第四話 夜の学校と爆弾 (1/4)
家に帰ると、私はいつものように、おやつを食べて宿題を済ませた。
そうしないと、ぞうさんが宿題は? 宿題は? ってずっと聞いてくるからのんびり遊べないんだよね。
テレビでも見ようかなと思ったら、テレビの横のマガジンラックに立ってる手芸雑誌が目についた。これはお母さんが毎月買ってる手芸雑誌なんだよね。私は雑誌を手に取るとパラパラとめくってみる。
あった。これだ。レース刺繍。
そのページの一番大きな写真には、薄くて軽そうなふわふわの生地に、紫色した可愛いお花が繊細なタッチで刺繍されていて、まるで花畑のようだった。
うわぁ、すごいなぁ……。とってもきれいだ……。
この刺繍は、花嫁さんのウエディングドレスになるんだって。
千山くんはこういうのが作りたいのかな?
私、レースって一色でできてるものばっかりだと思ってたけど、刺繍なら確かに色んな色が使えるもんね。
私もうさぎちゃんも、きれいだねってしばらくそのページをうっとり眺めていた。
「みこと、六時を過ぎたよ」
ぞうさんの声で私はハッと時計を見上げる。そろそろお風呂の準備をしておかないと。お母さんが帰ってすぐご飯を作れるように、四年の頃から私はお母さんが帰るまでにお風呂を沸かしておく係なんだ。
お風呂掃除をしてお風呂の自動ボタンを押したとき、電話が鳴った。
ディスプレイには『内野さん』と書かれている、咲歩だ。
「もしもし、さーちゃ……」
「みこちゃん大変ですっ! 千山さんが一人で不審者を追って小学校に入ってしまいました!!」
え……?
咲歩の話では、塾帰りに二人が学校の向かいの道に出た時、下校のときに見た不審者が辺りをうかがいながら、フェンスの向こうにこっそり何か荷物を下ろしたのが見えたらしい。
大人の人に知らせようかと話していたら、不審者もフェンスを乗り越えて学校に入ってしまい、なんと千山くんまでそれを追いかけて学校に入ってしまったらしい。
「ど、どうしましょうみこちゃんっ。私はどうしたら……っっ。け、警察に連絡した方が……いいんでしょうか……」
「えっ、そうだよね、連絡したほうが……」
いいとは思うけど、どうなんだろう。とちょっと悩んだ私の目の前、電話の上にちょこんとセオルが飛び乗って、大きく頷く。
受話器の向こうでカチャン、と小さな鍵の音がする。
「あっ、今親が帰ってきました!」
「じゃあ警察とか学校に連絡するのは咲歩に任せるね」
「は、はいっ!」
咲歩は力強く返事をして、電話を切った。
「千山くん、大丈夫かな……」
うちのお母さんが帰ってくるまではまだ三十分以上ある。
私には、今何ができるのかな。
「ボクたちも行こう」
セオルがそう言ってランドセルの蓋を開けた。
「「「え、ええっ!?」」」
私とぞうさんとうさぎちゃんの声が重なる。
「千山少年が心配だよ」
「そ、それはそうだけど……」
「彼にどんな危機が降りかかるか、想像できるかい?」
「……」
不審者は何を目的にしてるのか分からない。
もし千山くんが不審者に見つかったら、殴られたり……ううん、殺されてしまう可能性だって……。
そんなの、私は絶対嫌だ。
「わ、わかった。行くよ」
「みこと!?」「みこちゃん、危ないよぅ!」
ぞうさんとうさぎちゃんが慌てる。
「二人はお家で待ってて。お母さんが帰ったらこの事を伝えてくれる?」
言いながら、私はセオルが入ったランドセルをせおった。
早く千山くんを助けに行かないと。
「そ、そんなの危ないってば!」
うさぎちゃんが私を止めようとするけど、私は構わず玄関に向かう。
「仕方ない。みことがどうしても行くなら、僕も行くよ」
「え?」
おどろいて振り返った私の胸に、ぞうさんが飛び込んでくる。
ぞうさんはランドセルに入らないから、このまま抱えていこう。
「じゃあうさぎちゃん、あとはよろしくっ」
「みっ、みこちゃんっ、ぞうさんんんんんっっ」
閉まるドアの向こうにうさぎちゃんの悲鳴を残して、私はかけ出した。




