不平等
旅立つ前に、同行する仲間が全員集められた。
王宮の一室で、大きな客間のテーブルに詰めて4人が座っている。
アーサー、バリズ、私、そして初めて会う女性が1人。
彼女は誰もが見とれるほどの美女であったが、実際に見とれてしまっては失礼なので軽く頭を下げる程度に留めて、私は用意された食事を意図的に見るようにした。目の前の食事は高級料理で、平民の私が普段食べているものとかけ離れている。
高級料理に私は意識を集中したものの、私の意識は高級料理など殆ど興味はなかった。こんな美女と一緒に旅をするなどと言われて、私は内心穏やかな気持ちではいられなかったのだ。
それは別に、私がその女性に一目惚れしたからという訳ではない。
断じて、そのようなことはない。
……と、言いたいが、女性経験のない私にとってはあまりに刺激が強かった。レオニスの町ではこれほどの美人には出会ったことがない。
「紹介するよ。魔法使いのマチルダだ」
「マチルダです。よろしくお願いします」
アーサーから紹介されて、愛想よく笑うマチルダの顔をおずおずと私は見た。目鼻立ちはぱっちりとしており、アーサーと同じく金色の美しい長い髪に、アーサーと同じ青い目をしている。同じ髪の色に同じ目の色、整った面立ちはアーサーとまるで兄弟姉妹と言われたら納得する程の美しい女性であった。
バリズは「俺はバリズ、よろしく」と軽く挨拶していたが、私はそんなふうにはできずに頭を下げる程度の挨拶をしただけだった。
「敬語は無しでいこうってこの前アーサーとユフェルと話したんだ。これから旅する仲間だからな。何でも気軽に話してくれよ」
「分かったわ。ありがとう」
マチルダが笑うと、そこに華やかに花が咲いているようで私の心臓の鼓動は早くなって考えがまとまらなくなってしまう。
こんな体験は初めてで、どう対処したらいいか分からない。
同じような状態になって私に診察を求めてきた男子もいたが「それは病気じゃない。恋だ。正常な状態だよ」なんて恋を知らない自分が言っていたその軽薄さに苛立ちすら覚える。
これは立派な異常事態だ。混乱し、いつもの自分でいられなくなる。その男子は「寝ても覚めてもその女性のことを考えてしまって、何も手につかない」などと言っていたが、それが事実だとしたらこの旅は私にとってかなり過酷なものになるだろう。
「マチルダもアーサー目当てで立候補した訳?」
直球でバリズがそう聞くと、マチルダは笑いながらそれを否定した。
「まさか。でも、少し合ってるかも」
それを聞いた私は肩がズーンと重くなったような気がした。
それはそうだろう。誰だってアーサーのような美しさと強さを持っている輝いた男性に惹かれるものだ。
私のような凡人など、最初から並んで歩くことができるような立場じゃない。
――そうさ。私など、マチルダさんに吊り合った男ではない
そう分かっていたのに私はマチルダを見た瞬間に突然舞い上がって、本当にどうかしている。
「私は魔法使いとしてアーサーから技を盗みたくて。アーサーは魔法の天才だから、私もそれを勉強したいの。今もそこそこの腕前なんだけど、アーサーには及ばない」
「へぇ。そんな殊勝な心掛けでね。アーサー目当てってそういうことか」
「まぁ、そんなところかしら。そちらは僧侶のユフェルさん……よね?」
急にマチルダから話しかけられて私はビクリと身体を小さく震わせた。
「は、はい。ユフェルと申します」
あまりにも急なことだったので私は声が上ずってしまった
変な声を出してしまったのでマチルダはそんな私のことを笑った。それが凄くショックだったが、すぐにマチルダは私のことを嘲笑した訳じゃないと分かった。
「ふふ、面白い人ね。よろしく、ユフェル」
「勿論。これからよろしく……マチルダ」
本当に私はマチルダのような眩しい人と一緒に旅ができるのだろうか。この先の事が心配でならない。
いや、別に……異性に対して外見で優劣をつけるのは紳士としてあるまじき行為だということは自覚しているが、現実では実際誰しも思ってることだ。表立って口にしないだけで。
誰しも私のような何の華もない男より、アーサーのような華々しい男が良いだろう。そしてその逆も然り、世の中の男性の大多数もマチルダのような美しい女性が良いと思っているだろう。
世の中とは残酷なものだ。
産まれた時から優劣が決まっているのだから。
私はその後の話し合いで事務的な話には参加できたが、マチルダを意識してしまってどうにもいつもの調子では話すことはできなかった。
***
会議をしてから3日程経った。
凡その旅の支度は整えられた。
ハッシュ精肉店からバリズには内緒で燻製肉を沢山仕入れておいたので、もし食料が足りなくなったらこの燻製肉を小出しにして飢えを凌ぐこともできる。
食べ物だけではなく、水も勿論手配しておいた。しかし、数か月分の水を持って行くのは無理があるので、町から町への道中に水源の確認も入念にしておいた。
川や湖がある道を選んで経路を作った。
もう他に準備することは何もない。
非常時の備えも不足はない。
しかし、準備も万端だと言うのに、アーサーはなかなか出発しようとしなかった。




