとしたが、面倒そうに立ち上がる遊羅くんに「なにしに来たんだよ」と眼差しだけで言われオレは体の向きを朧の方へと向ける。

 

「朧、この前は気を悪くすることを言ってごめん」

「オレの機嫌を損ねたことを謝ってんの?」

 

 まずは謝罪と思って頭を下げたが、そんなこと謝りに来たのと吐き捨てられこんな時に思うようなことじゃないんだろうが道理の通じない妖相手と喧嘩しているとは思えない。

 人の形をしているから通じるような気がしてしまうのかもしれないが、それこそお互い様なのだろうか。

 オレは頭を上げて朧の言葉に首を振るが、朧は納得していませんよって顔だ。

 

「あの時の答えが朧が望んだものじゃないってわかってる。でも考えを変えることはない」

 

 今もう一度同じように言われたとしても、オレは同じように返すと告げれば朧は表情を歪めた。

 強情で融通が利かないと罵られても変わらない。オレは朧の望むような言葉をかけてあげられない。だってそれは嘘を吐くことになるから。

 だがそれが嫌でわざと話を逸らした自覚はあるのでもう一度「ごめんなさい」と頭を下げれば朧がため息を吐いたのが聞こえた。

 

「それでもオレは朧が好きだ」

 

 呆れられたのは確かで、失望されたのかもしれないが謝罪と同じくらい大事だと思っていることを伝えなくてはと想いが変わらぬことを告げたら朧はオレを見た目を一瞬だけ丸くした。

 

「お前は変なやつだよしゆ。そんだけ謝ってんのに好きでいてもいいかとは聞かんのか」

「遊羅くんの気持ちをオレには決められないように、オレの一方的な恋心だってどうするかは遊羅くんにも朧にも決められないよ」

「それはそうだな。でもここで記憶を消されても同じこと言えんのか?」

 

 請わないのかと問われたが、気持ちに対しての許可なんて無意味だと返せば遊羅くんは肩を揺らして笑い、それはどんなことが起こっても不変かと問うのでオレはすぐに首を振る。

 

「例え想いが勝っていたとしても妖の理不尽な力を破れるとは思えない」

 

 理想を言えば破れたらいいとは思う、けれどオレは妖が視えるだけでその力に勝る術は持たない。

 社に繋がる鳥居を潜れないのと同じだから無理だよとハッキリ言えば遊羅くんは「なるほど」とオレが答えたということに対してだけ頷いていた。

 

「だからあるのは今この瞬間は、オレは朧を好きだって事実だけだよ」

 

 たらればだって垂れるつもりはないよと言い足せば機嫌よさそうにしていた遊羅くんの動きが止まり、不満そうに片眉が上がる。

 徐々に呆れと苛立ちが募っていく空気を最初に破ったのは朧の「ふうん」という声だった。

 

「人の子ってのは夢理想を語るばかりの勝手な生き物だと思ってた。人の子が語るそれを喜んだり信じたりする妖も少なくない」

「絶対しないかって聞かれると難しいけど、でも今の遊羅くんの質問に関してはそうだって言うしかできないよ。オレに特別な力はない」

 

 ぽつりと零す朧の言葉を否定はできない。オレにだって願望ならいくらだってあるし、そういう甘い言葉を囁かれて心が揺らぐのは妖だけではない。人同士でも同じだ。

 だがそれを語らぬことは諦めとは違う、けれどどうしたって敵わぬ理不尽はある。それをないことにはできないと返せば朧は「うん」と小さく頷いた。

 

「しゆはオレを好きだと言うし、今ここにある事実だと言う。でも遊羅の言葉には敵わぬと首を振る。しゆはいつだってそうだ。どこかに必ず現実の一線を引く」

「うぅん? そう?」

「うん。だからこそオレは今の充の言葉の方が信じられる……否、信じてもいいかって気になった」

 

 理想を語らい過ぎないと言われ、リアリストだと言われることに喜べばいいのかどうかオレには判断が付かない。

 自覚がないからどこか他人事のようにも思えるが、それが朧の信用に値すると返されたら嬉しくないわけがない。

 だが許されたわけではないのだからへらへらするわけにはいかないと喜びを噛み締めていたら、それを見た朧が小さくため息を吐きすぐに可笑しそうに肩を揺らした。

 

