第六話 事件の真相とぬいぐるみグループ (4/4)
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翌日、谷口さんは学校に来ていた。
私が教室に入ると、振り返った谷口さんと一瞬目が合った。
ランドセルをロッカーに入れて席に着くと、谷口さんが手紙を差し出してきた。
「これ、その……お願いしていいかな」
私あての手紙のほかに、咲歩と颯太くんにあてたものがある。
「あ、うん。いいよ」
二人に渡してってことかな?
「中身はみんな一緒だから、ダメだったら教えてくれる?」
そう言って谷口さんは席に戻った。
えっと、私のを読めば他の二人の中身もわかるってことだよね。
開けてみると『話があるので放課後、第二音楽室前に来てほしい』という内容だった。
そっか。放課後までに二人に連絡を回して、放課後の都合の悪い子がいたら知らせてってことかな?
先生が来るまでにはもう少し時間がありそうだったので、私は早速手紙を持って、となりの三組に向かう。
「分かりました。ええ、大丈夫ですよ」
「ん、分かった。今日は別に何もねーから」
二人にOKをもらって、教室に戻ると先生が来た。
五分休みに谷口さんに伝えると、ホッとしたような、かえって緊張したような、複雑そうな顔をした。
授業中、斜め前の谷口さんの背中をつい眺めてしまう。
谷口さんは今、どんな気持ちで授業を受けてるのかな。
逃げ出したい気持ちをこらえて、学校にきたんだろうな……。
何だかいつもより長く感じた一日の、六時間目のチャイムが鳴る。
私はうわの空で帰りの会を済ませると、咲歩たちと一緒に第二音楽室に向かった。
ランドセルにはセオルも入っている。
第二音楽室の前の廊下には、私たち以外誰もいなかった。
「内野さん……、写真をとってしまって、ごめんなさい」
咲歩に頭を下げる谷口さんの後ろには、岩﨑さんも立っていた。
谷口さんの足は、私からみてもわかるくらい震えていた。
「千山さんも、樹生さんも、ごめんなさい……」
セオルの話では、谷口さんは私と颯太くんのケガに責任を感じているのだろう。ということだった。
「私たちのケガは、谷口さんのせいじゃないよ」
私が言うと、谷口さんは「でも……」とだけ言った。
「別に、もう気にしてねーし。もう二度と、こんなことすんなよ」
颯太くんはぶっきらぼうに、でも意外と優しい声でそう言った。
「どうして、私の写真をとったんですか?」
咲歩が静かにたずねる。
谷口さんは、泣きそうな声で話し始めた。
幼稚園の頃からずっと咲歩のファンだったこと、水着の写真はいつも隠れている目がチラ見えしていて、ものすごく可愛かったこと、それがどうしても欲しくて、盗んでしまったこと。
火曜日は、図書の時間と音楽の時間で三組に教室移動が二回あるから、その日のうちに写真をスマホで撮影して返せると思っていたこと。
なのに、爆破予告のせいで時間割が変わってしまい、返しそびれてしまったこと。
「そんなにほしいと思っていたなら、どうして、私に直接話してくれなかったんですか?」
「それ、は……」
谷口さんの声が大きく震える。
「内野さん、に、きらわれるのが、怖くて……」
ポタリ。と涙が廊下に落ちる。
泣き出してしまった谷口さんの背中を、岩崎さんがそっと撫でる。
咲歩が静かにため息をついたのが、肩の動きでわかった。
「よくわかりました」
くるりと咲歩がこちらを振り返る。
「千山さんはいいんですか?」
颯太くんは少しだけ考えてから「いーよ」と返事をした。
「スマホで撮影した画像は消していただけますか」と言う咲歩に、谷口さんが泣きながらもう消したと返す。
「でしたら、この件はこれで終わりにしましょう」
咲歩はそう答えると、谷口さん達に背を向けて歩き出した。
私は、谷口さんになにか声をかけようと思ったんだけど、いい言葉が思いつかなくて「また明日、学校でね」と言って別れた。
だって、気にしないでっていうのも、元気出してっていうのも、違う気がしたから。
先を歩く咲歩たちに追いつくと、颯太くんが颯太くんにしては小さな声で話しかけてきた。
「内野さんて、意外と厳しーよな」
「え、そうかな?」
咲歩は谷口さんをののしるような事は何も言わなかったし、先生に言うつもりもなさそうだけど……?
