パリテドの町に到着
翌日、私たちは無事にカースの町から出ることができた。
入るときは沢山の女性たちが待ち構えていたが、出るときは誰もおらずに私は安堵した。
警備兵は大忙しであったろう。原因は私ではないが申し訳なく思う。
朝早くに出たという事もあって、人や魔族は数える程度しかいなかった。
物資の買い出しもしたし、次のパリテドの町への経路もしっかり押さえてある。
カースの町から森を抜けて下って行った先にパリテドの町がある。また半日程歩けばつくはずだ。
ただ、今までと違い、私は列の最後尾を歩いていた。
今までは私はトムを見失わないように前の方を歩いていたが、私はアーサーが恐ろしくて背中を見せられなくなっていた。
今までの旅のことを考えれば、アーサーが私たちに無差別的に切害を加えてくるとは思わなかったが、もう全く信用できない状態だ。
――アーサーには普段見せない裏の顔がある
バリズもマチルダもアーサーにとって都合の悪い記憶を消された。
もしかしたら、私も何か記憶を消されているかもしれないとすら考えてしまう。
それ自体の記憶を消されているのだから、私もそれは分からないだろう。
だが、振り返ってみて記憶の妙な途切れ方はしていない。
――しかし、油断できない
アーサーの裏の顔を知っているのは今は私だけだ。
これからアーサーのおかしな行動を見たとしても、アーサーに悟られないようにしよう。
気づかなかったフリをすれば、なんとか逃れられると思いたい。
カースの町からパリテドの町まではいくつか道があったが、1番利用されている道を通ることにした。
魔族の領土がかなり近いということもあり、幾度となく魔族らとすれ違った。
物資を持っていたので、恐らくカースの町へと向かっているのだろう。
襲われる可能性を考え、最後尾で背後を警戒しながら歩いていたが、やはり魔族が襲ってくることはなかった。
道中、相変わらずマチルダとアーサーは頻繁に休みたがった。
マチルダは病み上がりなので仕方がない。下り坂が続くので足への負担も考え、こまめに休憩をとりながらパリテドの町を目指した。
休憩の際には私は世界樹の枝(と、思われる枝)を取りだし、日の光を枝と葉に当ててあげた。
雨水を与えるように言われたが、ここ最近に雨は降るだろうか。
――しかし、何故雨水なのだろう
川の水でも井戸水でも何でもいいように思っていたが、高級な水を取り扱うトムがそう言うのなら水にも違いがあるはずだ。言う通りにしようと思う。
***
道中は特に何も問題はなく、日が落ちる前にはパリテドの町付近へと到着した。
アーサーを追いかけてきたような素振りの女性がいないかどうか調べ、それらしい人がいなかったので私たちは町へと入る。
パリテドの町はカースの町より一層、魔族が多い印象を受けた。それも屈強な高位、中位魔族が沢山いる。
かなり家屋も多く、店も沢山あった。高い建物が沢山建っていてかなり広い町である。
しかし、それに驚くなかれ。
もう目視できる距離にパンデモニウムの巨大都市が見えていた。
それなりに歩かなければ着かないだろうが、パンデモニウムは数キロ離れていても見えるほどの大都市であった。
私は鞄の中にフレイジャからの紹介状と羽根があることを再確認した。
フレイジャからの紹介状と羽根はちゃんと持ってるし、堂々と入ることができる。
「やっとついたー! マジ疲れたぜ……下り坂って結構しんどいな」
「ここが最後の補給地点ですね」
「で、ここの名物品は?」
恒例の、トムのご当地名物品紹介をバリズは求める。
「パリテドの町は日が落ちたら外に出たらいけませんよ」
「……?」
てっきりご当地名産品を口に出すと思って期待していた私とバリズは、キョトンとしてトムの方を見つめた。
「どういうことだ?」
「パリテドの町はスラムから比較的近い場所にあるので、とは言っても離れている方ですが……治安があまり良くないです。夜に外を歩いていたら追剥に遭う方がとても多いのです。昼間もスリには要注意ですね。食べ物の話よりもまずその話をしておこうと思いまして」
「やべーじゃん! もう夕方だぜ!」
「なので、まずは宿をとりましょう」
特に宿を選ぶ際は、かなり高い料金を支払ってでもセキュリティがしっかりしている宿をとらないと、寝ている間に旅人の荷物が全部なくなっていたりするらしい。
悪質なところはスラムの無法者と結託していて、宿ぐるみで盗みを働いていると聞いた。
まさか、スラムの近くの町がそんなに物騒になっているとは思わなかった。
――トムから買った手紙を書いた少年は今も苦しい生活を送っているのだろうか……
トムがいなかったら、私はこの町で身ぐるみはがされていたかもしれない。
本当に道案内がいると助かる。
明らかに高価な料金の宿をトムは選んだ。
豪奢な飾りがされており、美しい調度品が硝子棚に飾られている宿だ。
何故この宿を選んだかと聞くと、この物騒な町でこれだけの飾りが全く盗まれていないという点において、セキュリティ面は完璧だという証明とのことだった。
表には屈強な魔族が警備を請け負っている様子で、確かにここに盗みに入るにはかなりの勇気がいるだろう。
表にいるのは魔王と同族の高位魔族の鬼族が2体。
鬼族の身体の大きさの平均値が分からないが、標準的な人間の1.5倍くらいはある。
おまけに、ここぞとばかりに鉄の武器を地面に突き立てて微動だにせず立っている。鬼族の力であの武器で殴られたらまず命はないだろう。
――これは確かに盗みに入れなそうな宿だ
もう日が落ちてしまったので、宿の中で食事を済ませた。
因みにトム曰く、パリテドの町の名物はチョコレートとのこと。
しかし、かなり目が覚めるチョコレートらしく、夜に食べない方が良いとトムは言っていた。