「許す許さないでいうなら許したわけじゃない。でも、もういいよ」

 

 納得をしたわけではないと零しつつ、怒ってはいないからとオレを見て言う朧に顔が勝手に綻んでいく。

 へにゃへにゃと力が抜けていってへらへら笑っていると思うのにそれを謝るよりも先に目の奥が熱くなってオレは慌てて両手で顔を覆った。

 

「なんだぁ、泣いてんのか?」

「泣きそうだけど泣いてない。ただ自分でもどんな顔してるかわからないから」

 

 オレを揶揄する遊羅くんに、泣いていないのも、情けないのもわかるし、自分でも想像できない表情をしているのはわかるがそれを見られるのが恥ずかしいと首を振れば「ははっ」と笑う声がして、一瞬の間の後突然手首を掴まれる。

 

「なになにっ!」

「しゆの顔見たい」

「いくら朧のお願いでもそれはちょっと」

「遊羅、しゆが顔見せてくれたらオレ【許す】よ」

「だってよぉしゆ」

「なにそれ狡いっ!」

 

 誰の手だったのかわからなかったがその答えはすぐに出た。

 興味本位か、ちょっとした復讐心かはわからないがどちらもだったのかもしれない。ただ遊羅くんに話しかける声がいつもと変わらぬものに戻っていて安堵はする。

 それで出禁を解く条件にするのは狡いと訴えるも、ダンくんに冷静な声で「大人しく観念しとけ」と言われると自分の情けなさに拍車がかかってオレは渋々と両手を退けた。

 

「別にいつもと変わらないじゃん」

「それはそれでどうなの……」

「オレは別に出禁続行でも構わないけどなぁ」

 

 遮るものがなくなったオレの顔を見て朧はなんだと落胆の声を落とし、それに落ち込むオレに遊羅くんが追い打ちをかけるが朧は首を振って返す。

 

「だからいいよ、もう」

 

 突き放すのとは遠く異なる「もういいよ」という言葉に胸にぴちょん、と一滴の水が落ちる。

 水面を揺らし、波紋を広げていくこの気持ちをどう表現すればいいのだろう。

 そんなオレを他所に朧の言葉に「わかってるよ」と返す遊羅くんの声を聞いてダンくんが「ほら」と言って来客用の湯飲みに淹れたお茶を出してくれた。

 

「あ、ありがとう」

「可愛い朧に言われちゃ遊羅の強さも怖ろしさも形無しだ。よかったな、しゆ」

 

 それにお礼を言うとダンくんに声をかけられたけど、どこか棘を感じるから遊羅くんほどじゃなくても大事な朧を傷付けたことを彼も怒っていたのだと理解する。

 何故だろう、一番怒らせたら怖いのダンくんなんじゃないのかな。なんか怒らせたらいけないって警報が鳴るので掠れた声で「ごめんなさい」と告げたらダンくんはなんのことだと言いたげに肩を竦めた。

 

 *

 

 オレがお茶を飲み干す頃には社の中はすっかりいつも通りになっていた。

 朧とダンくんが部屋を離れたのを見て、オレは横たわりながら煙管を吹かしている遊羅くんに声をかける。

 

「オレ、また社に来ていいんだよね?」

「朧が【許す】って言うから仕方なくだ。オレは端からおいでませとは言っちゃいない」

「次からは前みたいに入って来られるんだよね?」

 

 社の主は遊羅くんなので自分の勘違いでないか相違ないように確認したが、イマイチ通じず歓迎したことなどないと吐き捨てられてしまった。

 それはそうだが、入れるにしても今日みたいなことにはもうならないだろうかと問えば遊羅くんは煙を吐き、面倒そうに上体を起こしてオレを見やる。

 

「あれがあったら怖くて来れねえか?」

「怖いけど、入れるんだったらオレは来るよ」

 

 あの痛みがないに越したことはないが来ない理由にはならないと思うと返せば遊羅くんは「だから来なくたっていいのに」とぶつくさ言いながらもため息を吐き、鬱陶しそうに手を払った。

 

「なら好きに入ってきたらいいだろ。あの成り損ないには一生かかっても上書き出来ねえだろうが、オレには出来るんだよぉ。オレのかけた術だからねぇ」

 

 解いたとは言いたくないのか遊羅くんは絶対にそうだと口にはしないが、恐らくこの感じから次からは以前と同じように入れると思ってよさそうだ。

 