「一度も許さなかったろ」
言われて、確かに咲歩は「いいよ」とかそんな言葉は一言も言わなかったな、と思う。
咲歩が足を止めると、振り返る。
「私は、迂闊な行動でみこちゃんたちにケガをさせた千山さんのことも許してませんよ?」
「……げ、マジか」
咲歩のにっこり笑う口元と、セリフが合ってなくてちょっと怖い。
「まあまあ、それはもういいよ。ほら、私たちせっかく同じグループなんだし、仲良くしようよ」と言う私に、咲歩は「……みこちゃんがそう言うなら、今回だけはみこちゃんの顔を立てることにします」と不服そうに言った。
「それよりさ、さっきの、そーたくんは何が『いーよ』だったの?」
私は慌てて話を戻す。
「あー、あれな」
「あれは、千山さんは皆の前で汚名を返上する必要があるのでは? という問いでした」
そっか、私達が谷口さんのことを先生に言わないなら、三組の子の中では颯太くんが容疑者のままなんだ。
「このままでよかったの?」
「このままにしてなきゃ、あの子が叩かれんだろ」
それは、まあ……。人の物を盗んだわけだしね。
「俺は、真相が分かったしもういーよ」
真相、かぁ……。
そういえば、私も一つ気になってたことがあるんだよね。
「そーたくんはさ、なんであの時咲歩と『仲良くない』って言わなかったの?」
「は? そんなん、知り合いに仲良くないなんて言われたくねーだろ」
「え、それだけ?」
「ん? 他になんかあんのかよ」
「そーたくんって、意外といい人だよね」
私が思わずそう言うと、咲歩もうなずいた。
「いい人でしょう? 意外と」
「意外とってなんだよ」
「だって、わたしよく睨まれてたし。声おっきいし」
「はぁ? 睨んだことなんて……。あー……。……確かにあるか」
颯太くんはしばらく考えてから、素直に罪をみとめた。
「悪ぃな」
この言葉も、もう何回も聞いたなぁ。
短い言葉だけど、颯太くんはちゃんと謝ることができる人なんだよね。
「みこちゃん、もしみこちゃんが岩崎さんの立場なら、どうしましたか?」
不意に咲歩がたずねる。
「私? 私なら、谷口さんと一緒に水着の写真買わせてくださいって言いに行くかな」
「ふふ、そう言うと思ってました」
……じゃあ何で聞いたの?
私の不満を気にする様子もなく、咲歩は何だか満足そうに微笑んでいる。
「俺なら、アホかってどつくけどな」
「千山さんらしいですね」
「だって内野さんはもう、そーいう業界からは足洗ってんだろ?」
「どういう業界ですか、人聞きが悪いですよ」
「一般人相手にいつまでも未練がましいんだよ。もう忘れろっての」
「そうですね……。ですが憧れの人の写真がほしい気持ちというのも、憧れの人を忘れられない気持ちというのも、私はよくわかるんですよね」
……それってセオルの事なのかな?
「俺にはわかんねーな」
相変わらず大きな独り言。
「では千山さんの場合は、とんでもなく美しいレースの写真だと思ってください」
「それは見たい!」
颯太くんがあまりに力強く即答するので、私たちは笑ってしまった。
「これで写真盗難事件は解決だね」
「みこちゃんには長らくお付き合いいただき、ありがとうございました」
「あんまスカッとしねー解決だけどな」
「いっそあの爆弾犯が写真泥棒なら、スッキリしたのですが」
「でも、わたし楽しかったよ! ぷっぷちゃんやセオルと一緒に捜査してドキドキしたし、そーたくんとも仲良くなれたし!」
「……私は、みこちゃんがいつの間にか千山さんを親しげに呼ぶようになってしまって、とても残念です」
「残念なの!?」
「千山さんを呼ぶ度に睨まれて困惑しているみこちゃんが、小動物みたいで可愛らしかったのに……」
「し、知ってたなら教えてよ!?」
あれ? 颯太くんは何も言わないの?
そう思って見たら、颯太くんは何故か顔を赤くしていた。
「卒業制作が楽しみですね」
咲歩に言われて、私もそう思う。
この三人でなら、きっと一人ではできないものが作れそうだ。
「うんっ、卒業制作、すっごい大作を作ろうね!」
気合を入れて言うと、咲歩も颯太くんも笑顔で応えた。