「遊羅くんは、灯織くんが半妖だってわかってたんだよね? 前逢った時から?」

 

 嫌いな祓い屋を追い払って機嫌がいいのか鼻を鳴らす遊羅くんに、そういう話をしていた様子はないが彼の正体には見当がついていたようなのでわかっていたのかと問えば話題が不満なのかその顔はまた不機嫌に歪んでしまった。

 

「お前だって、あいつを見て『周りとなんか違うな』って思ったりするだろ」

「うーん、綺麗だなあとか儚い印象を受けるなぁとかがそうだって言うならそうかもしれないけど」

「まあしゆはよく視えるもんしか視えないからな。半分人の子ならそうかもな」

「オレがそう感じることとなんか関係あるの?」

「そういう気配がオレたち妖には人の子よりよく見えるってだけだよ」

 

 オレが灯織くんに思うことくらいなら似たようなことを感じる人は他にもいるから判断材料になるのかと思いつつ遊羅くんの問いに答える。

 灯織くん自身も自分が半妖であることを「中途半端だ」と言っていたが、人間でいえばハーフとかって感覚に近いのかもしれない。人間からすると妖の存在は認識できないことの方が多いから、両方を知る妖からすれば人の子じゃないもう半分の正体がなにかわかるってことなんだろうな。

 彼のことを調べたとかではなく見ればわかることならまあ仕方がないことだと納得できる。プライドを傷つけるとわかって侮辱したのはよくないが灯織くんも祓い屋として喧嘩は売っていたからこの件にオレがどうこういうのはやめておこう。

 

「灯織くんは生まれた時からそのどちらでもないことを嘆いていたけど、例えばオレがずっと社にいたいってなったら……それは人の道理を外れるってことなんだよね」

 

 灯織くんにとってそれは避けられないものであったが、オレが望んだからって彼と同じになるということではないのだろうなとぽつりと零せば遊羅くんは思案するようにオレから視線を逸らした。

 

「朧ぉ」

「なに?」

「わっ、おかえり」

「しゆ、おやつ」

 

 無言の時間を先に破ったのは遊羅くんで、朧を呼ぶ声に姿が見えぬからだと思ったが違った。すぐそこまで戻ってきたからだった。

 近付いてくる気配も気付かず驚いているオレに朧は意に介した様子もなくおやつ、と言って少し大きめの饅頭をひとつくれる。

 そしてそれからすぐにダンくんもお茶のお代わりを持って戻ってきた。

 

「通行証、またくれてやるから仲直りにしゆと出かけておいでぇ。なんか美味しいもの奢ってもらいなぁ」

「え゛っ」

「なぁしゆ」

 

 突然またデートに行って来いと言われ、なんでそんなこと言い出してるのか理解が追い付かず驚いてあんこが変なところに入った。

 目尻に涙を溜めながらえほえほと咳き込むオレに構わず遊羅くんは首を傾げて見せるが、一体なにを考えてるんだろうか。何一つさっきの答えにもなってないし。

 

「なに、可愛い朧に奢る気ないって?」

「奢るよ。奢るのが嫌ともデートが嫌とも言ってない」

 

 朧の相手をするのが嫌だってかって態度になんなんだよと多少の苛立ちは覚えるが、嫌なわけはないだろうと首を振れば遊羅くんは納得したように朧に「なぁ」と声をかけるが朧もなんでそんなこと言い出してるのか意味がわからないって顔だ。

 ただオレも似たような表情をしているせいかこっちを見てすぐにオレが言い出したことじゃないんだなと伝わっていたのは嬉しいし普通にありがたい。

 

「よくわからないけど、遊羅が面倒くさいからいいよ」

 

 意味がわからないからとか、仲直りなんて大層なことじゃないとか言って面倒がると思ったから朧がそんなあっさりいいよと言うとは思わなかった。

 その理由が遊羅くんが面倒だからというものでも。

 オッケーをもらったんだというのを理解できずに頭上に疑問符を浮かべるばかりのオレに「行かないの?」と問う朧に慌てて首を振る。

 

 何故こんな事態になったのか、遊羅くんがなにを目論んでいるのかオレには想像にも及ばないがとんとん拍子に朧とのデートがまた決まってしまったらしい。

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